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44 悲劇に向かうのか7

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 黙り込んで、みんなが世界連合軍と戦わない方法を考えている時、フーカ辺境伯とイワンは強い魔法力を感じた。

「強い魔力が現われましたね。」
「はい、城門のすぐ前にいます。」

 フーカとイワンは警戒しながら城門の前に向かった。既に城兵達が隊列を組んで警戒していた。フーカが指示した。
「大丈夫です。城門を開けてください。」

 その指示に従い、城門が開けられた。すると………

「フーカ、久し振りね。大変なことになったけれど、元気そうで安心したわ。」
 魔王ザラが1人でそこに立っていた。
 フーカ以外の全てが、最大限の警戒態勢をとった。

「魔王様。」
 フーカはなぜか少しも警戒していなかった。彼女は、魔王ザラに戦う気持ちが全くないことを感じていた。

「今日はどういう御用件でお出でいただいたのでしょう。…そうですねその前に、立たせていては大変失礼になります。魔王様にとっては小さな貧弱な城とお感じかもしれませんが、中にお入りください。」
 フーカは魔王のそばに行き、城の中に導き入れた。

「ありがとうフーカ。今日は姉として、生活が激変した妹の暮らしの様子を心配して確認にきたのよ。」
「ふ、ふ、ふ、姉様。ありがとうございます。」

 彼女は以前、魔王ザラに妹扱いされることをいやがっていたが、今の状況下で親しげに訪ねてきた魔王にしっかり同調させられてしまった。

 ………

 歩きながら魔王が言った。
「フーカ、たぶん今会議中だったのでしょう。世界連合軍があなた1人を消滅させるために、ここに攻めてくるのね。私もその会議に参加させて。」

「わかりました。」

 会議に魔王が加わったことで、その場にいたみんなが大変緊張していた。すると、魔王が話し始めた。
「フーカ、あなたたちは世界連合軍と戦いたくないのでしょう。それならば良い考えがあるわ。それは、魔王軍と連合することよ。」

「魔王様、人間が恐れる魔王軍と連合できればこんなに力強いことはありません。しかし申し訳ありません、それは人間の敵として、人間社会と永久に決別することを意味します。既に私の領地にも多くの人間が移住してきており、獣人とほぼ同数が獣人と助け合いながらくらしています。」

「それは良くわかるわ。だから、魔王とフーカ辺境伯、それぞれの軍が連合していることは絶対の秘密とするのよ。私は魔力の強い高位の魔族数人を連れて、世界連合軍に加わろうとしている国々に出没して、その国の軍隊が国から離れることができないよう威嚇します。ただし、絶対に戦わないわ、威嚇するだけよ。」

「ありがとうございます。大変ありがたいことです。でも姉様、何か条件というか、私に求めたいことがあると思います。遠慮なさらずに申し出てください。」

「フーカ、私のことを『姉様』と呼んで、交渉がうまいのね。求めることは一つだけよ、私達魔族も暗い魔界の中だけではなく、時には森林地帯の緑の中や高原の光の中に滞在して心と体を癒やしたいのよ。もちろん、事前に滞在する魔族をしっかりチェックして許可を出してくれればいいわ。」

「獣人の皆様に依存がなければ私はかまいませんが。レオ様、ティグル様、どうでしょうか。

 年長のレオが代表して答えた。
「魔界にいた時、低位魔族と呼び捨て私達を虐げた中高位の魔族がいます。許可を受けるということならば、そういう中高位の魔族をチェックして除外できますので問題ありません。」

「わかりました。魔族のチェックは獣人の皆さんに託します。」
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