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しおりを挟む夏の熱い太陽の下、広い庭に伸び放題だった草を、三人でむしっていく。
なずなが来る前は、フウカとハク、たまにギンジも加わってやっていたらしいが、フウカ達も仕事があるので頻繁にとはいかないようだ。雑草の繁殖力は凄まじく、やってもやっても生えてくる。なずなが来てからは、広い庭が勿体ないと思い、毎日少しずつ一人でやっていた。
フウカが罰と称して春風に草むしりを命じたのも、きっとなずなを不憫に思っての事かもしれない。
今日は有難い事に三人がかりだ、ある程度は終わるかもしれない。
ハクには麦わら帽子を被せ、なずなも春風の予備の帽子を借りた。水分補給用に飲み物も用意し、休憩を挟みつつ行う予定だ。
「しかし、君は頼んでもいないのによくやるね、草むしりなんか」
「だって、虫も少なくなるだろうし、朝起きて見る景色がこの草むらじゃ、気分もよくないじゃないですか」
「そういうもんかね…」
春風は、気だるそうに草を、プチ、プチとむしっている。絵に描いたようなやる気の無さだが、その横では、ハクが嬉々として働いている。たまに、蝶々やてんとう虫を見つけては、春風やなずなに楽しそうに報告してくれるのが、何とも愛らしく癒しだった。
「それに、人と交流を持ちたいって言ってたじゃないですか。これだけ広い庭なら、何か出来るんじゃないですか?」
「例えば?」
「うーん…お友達を招いてパーティーとか」
「人間のお友達が居ないねぇ」
「あ!それなら、人を呼び込む催しを開けば良いんですよ!フリマとか、皆が集まる広場的な」
「…広場?」
顔を上げたハクに、なずなは閃いたとばかりに瞳を輝かせた。
「フウカさんのキッチンカーみたいな、ああいうお店に来て貰って催しするとかは?あ、大きなスクリーン作って映画観るとか!近所に許可取らなきゃですけど」
嬉々としてアイディアを出していくなずなだったが、それを聞いていた春風は、大きく溜め息を吐き、むしった草を力なく袋に投げ入れた。
「ただただ面倒だ…」
「面倒でもやらないと。人と仲良くするのも大事って言ってたじゃないですか。そんな気持ちで、火の玉の犯人なんて見つけられるんですか?」
「大丈夫だよ、この前の件で手掛かりはあるからね。向こうから痺れを切らしてやって来るかもしれない」
「どういう事ですか?目星が付いてるんですか?」
春風は答えず、にこりと微笑むだけだ。
「とはいえ上手くやらなきゃ、焦って手を出して逆に尻尾を捕まえられたら、僕らは…ここの住人達はおしまいだ」
「…僕達帰されるの?」
「そうならないように策を練ってる、大丈夫だよ」
春風は「少し休むか」と、ハクを縁側に呼んだ。ハクの帽子を取れば、頭はぐっしょりと汗で濡れていた。熱中症には注意しないといけない、ドリンクを持ってこようと、なずなも縁側から室内に上がった。ふと春風を見ると、タオルで汗を拭いてやったりと、ハクの世話を焼いていて、怠け者という印象の貧乏神だが、意外と面倒見がいいんだなと、なずなは微笑ましい気持ちになった。
「お昼はどうしましょうか?」
「フウカ君のお店でサンドイッチ買ってこようか。僕行ってくるよ」
「サンドイッチ!いいですね、作りましょう!」
「え、」
「…僕もお手伝いしたい」
「うん!一緒に作ろうね!」
「ちょっと待って、卵とか焼かないでよ!切って挟めるものだけだよ!君達聞いてる!?」
そうして結局、面倒くさがりな神様が、昼食を作る羽目になるのだった。
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