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しおりを挟む「こんばんは。この間はごめんね、急に声を掛けたりして」
「ううん、俺こそ、友達がごめんなさい。あの、」
純太が顔を上げた瞬間、パキ、と、空から音が聞こえてきた。
「え?」
何だと顔を上げると、何もない筈の空が、パキ、パキ、と、まるで氷にヒビが入るみたいに割れていく。現実にはあり得ないおかしな現象に、なずなと純太も理解が出来ず、ぽかんとするばかりだ。だが、その音や、空の割れる亀裂は、どんどん大きくなる。
「な、何これ」
「怖いよ!」
怯える純太にはっとして、なずなは身を屈めて、純太を抱きしめるようにその肩を抱いた。
「だ、大丈夫だよ!こっち、」
だが、なずなが進もうとすれば、空にしかなかった亀裂が、前方に走るのが見えた。驚いて振り返れば、今度は背後に、パキ、と亀裂が入るのが見える。
「な、なんで…」
まるで自分達を取り囲むように、何もない筈の空間に亀裂が入っていく。まるで、見えない壁に取り囲まれたようで、まるで空が徐々に迫ってくるような感覚に、なずなも足が竦んで動けない。この亀裂は何なのか、もしあれが危ない物だとしたら、ここから動かない方が安全じゃないのか。ならば、助けを呼ばないと。
「た、…」
助けて、と叫ぼうとした口が止まる。もし、この妙なものを人に見られたら、フウカ達は困るのではないか。
そうだ、きっとこれは妖の仕業だ。得体の知れない現象の原因が分かれば、対処が出来る。なずなはフウカ達の助けを呼ぼうと、スマホを取り出そうとして、自分が手ぶらなのに気がつく。
「あ、そうださっき…」
フウカが荷物を持って行ってくれた時、一緒に鞄も渡してしまった。フウカも様子がおかしかったし、なずなの手元まで確認していないだろう。それに、もし鞄だと分かっていても、フウカの事だ、まとめて持って行ってくれたかもしれない。
何故スマホをポケットに入れておかなかったのか、今更思っても後の祭りだ。
パキ、パキ、と、割れる音は止まる気配を見せず、空に入る亀裂は、自分達を閉じ込めようとしているのだろうか。この奇妙な現象に、純太は恐怖に頭を抱えて泣いてしまっている。なずなには、「大丈夫だよ」と、声を掛け抱きしめる事しか出来ない。
「…だ、」
声を発しようとして、なずなは喉を押さえた。
息が苦しい、酸素が急激に減っている。はっとして純太を見れば、彼もぐったりとし始めており、なずなは青ざめた。
この現象が治まるのを待つ事しか出来ないのか、自分達はどうなってしまうのか、まさかこのまま、そう絶望した時だ。
「なずな!」
名前を呼ぶ声と共に、一際大きくバリッと空間が割れる音が響き、なずなは咄嗟に純太の頭を抱き抱えた。
「おい!無事か!?」
間近で声を掛けられ、はっとして顔を上げると、ナツメが焦った様子でなずなを見つめていた。なずなは、ほっと安堵の息を吐いた。
「ナツメ君…!あの、これ、何か、空が…!」
「妖の術だ、結界に閉じ込めようとしてる!今、簡単に穴開けただけだから、さっさと出るぞ!」
パニックと安堵が混ざって支離滅裂ななずなだったが、ナツメは冷静に純太を抱え、なずなの手を引く。パキ、パキ、と再び空が割れる中、ナツメが飛び込んできた部分だけ、ぽっかり穴が空いているのが分かった。そこだけ、風景に歪みがなかったからだ。ナツメは純太を抱えてその穴から外に出ていく、なずなもそれに続こうとした瞬間、後ろから、ぐっと見えない力に体を掴まれた。
「え、」
「なずな!」
ナツメがすかさず繋がった手を引こうとするが、それよりも強く、なずなの体が後ろへ引っ張られていく。
「ナ、ナツメ君、」
ナツメが開けたという穴がどんどん小さくなる、はっきりと見えていたナツメの姿が歪んで見え、何かがなずなの体を足元から覆おうとしているのが分かる。
もう、出られない。
ナツメの開けた穴が、互いの指先すら遮ろうとする程に小さくなった時、先程の比ではない、バリバリバリッ、と空間を大きく引き裂くような音が、なずなの周囲に弾け飛んだ。
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