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しおりを挟む「ちょっと待って!返すって、そもそも誰の物か分からないし、それこそ危険だよ!」
エラが焦ったようにルイにしがみつく、エラ達にとっては危険だとされる、人間の元へ毎日のように通う兄だ、このまま放っておけば、きっとルイは本当に人間の為に動こうとする。危険だと知りながら、見ず知らずの人間の為にそこまでする事はないんじゃないかと、エラはそう思っているのだが、ルイはエラの心配を、優しい表情のまま受け止めるばかりだ。
「誰の物かは分かるよ、感情の結晶は一人一人違うから、別の人に結晶を与えても、本人の物でなければ弾かれるから」
だから簡単だとでも言いたいのか、まるであやすように頭を撫でられ、エラはもどかしい思いでいっぱいになる。
今までルイは、エラは危機感がないと責めていたが、その言葉をそのまま返したい気分だ。この兄は、どれ程自分に自信があるのだろうと、頭を抱えたくなる。
「じゃあ、一人ずつ試して回るの?どれだけの人間がいると思ってるの!?それこそ危険だよ!だって、人間に近づかなきゃいけないんだよ!?」
人間だって、和真のような人ばかりではないと、先程ルイは、自分で言っていたではないか。うっかり姿を見られでもすれば、面白がって捕らえようとする人間がいてもおかしくない、一人一人に感情の結晶が当てはまるか見て回るとするなら、そういった危険な人間に行き当たる確率は当然上がる。
しかし、そんなエラの訴えは、ルイには届いてくれない。
「地道にやってくよ、お前達は危ないから来ちゃダメだよ」
「そんな、」
兄の顔をして、ルイはエラの頭をポンと撫でる。この兄は、本当に自分の身の危険というものを考えた事があるのか、そのせいで、周りの者がどれ程心配をしているか、考えた事があるのだろうか。
「ひぃっ!」
もう一度説得を試みようとしたエラだったが、突然、メイが悲鳴と共に慌てて飛び立ったので、その言葉は兄の胸の中へと吸い込まれていった。
メイの悲鳴を聞いて、ルイが咄嗟にエラを庇ったからだ。
「今日は、随分と賑やかだね」
しかし、聞こえてきたのは、のんびりとした、ルイにとっては聞き馴染みのある声だった。ルイは安心して肩を下ろした。
「おはよう、ミケ」
そこに現れたのは、和真の飼い猫のミケだった。メイは、猫を恐れて飛び上がったのだろう。
「皆、安心して、僕の友達のミケだよ」
ルイは、皆にそう声を掛けると、エラの体をそっと離し、ミケに向き直った。
「おはよう、ルイ。彼らは君のお仲間?」
「うん、妹のエラと、僕の友達でエラの恋人のトワ、それからスズメのメイだよ」
ルイが塀の上を見上げれば、下の様子を窺っていたメイはミケと目が合い、「ピッ!」と怯えて飛び退いた。ミケは暫し無表情でメイを眺めていたが、やがて「大丈夫、爪は出さないよ」と、ルイに視線を戻した。ルイは「ありがとう」と表情を和らげていたが、メイとしては、爪を出さないと言われただけで、手を出さないとは言われていない、猫に飛びかかられ、追いかけられた事のあるメイとしては、その一言だけではとても安心は出来なかったし、何よりミケの眼差しは、含みが満ちているもののように思えてならなかった。
しかし、そんなメイの葛藤は露知らず、ルイは話を進めていく。
「騒がせてごめんな、誰かが感情の結晶を落としてしまったらしくて、」
ルイがそう話を切り出すと、今まで黙っていたトワが、「ミケ殿!」と、声を上げた。
「この感情の持ち主を探すのを手伝って下さいませんか!町の事は町の猫に聞くのが一番だって、聞いた事があります!」
そう挙手しながら前に出たトアに、今度はルイもきょとんとした。
「ちょっとトワ?」
エラが困惑して声を掛けるが、トワの瞳は揺れ動く事はなく、決意に満ちている。トワはエラの問いかけには答えず、まっすぐとルイを見つめた。
「僕も、ルイさんを手伝います!」
その申し出に、ルイは戸惑って視線を揺らした。ルイだって、エラの心配する気持ちが何も分かっていない訳ではない、自分は、少しばかりではあるが人間の世界の事が分かっている、だから、結晶の持ち主を探し出そうと言えたのだ。でも、トワやエラは、町に出る事はほとんどない、いきなり大勢の人間の目を盗みながら、人間と接触していくなんて、無茶が過ぎる。
「トア、気持ちは嬉しいけど、」
しかし、トワはそんなルイの気持ちを遮り、熱心な思いをルイに伝えていく。
「いつもお世話になってる人間へのお礼です。僕はまだ人間が怖いけど…人間だって、泣けないのはきっと辛いでしょうから。それに、これを置いて行って、もし心無い妖精に持っていかれたら、この結晶の持ち主は、一生涙を失う事になるんですよね?」
「…泣けない位、別に良いじゃない」
ふて腐れて言うエラに、トアは戸惑いながらも、少し屈んで視線を合わせた。下から見上げたエラは、迷いに揺れているようにも思える。どこの誰だか知らなくても、その人が泣けなくても良いなんて、心からの言葉ではないのだろう。トアはそっと表情を緩めた。
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