先頭車両で君に出会って~遠く離された2人の世界線を結ぶ~

ゆきちゃん

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7 きさらぎ駅下車、君の家へ

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 体育祭で倒れた日から、里村夜見よみは2日間学校を休んだらしく、朝の電車に乗ってこなかった。
 3日目になって、今日も休みかもしれないと、神木信次は自分に言い聞かせた。もしそうなっても、ダメージをできるだけ少なくするための自己防衛だった。

 発車してから3駅目に電車が止まろうとしていた。
「次はきさらぎ駅、きさらぎ駅です。出口は右側です。」
 電車のドアが開いた。6秒経っても彼女は乗ってこなかった。

 ところが、7秒目に彼女は乗ってきた。がっかりしていた彼の心は、喜びではじけてしまいそうになった。
 元気になった顔で彼女は言った。

「おはよう、神木君。私今、絶妙なタイミングで乗ってきたでしょう。昨日の夜から、何回も何回も頭の中でシュミレーションしたのよ。」

 彼は少し抗議した。
「6秒間、すごくがっかりしました。」

 彼女が真剣な顔をして言った。
「女の子の高等戦術です。大好きな人を永久に自分の虜にするために、なんだってやります。3日前のことで私は決意しました。」

「えっ………。」

「ところで神木君、今度の土曜日、何か予定がありますか。」
 彼は答えた。
「全然。何もありません。」

「熱中症になった私を助けてくれた神木君に、母親が是非お礼をしたいそうです。精一杯の料理を作っておもてなししますから、私の家にきていただけますか。きさらぎ駅で待っています。」

「喜んで伺います。何時着の電車ですか。」
「きさらぎ駅着11時11分です。」
「わかりました。」


 土曜日の朝になった。
 彼が少し気になっていたのが、彼女がきさらぎ駅11時11分着の電車で来るようにと言ったことだった。

(そんな時刻にきさらぎ駅に停まる電車はあったかな。11時11分着なんて、ほんとうにあるのかな。)

 家を出て最寄りの東鹿島駅に着き、座りごこちの良いレトロな駅舎の待合室に腰掛け、スマホの検索サイトを呼び出した。そのサイトできさらき駅を到着駅に入力して、検索ボタンを押した。

 すると、いつもよりかなり遅い動きで画面が動き、結果が表示された。
(確かに、今の時刻からこの駅を最適に出発すると、11時11分に着くんだ。土曜日の特別なダイヤかもしれない。)

 しばらく待っていると、改札に駅員が立ちホームに入場できるようになった。彼はいつものとおり先頭車両まで行って座った。彼が一番乗りらしく、他には誰も乗っていなかった。

 発車がアナウンスされ、電車の車両が動きだした。小さな子供の頃は両親に連れられて、この三州鉄道のいろいろな駅で降りたが、大きくなってからは通学などで終点の伊浜駅まで行くことが多かった。
(きさらぎ駅って降りるの初めてだなあ。)

 電車に乗りながら彼は不安になった。
(今日初めて夜見さんのお母さんに会って、僕を見てどう思うだろう。実物を見てがっかりされてしまうかも。)

 3駅目に電車が停まるまで、それほど時間はかからなかった。今日は期待と不安が入り混じり、いつにも増して短く感じられた。
 彼はきさらぎ駅で降りた。

 住宅地域に作られた全く普通の駅だった。
 駅舎を出ると、里村夜見が待っていた。

 ターコイズグリーンのワンピースが彼女の神秘性を強調して美しかった。

「きさらぎ駅で降りるのは初めてですか。」

 彼女は大きくて美しい瞳で、興味深そうに彼を見た。
「はい。子供の頃は両親に連れられて、三州鉄道のいろいろな駅に降りましたが、きさらぎ駅で降りた記憶はありません。」

「そうですか。初めてだとしたら、迷ってしまうかもしれませんよ。しっかりと私の後をついて来てくださいね。」
 彼女はゆっくりと、町の中に向かって歩き出した。

 彼は迷った。
(こういう時は、どういうポジションをとればいいのだろう。まだ付き合ってもいないのに並んで歩くのはおかしいし……‥)

 彼女が笑いながら言った。
「私も神木君と同じ感覚が敏感なHSPだから、今の神木君の様子を見て、何を悩んでのかわかりますよ。………並んで歩きましょう。」

 2人は並んで歩き始めた。
 全く普通の住宅地域が続いていたが、不思議なことに土曜日の11時台だというのに歩いている人が全くいなかった。

 彼はたずねた。
「人通りはいつもこんな感じですか。もう、お昼が近いというのに買い物に行く人もいないんですね。」

 彼女が答えた。
「この地域に大きな紡績工場があった昔は、もっとにぎやかだったそうです。工場が閉鎖されてからは寂れるばかりです。」
 
 2人がそのように会話をしながら歩いていると、だんだんと歩いている人が現われ人通りも増えてきた。

 サッカーウェアを着て、楽しそうに話しながら帰る高校生達とすれ違った。

 その瞬間、感受性の強いHSPの彼は、大きな違和感を感じた。
(絶対におかしい。誰も夜見さんに気をとられない。同じ年頃のこれだけきれいな女の子を、チラ見すらしないなんてあり得ない。)
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