23 / 100
episode1 出会い。其れは唐突にやって来る♡
23話 走る皇帝陛下
しおりを挟む廊下を走るという行為は、はしたないとされるのが常ではあれども、有事の場合は黙認されるものである。
其れが例え高貴な身分の者であろうが、兵士であろうが関係はない。
今現在、皇城の中を走りまわっているのは何を隠そう、このトリステス帝国の最高位保持者(?)であるグエン皇帝陛下と閣僚達である。
そら、誰も叱れんわ。
「シャルム! この部屋の暖炉にある隠し扉を封鎖!」
「はい、陛下!」
声をかけられた宰相が次々と走りながらメモにペンを走らせながら並走している侍従に渡していく。
「次、こっちだ、客室!」
「はいぃ!」
メモを渡された侍従は直ぐに並走を止めて部屋のドア前に待機し、追い付いてきた兵士を指定場所に案内していく。そして監督官として法務大臣が立ち会う為に残る。
兵士達は指示された隠し扉の中へ魔石灯を抱えた者が先頭に立ち、続けて工具やら木材やらを抱えた兵士達がどんどん入って行く。
「スピード勝負だ。恐らく間諜共にバレた時点で相手国に筒抜けになる。自分ちの痛くない腹探られるなんざ割に合わん! 一気に塞げ!」
「「「「「了解ですっ!」」」」」
流石は戦場の最前線で生き抜いてきただけのことはあるとでも云えばいいのか、トリステスの皇帝陛下は元皇妃が隠し通路を使った事を知ると同時に間髪入れずに通路の封鎖に動いたのである。
トリステスの皇帝の直系血族は全ての隠し通路を子供の頃から覚えるが、余りにも数が多いため嫁いで来る皇妃は一番覚えやすいものだけを教えられる。
故に皇妃専用隠し通路という名称で呼ばれるのだ。
「こういう事を想定していたわけじゃないだろうがなぁ。まあ不幸中の幸いかね」
苦笑いをしながら次の隠し扉のある城の地下へとマントを翻しながら走っていく皇帝陛下である。閣僚のオジサン達もヒイコラ言いながら陛下の後を追いかけて行く。
隠し通路を全て把握しているのは、皇帝陛下と皇太子、第2皇子と皇女の4人なのだが皇太子は不在、第2王子は黒の塔で取り調べ中、皇女は心許無い・・・となればグエン陛下が走るしかない訳である。
「ここで最後だ」
地下にある会議室に入るとドアの正面にある壁に向かって近付くと、腰の高さの辺りを蹴飛ばした。
すると壁の一部が崩れて隠し通路が現れた。
「ここに関しては、バレてねえと思うが。一回通ったら穴が開くからな。だが情報として知られちまった可能性がある以上塞ぐしかねえな」
「そうでしょうな」
追いついた兵士達が通路の中へと入っていく。
「中になんにも潜んで無いことを確認でき次第着工しろ!」
「「「「「「「了解!」」」」」」」
穴の中から元気な声が返ってくる。
「合計5箇所ですな」
シャルム宰相が顰めっ面になる。
「ああ。皇妃に教える隠し通路はこれで全部だ。他の所も改めて調べなおしたいとは思うがな。今は無理だろう」
「しかし、あの方は一体どういうおつもりなのでしょうな?」
「左様。余りにも我ら帝国を馬鹿にしておる」
「1度ならずも2度までも二つ心を抱くとは・・・・ 之を知ったらご実家が泣きましょうぞ」
閣僚達も侍従や兵士達の手前があるため表立って名前を出すわけにもいかず、口元をわなわなと震わせて怒りを我慢している者も居る。
「まあ、理由はゲオルグが今取り調べてっから直に分かるだろうよ。今は通路の中に入ってった連中の報告待ちだ。それよか血圧上がるぞ。落ち着け」
気がつけば何時もの飄々とした陛下に戻っていた。流石である。
「殿下、旅行中の皇太子達に知らせますか?」
閣僚のオジサン達が困った顔で皇帝陛下の顔を見る。
「いや、良いだろう。折角の新婚旅行に無粋な真似もなぁ・・・ 今んとこ隠し通路の一部がバレただけだしな。一連の内容がハッキリしてからでいいだろう。不確定なものを教えた所で心配させるだけだ。それと何処が喧嘩売ってきたかって事次第だろうな・・・」
顎を触りながら目を細くする皇帝グエン。
「今日中に出来る事は、ほぼ終わったか?」
「そうですね、後は工事が終わり次第の確認作業と報告だけでしょうな」
宰相達が書類をペラペラ捲りながら確認する。
「よし。ちょっとだけ抜けるぞ」
「「「「は?」」」」
至極真当な顔で
「ちょっくら紅の離宮に行ってくる。後は頼んだな」
「「「「えー、陛下?」」」」
閣僚達が止める間もなく赤い絨毯を敷き詰めた廊下を風のように走っていく皇帝陛下。
「「「「陛下~!?」」」」
「おう、2時間位で帰って来るから心配すんな!」
遠くから怒鳴り声が返ってきた・・・
実に自由な陛下である。うん。
1
お気に入りに追加
177
あなたにおすすめの小説
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
hotランキング1位入りしました。ありがとうございます
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

親切なミザリー
みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。
ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。
ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。
こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。
‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。
※不定期更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる