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A:居酒屋会談④
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「……」狗藤は眼を閉じて、情報を咀嚼した。
「言うまでもなかったかしら?」と、ベティ。
「いや、説明しておくべきですよ」と、教授。
狗藤は眉間に皺を寄せて考え込んでいたが、やがて喉の奥から言葉を絞り出した。
「……あの、まさか、〈クロガネ遣い〉の正体って、比企田教授だったんですか?」
「君のいう〈クロガネ〉が、神々の目を出し抜くシステムを指すのなら、その答えはイエスだね。君たちが捜していた〈クロガネ遣い〉は、この僕のことさ。ベティさんと手を組んで作り上げた、僕たちの〈クロガネ・システム〉は、完全無欠なのだよ」
教授は誇らしげに語り続ける。
「神々に目をつけられるのは、奪う側と奪われる側を直接つなぐからさ。僕に言わせれば、軽率に過ぎるね。間に複数の人間を挟み、いくつものルートで分散して、半永久的に循環させるべきだ。端的に言えば、真っ黒なカネが円滑に循環し続ける永久機関だね。これなら、誰の目にも、私利私欲とは映らない。むしろ、共存共栄と呼ぶにふさわしい」
教授によると、〈クロガネ〉の永久機関は、十数年の歳月を費やして完成したという。カネを無制限に生み続けるシステム。まさに、巨大な〈カネのなる木〉、スケールアップした〈打ち出の小槌〉である。
【弁天鍵】という万能ツールは、この国の裏と表をつないだ。裏のカネをスムースに表に出せるようにしたし、表のカネを裏に回して隠匿することも可能にした。もちろん、法律を無視した手法であるが、それが発覚することは絶対にありえない。
なぜなら、比企田教授のビジネスパートナーたちは、この国の重要なポストを占めているからである。警察庁長官や最高裁判事とは、ベティの仲介で出会うことができた。金融犯罪を取り締まる側が、システムの中に組み込まれているのだ。これでは、検挙されるワケがない。
セキュリティは万全。完全犯罪というわけだ。
他にもビジネスパートナーには、元日銀総裁、元経団連会長をはじめ、政界の若き風雲児や、カリスマIT長者、世界的なゲームメーカーの社長も顔をそろえていた。
彼らの共通点は、「カネが好き」という一点に尽きる。
〈クロガネ・ネットワーク〉は互いに鉄の絆を結び、完璧な機密保持を誇っていた。これまで情報漏洩はおろか、一人の裏切り者も出さずにきた。
はぐれ弁財天ベティと比企田教授のつくりあげたシステムは、セキュリティ面が完全無欠だった。事実、この十数年間、一柱の神も〈クロガネ・ネットワーク〉の存在に気づかなかったのだ。
カノンの類稀な嗅覚が、そのほころびを捕えるまでは。
狗藤の脳裏に、カノンの言葉が蘇る。
「〈クロガネ遣い〉を捕らえて、〈暗黒潮流〉を断ち切らないと、この国は遠からず、崩壊する」
カノンの言うとおり、日本経済は〈クロガネ・ネットワーク〉の食い物にされるのか?
