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53 魔界の宝石レッドハート

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 時間を1か月ほどさかのぼる。

 気がつくと、北川風香は現実世界に帰ることができ、病院の中の待合室に座っていた。異世界で大怪我を負ったはずなのに、体は全くの健康体だった。
 少し遠くには、手術室らしい部屋の扉が見えた。

「ここは現実世界。私が生きているということは、運命に抗い勝って、2人とも生き続けることができたのね!」
 彼女はひとり言を言った。

 しばらくすると手術室のドアが開き、ストレッチャーの上に載せられた患者が外に運ばれてきた。まだチューブが装着され生命維持装置がついていたが、彼女には誰なのか直ぐにわかった。
「佐藤さん、命を取り留めたのね。ほんとうによかった。

 その後、佐藤の手術を執刀した医師から説明があった。
「ほんとうに不思議です。運び込まれた時の佐藤さんは大変危険な状態でした。ところが手術をしていくと、体が生きるのを欲しているように、少しずつ良い状態になってきたのです。」

 彼女は、深夜に佐藤が倒れているのを見つけて、彼の命を救うため異世界にW転生してから、現実世界に帰ることができるまでに起きた、いろいろな事を一瞬の間に想い出した。
 自然に大粒の涙が流れ出していた。

 佐藤が集中治療室に入ったのを見届けて、時計を見るともう、会社の始業時間5分前だった。休暇を報告する会社のクラウドシステムに、佐藤と自分自身のことを入力した。
 そして、念のため会社に電話すると、上司の部長が出勤していたので詳細を報告した。

「北川、大変だったな。佐藤の御両親には私が伝えておくよ。なんにも心配することはない。佐藤はS評価だから、2~3か月休んでも、人事部の彼に対する考えは全く変わらない。それから北川も今日、ゆっくり休んでくれ。」

 彼女は病院を出て、最寄りの地下鉄の駅まで歩き始めた。
 何を見てもすばらしく感じられた。
(佐藤さんとともに異世界で大変な時を過ごし、運命に抗い勝つことができ、これから2人で、この現実世界の中で素敵な時を過ごすことができる。)

 しばらくして地下鉄の駅の入口が有り、彼女が階段を下りようとした時、そばに1人の若い女性が立っていた
「姫様、お向かいに参りました。」
 よく見るとその女性は全身黒ずくめの服を着て、彼女の行く手を塞ぐように立ち、深くお辞儀をした。

「なんですか、なにかの勧誘ですか。申し訳ありません。私は今、大仕事が終わり疲れているので、自分の部屋に帰り休みたいのです。失礼します。すいません、そこをどいていただけますか。」
 黒づくめの女性はそれを聞くと、にっこり笑って言った。

「お疲れのところ、ほんとうにすいませんでした。姫様が首にかけられていらっしゃる赤いハートのネックレス、魔王であるこ証明証明する物ですね。首にかける魔王も『魔界の宝石レッドハート』と名乗るのが普通ですよ。」

 そう言って、黒ずくめの女性は赤いハートを指さした。すると不思議なこと起きた。2人の周囲が真っ黒な空間になり、赤いハートからホログラムのような姿が映し出された。それを見て彼女はとても驚いた。
「魔王ザラ様!!!姉様!!!」

「フーカ、あなたがこれを見ているということは、無事に元の世界に帰れたのね。大事なことを言っておくわ、ここの世界であなたは意識を失っていたけれど、お別れの際、代々の魔王の宝であるレッドハートを首にかけてあなたにあげたわ。その効果で、あなたは帰った世界の魔界に君臨する魔王にならなければいけないの………」

「えーっ。」
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