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2章

20①ミュラー家執務室再び

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 「王家に10日に一度書類を提出した帰りに文官棟の中庭からこっそり執務風景を覗くのが私の唯一の楽しみでしたの」

「・・・?  何故中庭?」

「お仕事の邪魔をしてはいけないと思いましたの。それに未婚の女性が特定の部署に用事もないのに度々顔を出すのも憚られますし。ですから中庭の樫の木の幹に隠れて観察しておりました」

「はぁ・・・それは、お気遣い頂きどうもありがとうございました?」


 話だけ聞いていると、リリーベルのやってる事はスレスレでストーカー紛い。

 そして何故かお礼が疑問形のアルフレッド。


「それが卒業間際になってバタついているうちに、文官棟からアルフレッド様がいなくなってしまわれて」


 すごーく悲しそうな顔になるリリーベル・・・


「あ~、ロザリーとオリビアの就職が決まったんで、仕送りしなくても良くなったんで領地に帰ったからですかね」

「そうなんですッ!」


  思わず被っていた猫がポロリと剥がれ、ローテーブルに『バンッ!』と両手をついて身を乗り出すリリーベルと、思わず仰け反るアルフレッド。


「まさか、ロザリーのお兄さまとは気が付かず。1年も遠回りしてしまいましたの」


 くくっとハンカチを両手で絞り上げるリリーベル嬢―― 傍目にはちょっと引く行為も大雑把で妹の世話に明け暮れていたお兄ちゃんは大して気に留めない。


「はぁ、そうなんですね」


 そして気の抜けた返事になる。


「そうなんですのッ! こうやって間近でよく見たらロザリー達にもお顔は似ているのに、お色が違うだけで印象が随分違うんですもの・・・」


 そう、妹達は全員父親に似て金髪碧眼。

 兄であるアルフレッドとは似ても似つかない色なのである。


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