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episode3 幸せになりたいなら、なりなさい
29話 兎な夜
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灰色の角の生えたウサギ達は、茂みを抜けた所で耳を澄ませるような仕草で後ろ足で立ちあがると、耳をピクピクとさせる。
30羽ほどの個体の足元に小さな金色の魔法陣が次々と現れると、彼らの姿はどんどん消えていく。
「大神官様」
「何じゃ?」
「兎は全て転移させましたが」
「そのようだのう」
「餌とかは宜しいので?」
「ああ、そりゃあギルドの連中が上手いことやってくれてるから大丈夫じゃ」
「それでは、一度吾輩は帰還致します故」
寂れた廃坑の入り口に金色の魔法陣が現れ、白い猫メルヘンの姿がかき消えた。
「さあて、もう一仕事するかのう」
聖王ネイサンも首をコキコキと鳴らしながら、金色の転移魔法陣を展開して何処かに行ってしまう。
廃坑の奥から兎のスタンピングする『タタン・・・ タタン・・・』という音が闇の中で微かに響いていた・・・・
××××××××××
「それでは、この国の経済回復は軌道に乗る準備が整ったと思って良いのですね?」
メイソン・シャガル・スハイド公爵は落ち着いた声で眼の前に座る御伽の中からやってきたようなエルフのような青年、ネイサンに向かって、そう言った。
「まあ、私がというわけでは無く、冒険者達が今後は頑張るということにはなりますが」
肩を竦めるとミルクティー色の髪の毛がさらりと揺れる。
「ギルドが上手く機能するように整える事を貴方にやっていただくことになりますね」
青年のエメラルドの瞳の中で、金色の星が瞬いた。
其れに一瞬目をやったあと、
「そうですね」
そう言いながら、公爵は肩を竦める。
「愚かすぎた王家の後始末を頑張るとしますか。残念な事にこの身はその血も受け継いでおりますのでね」
そう言って彼は、一度天を仰ぎ見るような仕草をした。
「もっともあなた方もご存知でしょうが、私自身に流れるシャガル王族の血もこの国の大勢の貴族家も全く興味が無いのですよ。いっそ全て滅びてしまえばスッキリすると思う位にはね」
「まあ、そう言うなよメイソン」
皇帝グエン・トリステスがソファーにひっくり返るように座ったまま声を掛けた。
「今迄王制でやってきた国が急に全部『辞めました』なんて事には出来んだろう」
スハイド公爵は頷くと
「それはその通りです。ただ、私がスハイド領を発展させて来れたのは領民と力を合わせることが出来たからです。私が王族だろうが貴族だろうが関係はありませんよ」
「ですが、最初貴方がスハイド領を賜って領地に行ったとき、領民は貴方が王弟であるからこそ自分達を助けてくれると期待もしたはずです」
ネイサンが微笑みを浮かべながらそう続けると、何かを考える顔になるメイソン・スハイド公爵。
「確かに・・・」
「王族が自分達の領主になったのなら、王家が自分達を見捨てた訳じゃ無いと領民達も喜んだんじゃないのか?」
グエンがメイソンの顔を覗き込むようにしながらそう言った。
「・・・確かに未だに王弟殿下と呼ばれる事がありますが・・・」
「王族は『旗印』の役割をこなせるのです。貴族とは別格なのです」
ニンマリ笑う聖王。
「使えるうちは、大いに利用しましょう、その血筋。その内に貴方がそれを捨てることが出来たとしても、今は時期尚早です」
「捨てる?」
「ええ。捨てるんですよ。やり方は教えましょう。ですが暫くは『民の為の旗印』として王弟という立場を使うのです。それは貴方にしか出来ません。平民をよく知る王族の貴方にしか。ね?」
ネイサンがウィンクをした。
「王族という立場を捨てる事が貴方の幸せなら、そうすれば良いだけなのですよ」
メイソン・スハイド・シャガルは彼の言葉に呆然としていた。
30羽ほどの個体の足元に小さな金色の魔法陣が次々と現れると、彼らの姿はどんどん消えていく。
「大神官様」
「何じゃ?」
「兎は全て転移させましたが」
「そのようだのう」
「餌とかは宜しいので?」
「ああ、そりゃあギルドの連中が上手いことやってくれてるから大丈夫じゃ」
「それでは、一度吾輩は帰還致します故」
寂れた廃坑の入り口に金色の魔法陣が現れ、白い猫メルヘンの姿がかき消えた。
「さあて、もう一仕事するかのう」
聖王ネイサンも首をコキコキと鳴らしながら、金色の転移魔法陣を展開して何処かに行ってしまう。
廃坑の奥から兎のスタンピングする『タタン・・・ タタン・・・』という音が闇の中で微かに響いていた・・・・
××××××××××
「それでは、この国の経済回復は軌道に乗る準備が整ったと思って良いのですね?」
メイソン・シャガル・スハイド公爵は落ち着いた声で眼の前に座る御伽の中からやってきたようなエルフのような青年、ネイサンに向かって、そう言った。
「まあ、私がというわけでは無く、冒険者達が今後は頑張るということにはなりますが」
肩を竦めるとミルクティー色の髪の毛がさらりと揺れる。
「ギルドが上手く機能するように整える事を貴方にやっていただくことになりますね」
青年のエメラルドの瞳の中で、金色の星が瞬いた。
其れに一瞬目をやったあと、
「そうですね」
そう言いながら、公爵は肩を竦める。
「愚かすぎた王家の後始末を頑張るとしますか。残念な事にこの身はその血も受け継いでおりますのでね」
そう言って彼は、一度天を仰ぎ見るような仕草をした。
「もっともあなた方もご存知でしょうが、私自身に流れるシャガル王族の血もこの国の大勢の貴族家も全く興味が無いのですよ。いっそ全て滅びてしまえばスッキリすると思う位にはね」
「まあ、そう言うなよメイソン」
皇帝グエン・トリステスがソファーにひっくり返るように座ったまま声を掛けた。
「今迄王制でやってきた国が急に全部『辞めました』なんて事には出来んだろう」
スハイド公爵は頷くと
「それはその通りです。ただ、私がスハイド領を発展させて来れたのは領民と力を合わせることが出来たからです。私が王族だろうが貴族だろうが関係はありませんよ」
「ですが、最初貴方がスハイド領を賜って領地に行ったとき、領民は貴方が王弟であるからこそ自分達を助けてくれると期待もしたはずです」
ネイサンが微笑みを浮かべながらそう続けると、何かを考える顔になるメイソン・スハイド公爵。
「確かに・・・」
「王族が自分達の領主になったのなら、王家が自分達を見捨てた訳じゃ無いと領民達も喜んだんじゃないのか?」
グエンがメイソンの顔を覗き込むようにしながらそう言った。
「・・・確かに未だに王弟殿下と呼ばれる事がありますが・・・」
「王族は『旗印』の役割をこなせるのです。貴族とは別格なのです」
ニンマリ笑う聖王。
「使えるうちは、大いに利用しましょう、その血筋。その内に貴方がそれを捨てることが出来たとしても、今は時期尚早です」
「捨てる?」
「ええ。捨てるんですよ。やり方は教えましょう。ですが暫くは『民の為の旗印』として王弟という立場を使うのです。それは貴方にしか出来ません。平民をよく知る王族の貴方にしか。ね?」
ネイサンがウィンクをした。
「王族という立場を捨てる事が貴方の幸せなら、そうすれば良いだけなのですよ」
メイソン・スハイド・シャガルは彼の言葉に呆然としていた。
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