狗藤に難しいことはわからない。だから、わかりやすいところから確認する。
「あのぅ、黒之原さんは〈クロガネ〉の件に関しては、全く無関係だったんですね」
「君の話があっちこっちに飛ぶね。でも、まぁ、そういうことだよ。黒之原くんほど、カネに汚い教え子はいなかった。お世辞にもスマートとはいえない。僕に言わせれば、ただの守銭奴だよ」
教授の言葉は、初めて耳にする辛らつさに満ちていた。だが、狗藤はもっと気になることがある。
「教授、教えてください。飲み会の会費、17万5000円を盗んだ犯人は、黒之原先輩じゃないですよね。あの人の心証は最悪だし、僕も疑っていましたけど、あのカネは盗んでいない。多くの人に話を聞きましたけど、皆、誰も集金箱に手を触れていないというんです」
教授は笑顔を浮かべて聞いている。
「でも、手を触れなくても、中のおカネを奪う方法が一つあります。【弁天鍵】ですよ。犯人は、神様のアイテムを使ったんですよ。でも、僕ではありません。もしかすると、犯人は、教授じゃないんですか?」
「言うまでもなかったかしら?」と、ベティ。
「いや、説明しておくべきですよ」と、教授。
狗藤は眉間に皺を寄せて考え込んでいたが、やがて喉の奥から言葉を絞り出した。
「……あの、まさか、〈クロガネ遣い〉の正体って、比企田教授だったんですか?」
「君のいう〈クロガネ〉が、神々の目を出し抜くシステムを指すのなら、その答えはイエスだね。君たちが捜していた〈クロガネ遣い〉は、この僕のことさ。ベティさんと手を組んで作り上げた、僕たちの〈クロガネ・システム〉は、完全無欠なのだよ」
教授は誇らしげに語り続ける。
「神々に目をつけられるのは、奪う側と奪われる側を直接つなぐからさ。僕に言わせれば、軽率に過ぎるね。間に複数の人間を挟み、いくつものルートで分散して、半永久的に循環させるべきだ。端的に言えば、真っ黒なカネが円滑に循環し続ける永久機関だね。これなら、誰の目にも、私利私欲とは映らない。むしろ、共存共栄と呼ぶにふさわしい」
教授によると、〈クロガネ〉の永久機関は、十数年の歳月を費やして完成したという。カネを無制限に生み続けるシステム。まさに、巨大な〈カネのなる木〉、スケールアップした〈打ち出の小槌〉である。
【弁天鍵】という万能ツールは、この国の裏と表をつないだ。裏のカネをスムースに表に出せるようにしたし、表のカネを裏に回して隠匿することも可能にした。もちろん、法律を無視した手法であるが、それが発覚することは絶対にありえない。
なぜなら、比企田教授のビジネスパートナーたちは、この国の重要なポストを占めているからである。警察庁長官や最高裁判事とは、ベティの仲介で出会うことができた。金融犯罪を取り締まる側が、システムの中に組み込まれているのだ。これでは、検挙されるワケがない。
セキュリティは万全。完全犯罪というわけだ。
他にもビジネスパートナーには、元日銀総裁、元経団連会長をはじめ、政界の若き風雲児や、カリスマIT長者、世界的なゲームメーカーの社長も顔をそろえていた。
彼らの共通点は、「カネが好き」という一点に尽きる。
〈クロガネ・ネットワーク〉は互いに鉄の絆を結び、完璧な機密保持を誇っていた。これまで情報漏洩はおろか、一人の裏切り者も出さずにきた。
はぐれ弁財天ベティと比企田教授のつくりあげたシステムは、セキュリティ面が完全無欠だった。事実、この十数年間、一柱の神も〈クロガネ・ネットワーク〉の存在に気づかなかったのだ。
カノンの類稀な嗅覚が、そのほころびを捕えるまでは。
狗藤の脳裏に、カノンの言葉が蘇る。
「〈クロガネ遣い〉を捕らえて、〈暗黒潮流〉を断ち切らないと、この国は遠からず、崩壊する」
カノンの言うとおり、日本経済は〈クロガネ・ネットワーク〉の食い物にされるのか?
狗藤に難しいことはわからない。だから、わかりやすいところから確認する。
「あのぅ、黒之原さんは〈クロガネ〉の件に関しては、全く無関係だったんですね」
「君の話があっちこっちに飛ぶね。でも、まぁ、そういうことだよ。黒之原くんほど、カネに汚い教え子はいなかった。お世辞にもスマートとはいえない。僕に言わせれば、ただの守銭奴だよ」
教授の言葉は、初めて耳にする辛らつさに満ちていた。だが、狗藤はもっと気になることがある。
「教授、教えてください。飲み会の会費、17万5000円を盗んだ犯人は、黒之原先輩じゃないですよね。あの人の心証は最悪だし、僕も疑っていましたけど、あのカネは盗んでいない。多くの人に話を聞きましたけど、皆、誰も集金箱に手を触れていないというんです」
教授は笑顔を浮かべて聞いている。
「でも、手を触れなくても、中のおカネを奪う方法が一つあります。【弁天鍵】ですよ。犯人は、神様のアイテムを使ったんですよ。でも、僕ではありません。もしかすると、犯人は、教授じゃないんですか?」
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