50 / 72
濡れるレッスン⑤
しおりを挟むさりげなく笑顔で言ったけど、彼女は絶句していた。後で、ザクロが痙攣を起こす可能性があったな、と思い至ったけれど、幸い、そんなトラブルには見舞われなかった。
「シュウくん、ごめんなさい。あの、私……」
衣湖さんの言葉が終わらないうちに、押入れの襖を開けて、若い男が姿を現した。
「すいません、彼女は悪くありません。すべて僕が悪いんです」
畳の上に正座したのは、スリムで色白のアラサー男性だった。縁なし眼鏡も相まって、真面目そうな印象を受ける。彼は一体、誰なのか?
とりあえず、僕と衣湖さんは行為を中断して、下着を身につけることにした。
「すいません、ちょっと失礼」
そう言って、彼はトイレに駆け込んだ。衣湖さんによると、このアパートは彼の部屋だという。思いがけない展開だけど、僕は意外と落ち着いていた。
押入れの中を確認したけれど、デジカムやスマホといった撮影ツールはなかった。直感的に、目的が覗きではなさそうだ。彼がトイレにいる間に、衣湖さんに訊ねた。
「衣湖さんの彼氏ですか?」
「ううん、ただの知り合いなの。皆やってるじゃない、ほら、ネットでさ」
どうやら、〈出会い系〉で知り合ったばかりらしい。彼が僕たちのいる寝室に帰ってきた。
「自己紹介がまだでしたね。僕のことはオサムと呼んで下さい」
年下の僕にも敬語を使う点に、彼の性格が現れていた。
「とりあえず、教えてください。お二人の目的は何ですか?」
「うーん、互いのセックスの価値観というか、とらえ方というか……」
長々と回りくどい説明を聞かされたので、それを要約しよう。
要は、衣湖さんとオサムさんのセックスはうまくいかなかったのだ。互いに、自分は普通で、相手が悪いと主張している。どちらが悪いのか確かめよう、ということになった。風俗業、つまり僕の手を借りて、相手のプレイをチェックする。それが、二人の考えである。
つまり、オサムさんが衣湖さんのセックスを確認し、次に、衣湖さんがオサムさんのそれを確認する。
「シュウくんとならメチャクチャよかったし、キチンといけたよ」衣湖さんが得意げに言った。「だから、私は悪くない。悪いのは、オサムくんの方だよ。ね」
同意を求められたが、僕として何とも言えない。二人は一度しか肉体を交わしていない。それでは、うまくいく方が珍しいだろう。
セックスは共同作業なのだから、二人の相性が良かったか、良くなかったか、ただ、それだけだ。うまくいかなかったのなら、再チャレンジするか、相手を変えればいい。
まぁ、年上の二人に忠告するのは心苦しいし、僕自身、説教くさいのは好きではない。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
お漏らし・おしがま短編小説集 ~私立朝原女学園の日常~
赤髪命
大衆娯楽
小学校から高校までの一貫校、私立朝原女学園。この学校に集う女の子たちの中にはいろいろな個性を持った女の子がいます。そして、そんな中にはトイレの悩みを持った子たちも多いのです。そんな女の子たちの学校生活を覗いてみましょう。
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる