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マニアさん捜し③
しおりを挟むダイニングバーのドアをくぐると、コスプレ男たちの視線を全身に感じた。ざっと見た感じ、店内に若い女性はいない。私みたいな可愛い女の子はある意味、狼の群れに紛れ込んだ子羊なのかも。
ドキドキ。私は近くのソファに腰を下ろした。
ちなみに、私は頭や右目、身体のあちこちに包帯をグルグル巻きにしている。これ、わかる人にはわかると思うんだけど、一昔前のアニメキャラのコスプレのつもり。
さて、そろそろ情報収集するか。と腰を上げたところ、あっという間に男たちに取り囲まれ、フラッシュライトを浴びせられた。オタクパワーを見くびっていたかも。
それでも勇気を出して、中年男性のリアル・トトロに訊ねてみる。
「これって何の集まりなんですか?」
リアル・トトロの説明を要約すると、コスプレ同好会のオフ会だという。何だよ、見たまんまじゃない。メンバーのほとんどが30代から50代。皆、キチンとした定職を持ち、自由になる金があって、仕事上のストレスなどを解消するためのコスプレということらしい。
「ねぇ、何のコスなの?」振り向くと、タキシードを着たカバそっくりの男性がいた。
「綾波私服バージョン」
その返事に重々しく頷いたカバさんは、私をカウンターの奥へと誘った。顔に似合わず丁重な物腰だ。
カバさんは、このパーティの主催者で、二宮満太さんといった。
カバさんが『マニアの王様』を知っていたので、話は早い。私は名刺を出して、ここにやってきた理由を説明する。
「あのぉ、ユニークなマニアさんを紹介してもらえませんか?」
「メンバーの中にはかなりの確率で、そういったマニアさんはいるよ。でも、どんな人が理想なの?」
「ちょっと変わったものを集めていて、そのコレクションをからめたユニークなエピソードをもっているような」
「エピソードね。例えば、具体的に言うと?」
「例えば、コレクションのために離婚してしまったとか、会社を辞めちゃったとか、人生を棒に振ってしまったとか」
「うーん」
「……やっぱり、難しいですよね」
「うん、一人だけ選ぶのが難しい。ここにいるのは、そんな連中ばっかりだから」
え、本当に?
何となく、そうじゃないかと思ってました。妙に納得する私。
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