ひみつのともだち

茶野森かのこ

文字の大きさ
上 下
16 / 16

16

しおりを挟む





「感情が無かったら、あんな風にも笑えないのかな…」

妖精達は、夕食の相談をしている和真と舞の会話を、フードの中で聞いていた。その中で、エラがぼんやりと呟けば、ルイは和真の襟足を見上げ、そっと頬を緩めた。

「そうだね…、真由から零れる感情の欠片は、今はとても穏やかな色で、キレイだ」

涙を失っている時には見られなかった感情の欠片、誰をも癒すような美しい色をしているそれは、真由の心根をそのまま映しているのだろう。

「僕らは、とても尊いものを分けて貰ってるんですね」

トワが噛み締めるように呟くのを、エラは少し唇を尖らせて聞いていた。
自分達よりも遥かに大きな人間だけど、心を手放したいと思う程、時に弱く脆い。体の大きさや体質が違うだけで、根底にあるものは、人も妖精も何も変わらない。
エラは俯き、きゅっと手を握った。

「…私、お兄ちゃんの考えは受け入れられない」

唐突に呟いたエラに、ルイは視線を和真からエラに移し、それからそっと視線を落とした。

「…うん」

考えを受け入れて貰う事は、そう簡単な事ではないのは分かっている。エラにだって、エラの考えがあって、譲れない思いが自分にもあるように、エラにだってある。エラが自分を心配して言っているのも分かっている、それでも、和真との交流を絶てないのは、自分のエゴだ。ルイはそう思い、エラの言葉に頷いた。

「…でも、ちょっとは信じてあげてもいいよ」
「…え?」

顔を上げれば、ふいっとエラはそっぽを向いてしまう。見える赤く染まった片頬に、ルイがエラ越しにトワを見やれば、トワは困ったように笑顔を見せた。素直じゃないところは、エラの可愛いところだ。ルイは嬉しくなって、こちらを意地でも見ようとしないエラを抱きしめた。

「…ありがとう、エラ」


受け入れられなくても、理解し合う事は出来る。
押し付け合うのではなく、ゆっくりと理解を重ねていければ。妖精同士も、人間と妖精も、もっと歩み寄れるのでは。
いつか、共に生きる世界がもっと広がって、その先で、きっと共に寄り添えあえるのでは。

果てしない願いに、小さな我儘を胸にしまい、ルイはそっと和真を見上げる。人間達は、から揚げかハンバーグかで争っているが、それでも彼らは、温かな色に包まれている。


妖精達は、温かな色に包まれた彼らを、フードの中から、優しく見守っていた。





***




真由の忙しい日々は変わらないが、商店街に訪れるその表情は、以前よりも柔らかいように和真は思えた。和真も、真由が仕事で家に居ない時は、舞達と一緒に過ごしたり、暇を見ては差し入れを持って行ったりしている。


そして、ルイも、いつも通り平和な日々を送っている。


「あれ?欠片がまた青い」
「しょうがないだろー…俺は失恋したんだ」

この間したばかりなのに、また振られたんだ。と、その思いはそっと胸にしまいこみ、ルイはふわふわと和真の元へ飛んでいく。

「可哀想に」
「…ちょっとルイ、可哀想って面じゃないぞ」

むくりと顔を起こして和真に睨まれたが、それでも和真の指摘通り、表情をコントロールするのは難しかった。

「僕、人間の友達を慰めてるんだって、改めて思ったら感動しちゃって」
「なんだよ、もう…そうだ、今日は何持ってく?」
「ハチミツ!甘くて評判良いんだ」
「オッケー、あんまり食べすぎんなよ」

ルイは和真の背中を見送って、窓の外から広がる青空を見上げた。

もしかしたら遠い昔、人と妖精はこんな風に寄り添って生きていたのかもしれない。
妖精は人が居ないと生きていけない、妖精は、人間が気づかない心の様子に気づく事が出来る。
持ちつ持たれつ、お互いに支えあって、補いあって。
いつかまた、そんな未来が来たら良いのにと、やっぱり願わずにいられない。



心を許せる友として、心を預けられる友として。今日も人間と妖精は、秘密の友情を育んでいる。









しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

ワカミヤさま

楓屋ナギ
ライト文芸
晴れて社会人となった七海。慌ただしい毎日を送る彼女が菜の花の咲く空き地の小さな祠前で出会ったのは、落ち武者だった――。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話

赤髪命
大衆娯楽
少し田舎の土地にある女子校、華水黄杏女学園の1年生のあるクラスの乗ったバスが校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれてしまい、急遽トイレ休憩のために立ち寄った小さな公園のトイレでクラスの女子がトイレを済ませる話です(分かりにくくてすみません。詳しくは本文を読んで下さい)

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

処理中です...