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2章

26①ミュラー家のエリーナ夫人

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 「お前も知ってるだろう? そもそもミュラー家はじゃ無いと伴侶として迎え入れる事ができん。中央の貴族、しかも高位貴族出身者じゃその辺の魔獣だって一人で倒す事すら無理だ。その事は陛下だって理解してる筈だ。その陛下の肝いりの花嫁だぞ? 侯爵家出身のお嬢様なんぞあり得ないだろ」

「そうねえ。高爵位の貴族からの嫁や婿よりミュラー領の山岳農家から来てもらったほうがよっぽど良いわね。その方がお互いに安全だもの」


 美男美女は大きな木製のジョッキの中身のエールをまるで水のようにグイグイ飲みながら、ケラケラ笑っている。

「山岳農家って平民だろう? いや、まぁミュラー領の連中なら確かに魔獣も平気かもしれんが。しかし名前がなぁ・・・」

「ルーちゃん、いくらなんでも王子様の婚約者を陛下がうちのアルの嫁に宛てがうなんてあり得ないわ」


 片手をヒラヒラさせながら、串に刺さった塩焼肉を頬張る美魔女。


「高位貴族のお嬢様が魔獣討伐なんか出来っこないもの。私みたいに『覚醒』しない限りはね」


 そう言いながら彼女は椅子の脇においてある自分のローブを左手で触り、内側をチラリと辺境伯に見せた後で妖艶に微笑む。

 錆浅葱さびあさぎ色のローブの内側に施された銀色の刺繍は稀有な存在とされる『魔術師』を表す模様で『魔術紋』と呼ばれるモノだ。


「まあ王命って事は魔術の才能のある娘さんって事なのかな? それかウチの娘達みたいに騎士科の卒業生かな?」


 通りがかりの給士に、新しいエールの為の銅貨を渡しながら


「陛下自ら推薦者? って・・・そんなに親切だったかアノ人?」


 と、ブツブツ言いながら首を捻る夫に向かって。


「私みたいに『押しかけ』かもよ~。王都でアルフレッドを見初めたとか~? あの子ダンカンに似て顔が良いからね。だとしたら嫁になれるかどうかは息子の頑張り次第だけどねぇ」


 と、エリーナが楽しそうに更にケタケタ笑う。


「え? それどういうことだ」


 エリーナの言葉に首を傾げる辺境伯。


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