上 下
52 / 100
episode2 恋ハ異ナモノ味ナモノ

18話 そしてやって来たイケオジ

しおりを挟む
 そんなこんなで転移門の再稼働の翌日の朝である。


 「いよう、お邪魔してるぜ」


 何故か神殿の応接室のドアを開けると、南大陸の英雄グエン・トリステス陛下が聖王ネイサンとお茶をしていた。


 「ちょ、ま・・・」


 絶句して動きが止まるのはミリアだけである。


 「あ、もう来たんですか。早いですね」


 ミゲルの方は平気な様子でさっさと挨拶代わりの握手をしている。


 「おう、転移門の作動確認がてら今朝こっちに来たんだよ、スクロールと違って魔力の消費が無いからやっぱり楽だなあ」

 「ああ、分ります。所でシンシアには知らせてますか?」

 「ん~~、来られなかったら不味いから知らせてねえな」


 ニカッと人懐こく笑うイケオジ陛下。

 何時もの軍服ではなく裕福な商人のような格好で例の水色の伊達メガネを掛けている。


 「呼びましょうか?」

 「ああ、儂が呼んであるから大丈夫じゃよ。そのうち来るじゃろう」


 ホッホッホッと陽気に笑う白い髭のサンタクロースならぬ聖王ネイサンである。


××××××××××


 「転移門を囮に使うんですか?」


 珈琲を口につける前だったので咽ずに済んだミリアである。


 「そうだ。このまま放置するのも寝覚めが悪いしな。幸い聖王殿も手伝ってくれるんでな」


 間諜という生業の者は多かれ少なかれどの国にも存在しているもので、どの国もある程度許容している部分が大なり小なりあるのだとグエンは言う。

 ただ、今回のシャガルの間諜は数が尋常ではなく皇城内で捕縛した数は30人、城外での捕縛15人。

 ちょっとした一個師団並みの人数だ。


 「奇襲攻撃を想定していたと言われても、仕方のない人数なんだ。ましてや他国の国民を人質に取って脅し、城の抜け道を探り出すなんて言うのは最早戦争を仕掛けるつもりだったとしか思えん所業だ」


 渋面になるグエン陛下。


 「国際法廷に訴えるっていう手も無きにしもあらずなんだがな。あの国は今までどんな判決を下されても従った試しが無いんだ」

 「え、そうなんですか」


 ミリアが聖王たち2人に目をやると頷いているのが見えた。


 「奴隷の開放や、他国から連れ去った魔法使いの開放も国際法廷で有罪判決されていても開放はしてない。賠償金は払ってるんだがな・・・」

 「・・・ 他国って、それ」

 「ハイドランジアじゃよ。他の国はこの国から連れ去った魔法使い達を帰国させるなり、国民として登録しそれなりの待遇を与えたりしてるんじゃがのう。如何せんあの国だけは前世紀のままなんじゃよ」

 「・・・・ 酷い、じゃあ、やっぱり今回の親子以外にも捕まってる人がいるんでしょうか」

 「其れは分からないな。内政干渉は国際法でご法度だから周りの国も手出しができないのさ。だが今回の間諜騒ぎに関してはちょっとばかしトリステスとしても見逃せんからな。何しろ他国を乗っ取るつもりだったんだからなぁ」


 グエンの笑顔が何か怖い・・・

 ブルッときちゃうミリアである。


××××××××××


 「グエン陛下、お久しぶりで御座います」


 神殿の知らせを受けてやって来たシンシア王女。

 応接室のドアを潜ったところで丁寧な深いカーテシーを披露する。


 白い肌と黒髪によく映えるモスグリーンのテイラード風のツーピースドレスはゴシック調の蔓薔薇の刺繍が銀糸で施されている。肩口はジゴ袖になっているが肘から先は細く腕に沿って繊細なギャザーが施され、袖口は小さなフリルで飾られている。
 ちょっと見は乗馬服の女性用ドレスのようにも見える。

 グエンは何も言わずに立ち上がるとツカツカと彼女に近寄り


 「会いたかった」


 そう言いながらグッとシンシア王女をその長い両腕で抱きしめたのである。

 当然。

 茹でた蛸のようにシンシアが真っ赤に染まったのは言うまでもない・・・


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚

mio
恋愛
ウェルカ・ティー・バーセリクは侯爵家の二女であるが、母亡き後に侯爵家に嫁いできた義母、転がり込んできた義妹に姉と共に邪魔者扱いされていた。 王家へと嫁ぐ姉について王都に移住したウェルカは侯爵家から離れて、実母の実家へと身を寄せることになった。姉が嫁ぐ中、学園に通いながらウェルカは自分の才能を伸ばしていく。 数年後、多少の問題を抱えつつ姉は懐妊。しかし、出産と同時にその命は尽きてしまう。そして残された息子をウェルカは姉に代わって育てる決意をした。そのためにはなんとしても王宮での地位を確立しなければ! 自分でも考えていたよりだいぶ話数が伸びてしまったため、こちらを姉が子を産むまでの前日譚として本編は別に作っていきたいと思います。申し訳ございません。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

砕けた愛は、戻らない。

豆狸
恋愛
「殿下からお前に伝言がある。もう殿下のことを見るな、とのことだ」 なろう様でも公開中です。

帰らなければ良かった

jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。 傷付いたシシリーと傷付けたブライアン… 何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。 *性被害、レイプなどの言葉が出てきます。 気になる方はお避け下さい。 ・8/1 長編に変更しました。 ・8/16 本編完結しました。

処理中です...