目覚めた男

ナマケモノ

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目覚めた男

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 僕は目を覚ます。
 プラスチックのふたが周りを覆っている。 
 僕が起きたのを分かったように蓋は開く。
 体を起こすと白い風景が広がっている。
 どこかの部屋にいるようだ。
 人気を感じられない。
 自分以外にいないだろうか。
 さっきいたベッドの近くに1台の端末がある。
 画面にふれるとエラーと文字が出た。
 どうやら、僕を認識しないようだ。
 おかしなことがある。
 自分が誰だということが分からない。
 名前すら浮かばないし、家族の顔さえ浮かばない。
 扉がひとつだけある。
 そこからしかこの部屋を出る方法はない。
 扉を開けるとひとりいた。
 変だ、人間の姿をしているのに人間に思えない。




 やがて、彼女は挨拶をする。
 挨拶からすると朝だということが分かる。
 「不審な顔をなされていますね。 私はあなたが目覚める前に希望により、彼女の顔にしたのですよ」
 機械の声だ。 声に抑揚がない。
 彼女の顔? 目の前にいるのはロボットだろうか。
「話が飲み込めないのですが・・・」
「ええ、お気持ちをお察しします。 あなたは思ったことでしょう。 ロボットではないか? そうです、塗装を施された姿なんです」
 僕はじっと見た。
 これが彼女の顔。 肩にかかるくらいのさらさらの黒髪だ。
 目鼻立ちがくっきりしており、眼は大きい。
 鼻は高く、薄い唇で眉毛は細い。
 僕の主観から美人だと思うが、世間的にそうだろう。
 顔を見たが、思い出すことはない。
 全ての記憶が欠けている。
 「お話しをしてもよろしいですか?」




 彼女の姿をしたロボットは説明した。
 僕はガンで2010年に亡くなるはずだったが、ある医師によって2100年に目覚めることになる。
 医師は当時では理解されない技術で僕の病気を治そうとしたらしい。
 当時の自分は同意書にサインして、さっきいたカプセルの中で90年以上眠り今に至る。
 体は2010年のままであり、眠っている間はカプセルが筋肉を衰えさせないようにしながら治療を行っていた。
「長谷川博士からのお礼です」
 ロボットは1枚の紙を渡す。
 紙を受け取って、見てみると5000万円と書かれている。
「なぜ、こんな額のお金を?」
「ご不満ですか? もっと差し上げるべきですね」
「不満なんじゃなくて、治療を終えた男に金をあげるのかということです」
 ロボットはなるほどと口に出す。





「そのことですね。 あなたのおかげで今の医療の世界があるのです。 長谷川博士からの希望でもあり、世間からももらうべきのお金なんです。 その額でも少ないくらいですよ」
 おかしなことだ。
 病気を治してもらったら、普通は金を払うのが当然のことだ。
 なのに、金をもらっている。
 僕は変な夢を見ているのだろう。
 ほっぺたをつねたが、痛みがある。
 これは現実だ。
「長谷川博士という人はどこにいるのです?」
「30年前に亡くなりました。 変なことを訊くものですね。 やはり、人間は難しい」 首をふった。
 目の前のロボットはさっきから接していると人間らしい行動をする。
 そして、僕はおかしな質問をしてしまった。
 90年も眠っている間に博士は亡くなっているはずなのに。
 肝心なことが聞けていない。
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