【完結】引きこもり王女の恋もよう〜ハイドランジア王国物語〜

hazuki.mikado

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episode1 出会い。其れは唐突にやって来る♡

22話 恋の気付きと・・・

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 夢中になると昼食を摂るのも忘れてしまうのがシンシア王女である。

 そのハイドランジアの才媛のために、侍女がサンドイッチと薫り高い紅茶を入れるとソファーの前のローテーブルに置いた。

 その音で小さな録音用の魔道具から顔を上げるシンシア王女。


 「あら、もうそんな時間なの? また没頭しちゃってたわ」


 その途端バサバサと音を立てて膝から滑り落ちるのは、魔道具で再生した音声を書き取った書類の束である。


 「あら・・・」


 侍女は慣れたもので絨毯に落ちる前にすべりこみで書類をキャッチして机の上に角を揃えながら置いた。


 「・・・ 何時もありがとう」

 「いえ。とんでもございません」


 侍女は一礼をすると又元の定位置である壁際にひっそりと立つと、壁に擬態した。


 『本業は侍女さんじゃなくて、間諜じゃないの??』


 咄嗟の俊敏な動きを何度も見ているミリアは、注がれた紅茶に口をつけながら首を傾げる。


 「ねえ、ミリアちゃん」

 「はい?」


 ソファーへと移動しながら声を掛けるシンシアを見上げると、ちょっとだけ顔が赤い・・・


 「お聞きしたいんだけど」

 「はい?」

 「恋って楽しい?」


 ブホッと飲みかけの紅茶を吹きそうになり慌てるミリア。


 「た、た、たた、楽しい?!」


 ゲホゲホ咽てむせていると、ススっと音もなく近寄ってきた侍女にナフキンをサッと渡された。


 「あぅ。どうもありがとうございます」


 侍女にお礼を言いながら口元を拭うミリア。


 「楽しいですかね?」


 ううむ、と考えながら首を捻るミリアンヌ。


 「ヤダ、ほぼ毎日ミゲルと一緒にいるでしょ?」


 思わず眉尻を下げてしまうシンシア王女。


 「やー。まあ。楽しいっちゃ楽しいですけど・・・ ウ~ン、気持ちとしてはなんていうのか嬉しいとか?」

 「嬉しい・・・」

 「恥ずかしい、とか・・・」


 何やら思い出し顔を赤らめる美少女。


 「恥ずかしい・・・」

 「安心するとか・・・」

 「安心・・・」

 「後は、心不全になるとか」

 「? 危ないじゃない」

 「えー、こうこの辺りがキュンとするんですよね、一緒にいてもいなくても」


 胸のあたりを指差すミリア。


 「ああ。そういうこと。顔とか表情とか思い出したら、きゅんッてなるやつ?」

 「そうそう・・・ うん?」

 「あら?」

 「あれ? ひょっとして・・・」

 「・・・ あらぁ?」


 顔が更に赤くなり目が泳ぐシンシア王女。


 「・・・ グエン陛下ですよね。シンシア様」

 「ん~~ ん~~?」


 更に目が泳ぐ黒髪の美女・・・・


 「ウ~ン、ガンバッテクダサイ?」

 「何で棒読みなのかしら?」

 「ヤー国際的ナ婚姻テイッテタシー」


 首を傾げながら


 「婚姻を結ぶならそうなるわね」


 そう言って目を伏せる王女に首を更に捻るミリアであった。


××××××××××


 「ねー、リンダ教官」


 演習場で走り込みをしながら赤い騎士見習いの制服を着たロザリア皇女が緑色の騎士服を着た、教官役のリンダに声を掛ける。


 「なんですかロザリア嬢。無駄口はあまり叩かないほうが身のためですよ」


 すぐ横を並走するリンダが返事をした。


 「何でゲオルグ兄様は今日はいないの?」

 「昨日の後始末にございます」

 「夜会の?」


 首を傾げながら走る皇女。


 「昨日の夜会に紛れ込んでいた間諜達の後始末ですよ」

 「え、そんなのいたの?」

 「ええ、黒の塔の地下の牢屋がいっぱいになるほどらしいですね。どうもハイドランジアの王女を狙って居たようです」

 「な、なんですってー! あの御尊顔の方を狙うなんて万死に値するわねっ!」

 「・・・・いや、まあいいです。黒の塔は今貴族室以外は満杯のようですので近寄らないでくださいね」

 「はーい」

 「あと皇城の一部が改装されるそうですので、そっちも近寄らないように」

 「え? 何で?」

 「どうも他国に皇室の抜け道の一部が漏れてそこから侵入されたらしいですね。突貫作業ですぐ終わるようです」

 「へえ~。何処がバレたんだろ??」

 「わかりませんが。漏洩元も分かっているようですので、大したことはないと思いますが、お気をつけください」

 「ふーん。分かった」

 「言いつけを守らない場合はランニングを2時間延長しますよ」


 うえっ! 何でわかるの? という顔でリンダを睨むロゼリア皇女。

 しらっとした顔で


 「守ればいいだけですから」


 そう言いながら、汗の一つもかかないリンダ護衛騎士であった。


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