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しおりを挟む「感情が無かったら、あんな風にも笑えないのかな…」
妖精達は、夕食の相談をしている和真と舞の会話を、フードの中で聞いていた。その中で、エラがぼんやりと呟けば、ルイは和真の襟足を見上げ、そっと頬を緩めた。
「そうだね…、真由から零れる感情の欠片は、今はとても穏やかな色で、キレイだ」
涙を失っている時には見られなかった感情の欠片、誰をも癒すような美しい色をしているそれは、真由の心根をそのまま映しているのだろう。
「僕らは、とても尊いものを分けて貰ってるんですね」
トワが噛み締めるように呟くのを、エラは少し唇を尖らせて聞いていた。
自分達よりも遥かに大きな人間だけど、心を手放したいと思う程、時に弱く脆い。体の大きさや体質が違うだけで、根底にあるものは、人も妖精も何も変わらない。
エラは俯き、きゅっと手を握った。
「…私、お兄ちゃんの考えは受け入れられない」
唐突に呟いたエラに、ルイは視線を和真からエラに移し、それからそっと視線を落とした。
「…うん」
考えを受け入れて貰う事は、そう簡単な事ではないのは分かっている。エラにだって、エラの考えがあって、譲れない思いが自分にもあるように、エラにだってある。エラが自分を心配して言っているのも分かっている、それでも、和真との交流を絶てないのは、自分のエゴだ。ルイはそう思い、エラの言葉に頷いた。
「…でも、ちょっとは信じてあげてもいいよ」
「…え?」
顔を上げれば、ふいっとエラはそっぽを向いてしまう。見える赤く染まった片頬に、ルイがエラ越しにトワを見やれば、トワは困ったように笑顔を見せた。素直じゃないところは、エラの可愛いところだ。ルイは嬉しくなって、こちらを意地でも見ようとしないエラを抱きしめた。
「…ありがとう、エラ」
受け入れられなくても、理解し合う事は出来る。
押し付け合うのではなく、ゆっくりと理解を重ねていければ。妖精同士も、人間と妖精も、もっと歩み寄れるのでは。
いつか、共に生きる世界がもっと広がって、その先で、きっと共に寄り添えあえるのでは。
果てしない願いに、小さな我儘を胸にしまい、ルイはそっと和真を見上げる。人間達は、から揚げかハンバーグかで争っているが、それでも彼らは、温かな色に包まれている。
妖精達は、温かな色に包まれた彼らを、フードの中から、優しく見守っていた。
***
真由の忙しい日々は変わらないが、商店街に訪れるその表情は、以前よりも柔らかいように和真は思えた。和真も、真由が仕事で家に居ない時は、舞達と一緒に過ごしたり、暇を見ては差し入れを持って行ったりしている。
そして、ルイも、いつも通り平和な日々を送っている。
「あれ?欠片がまた青い」
「しょうがないだろー…俺は失恋したんだ」
この間したばかりなのに、また振られたんだ。と、その思いはそっと胸にしまいこみ、ルイはふわふわと和真の元へ飛んでいく。
「可哀想に」
「…ちょっとルイ、可哀想って面じゃないぞ」
むくりと顔を起こして和真に睨まれたが、それでも和真の指摘通り、表情をコントロールするのは難しかった。
「僕、人間の友達を慰めてるんだって、改めて思ったら感動しちゃって」
「なんだよ、もう…そうだ、今日は何持ってく?」
「ハチミツ!甘くて評判良いんだ」
「オッケー、あんまり食べすぎんなよ」
ルイは和真の背中を見送って、窓の外から広がる青空を見上げた。
もしかしたら遠い昔、人と妖精はこんな風に寄り添って生きていたのかもしれない。
妖精は人が居ないと生きていけない、妖精は、人間が気づかない心の様子に気づく事が出来る。
持ちつ持たれつ、お互いに支えあって、補いあって。
いつかまた、そんな未来が来たら良いのにと、やっぱり願わずにいられない。
心を許せる友として、心を預けられる友として。今日も人間と妖精は、秘密の友情を育んでいる。
了
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