東方のレッセイ・ギルド

すけたか

文字の大きさ
上 下
36 / 56
第四幕

しおりを挟む

エズはロサのテントから離れるとロサの人々が暮らす「区域」へと向かった。
喧嘩はないか、諍いはないか、常にロサが穏やかであるよう、夜の見まわりをするのも騎士の役目だ。
みんなもう寝入っている。テントの中で寝る者、そこら辺に雑魚寝をするもの、様々だ。全員がテントで寝られるほど資材は足りていない。だが緑の恩恵を受けてからは調度よい気候で、集落の掘っ立て小屋や路端で寝てもどうという事はなかった。
エズは寝っ転がっている子どもたちの上に薄い敷布をかけてやった。広い集落を警邏して廻り、そろそろ自分のテントに戻るかというところで老人の姿が目に入った。テントの前に座ってしきりに肩をまわしている。

「御老体、もう夜だ。体に障るから中でお休みになられるとよい」
「あらまあエズ様、いえね、ちょっと身体がだるくて熱くて……もう歳だから身体の調節が効かなくなることがあるんですよ。外の空気に当たれば少しはよくなるかと思いましてねえ」
「それはよくないな。御老人は結晶世界を生き抜いてきた強い命の証明。お体労ってくださるよう、やはり中で寝たほうがよかろうと思います」
「そうねえ。そうしますわ、ではエズ様お休みなさいませ」
「ええ、良い夢を」

そういってエズは老人と別れるとジオス家のテントに向かった。中に入ると、ヴァルルが布団の用意をして待っていた。
「おかえりなさいませエズ様。寝所の準備は整っております! 今日の見張りはジオス家の従者がしますから寝ましょう。僕も夜番はせずに寝ますよ」
「そうか。では言葉に甘えるとしよう」
「あ、エズ様」
ん? と騎士服を脱ぎかけたエズに向かって、
「「ヴァルル」ってどういう意味ですか? 昼間名乗った時レッセイ・ギルドから「水」かって言われたんですよ」
「なんだ、自分の名前の意味も知らんのか。ヴァルルというのは水の流れとか、源といった意味だ。結晶世界では水が貴重だから、恵みあれと名付けられたのだろうな。羨ましいものだ」
「エズ様は……どういう意味なんです?」
「私か? つまらん理由だ……私は七番目の子だった。兄弟の末っ子で、だからエズ。「エズ」というのは七を意味するんだ。それにしてもレッセイ・ギルドは我々の言葉を知っているのか……興味深いな。さ、蝋がもったいないからもう消すぞ。寝よう」
ヴァルルが布団に入ったのを確認して、エズは蝋燭の灯を消した。


五日後、人々はまたしてもクリスタリスの襲来を告げる鐘を聞くことになった。太陽は南中し、昼を過ぎようとしていた。
レッセイたちは既に敵に向かっている。
エズは、
「守りを固めろ、鳥籠の用意も」
そういいながらアルタの姿が見当たらないことに気付いた。こういう時真っ先に現れるはずなのだが……まさか一人で外に出たのだろうか。ざわめく人々の流れを泳ぐようにすりぬけ、エズはアルタを探した。
「エズ様!」
ヴァルルが走ってやってくる。
「ヴァルル、アルタ様を知らないか」
「アルタ様なら、今ご自身で手当てを」
「なんだと?」
「足をひねったと。包帯で固定したらすぐ来るそうです。布を渡してきました」
「わかった」
エズは門から飛び出し、剣を腰に携えて鳥籠を一つ持ち、クリスタリスの方へと走った。

「……! な」

――なんだあれは。エズは言葉を失う。

レッセイたちが相手をしているクリスタリスはきらきらと太陽の光を反射して赤く輝く、あまりにも美しい真紅の姿だった。
炭が緋色に燃え盛るように内部は朱色の光が揺らめいている。まるで真っ赤なランタンのようだ。だが塊状のそれは苦しみに身を捻るかのように「く」の字にひしゃげ、生理的嫌悪を催す。おそらく二十メートル以上はあるだろう、その身に炎を纏ってこちらに進んできていた。

(あんなものが攻めてきたらロサは壊滅だ。ひとたまりもない)
エズはごくりと唾を飲み、
(レッセイ・ギルドよ……どうか、どうか……!)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

エンシェントソルジャー ~古の守護者と無属性の少女~

ロクマルJ
SF
百万年の時を越え 地球最強のサイボーグ兵士が目覚めた時 人類の文明は衰退し 地上は、魔法と古代文明が入り混じる ファンタジー世界へと変容していた。 新たなる世界で、兵士は 冒険者を目指す一人の少女と出会い 再び人類の守り手として歩き出す。 そして世界の真実が解き明かされる時 人類の運命の歯車は 再び大きく動き始める... ※書き物初挑戦となります、拙い文章でお見苦しい所も多々あるとは思いますが  もし気に入って頂ける方が良ければ幸しく思います  週1話のペースを目標に更新して参ります  よろしくお願いします ▼表紙絵、挿絵プロジェクト進行中▼ イラストレーター:東雲飛鶴様協力の元、表紙・挿絵を制作中です! 表紙の原案候補その1(2019/2/25)アップしました 後にまた完成版をアップ致します!

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

処理中です...