上 下
20 / 100
episode1 出会い。其れは唐突にやって来る♡

20話 間諜の降る夜

しおりを挟む

 「うわぁ~ 又だよ。どうなってんだ?!」


 濃いグレーの軍服、トリステス帝国の一般的な兵士の為の制服を着た男性が頭を抱えながら叫んだ。


 夜会での様々な思惑を他所に、こちら皇城の離れにある黒の塔と呼ばれている場所である。

 客人を饗す為の離宮とは目的が違い、罪を犯したものを突っ込んどく場所。

 つまり監獄。

 地下2階から始まり最上階は5階迄あり下の階程罪が重いといった仕組みである。余談ではあるが、最上階の5階は貴族階級の犯罪者向けになっているらしい。


 「うわ! また来やがった!」


 見廻りの兵士達や看守が見守る中、鍵のかかった鉄格子の向こうに銀色に輝く蓑虫のようにロープのようなモノがグルグル巻き付いて縛られた? 人間が勝手に増えていくのである・・・

 銀色の蓑虫状の連中はほぼ気を失っているようで全く声は出さないが、揃いも揃って『如何にも、間諜ですよ!』的に黒ずくめの衣装を着ている。

 中には貴族服を着ている者やドレス姿の者もいるので、看守も兵士も大混乱である。


 「上に報告、誰か行ったか?」

 「行ったぞ。ゲオルグ殿下は夜会の真っ最中だから班長クラスに伝令が走っていってる・・・!」

 「うわぁ、また来たぞおい。どうするよこれ?」


 牢屋の中にどんどん山積みになっていく間諜達と、仕組みが分からないので慌てふためく兵士達・・・


 黒の塔から見える皇城の窓は美しく夜会から漏れる光が輝いていた。


××××××××××



 「ご主人様。この会場にて目印を持たずに不法侵入しておりました他国の間者は、全て黒の塔に送りつけ終了しました」

 「あ。スマンなメル。じゃあ、皇帝陛下に伝えとくわ。そのまま待機しといてくれ」


 ミゲルの足元に魔道具越しに見える白猫が恭しく礼をして、又後ろに下がる。


 「ミゲルさま? メルちゃんどうしたんですか?」

 「あ~、後で説明するわ」


 首を傾げる魔導師姿のミリア他所に、グエンの耳元に何かを伝えるミゲルである。

 「おう、了解だ。御苦労さん」


 グエンが一言だけそう言うとミゲルも元の位置に戻る。

 ミリアが不思議そうに首を傾げているとグエン陛下が離れてハンカチを握っている大臣達に向かって手招をした。


 「おい、お前達何やってんだ」


 呆れ顔の陛下である。


 「「「「「いえ、感無量で」」」」」


 若干鼻が赤いオジサン達。


 「感動してねーで、ダンスカード所持してない連中を黒の塔に纏めてあるらしいから見に行ってくれ」


 大臣達が顔を見合わせるとそのうちの2人が簡易の礼をするとスタコラ出口へ早足で去っていく。


 「いつの間にそんな事やっとったんですか?」


 宰相が眉根を寄せるのを見ながら陛下がニヤニヤ笑って、


 「ハイドランジアご一行様がやっといてくれた。貴族服を着てる奴らも居るらしいから、慎重に頼んだぞ」


 そう言いながら顎を擦った。


 「陛下、何かございましたの?」


 上品に首を傾げるシンシア王女。


 「ああ。この夜会の招待客は全員ダンスカードを身に着ける事になってるんだが、持ってない連中が紛れ込んでたってだけさ」

口の端を上げながら器用にウィンクをする皇帝グエン。


 「ああ。なるほど。おいでになられたのですのね。その方々は」

 「そういうことだ。カードを左手にリボンで結ぶようにするか胸ポケットに入れるかしねえと絶対に入場させねえからな」


 「今までもそうでしたの?」

 「いや、今回だけだな。貴女の安全のためにそうさせてもらった」


 そう言いながらエスコートしている左の肘に巻き付くシルクの手袋に包まれた王女の手を右手で包み込み、顔を覗き込む。


 「ありがとうございます」


 赤い紅が蠱惑的な弧を描いた。


 「貴女が世界中の国から欲されているのは知っていたが、此れほどとは思わなかったよ」


 溜息をつく皇帝を見上げながら


 「ワタクシはハイドランジアから離れた事が今迄なかったので珍しいだけかもしれませんわよ?」

 「そうかもしれんが。確かに貴女の祖国は他国に比べると間諜泣かせだよ。裏の情報は殆ど流れてこない。流れてくるのは正式に発表されたものか、流出を許されたものだけのような気がするね」

 「国外への情報流出制限は一切されておりませんわよ?」


 首を傾げる黒髪の美女。


 「ただし入出国に関しての制限は厳しいですわね。歴史が歴史ですので。国民を守るのが私共の責務ですから・・・」

 「そうだったな」


 睫毛を伏せるハイドランジアの王女を見つめる瞳は甘い。

 そして周りのオジサン'Sはそれを見てまたもやハンカチで目を拭う。


 「「「「陛下にやっと春が!」」」」


 「だから、お前らちょっとだけ離れろよ・・・」


 皇帝陛下が肩を落として溜息を付いた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

W-score

フロイライン
恋愛
男に負けじと人生を仕事に捧げてきた山本 香菜子は、ゆとり世代の代表格のような新入社員である新開 優斗とペアを組まされる。 優斗のあまりのだらしなさと考えの甘さに、閉口する香菜子だったが…

来世にご期待下さい!〜前世の許嫁が今世ではエリート社長になっていて私に対して冷たい……と思っていたのに、実は溺愛されていました!?〜

百崎千鶴
恋愛
「結婚してください……」 「……はい?」 「……あっ!?」  主人公の小日向恋幸(こひなたこゆき)は、23歳でプロデビューを果たした恋愛小説家である。  そんな彼女はある日、行きつけの喫茶店で偶然出会った32歳の男性・裕一郎(ゆういちろう)を一眼見た瞬間、雷に打たれたかのような衝撃を受けた。  ――……その裕一郎こそが、前世で結婚を誓った許嫁の生まれ変わりだったのだ。  初対面逆プロポーズから始まる2人の関係。  前世の記憶を持つ恋幸とは対照的に、裕一郎は前世について何も覚えておらず更には彼女に塩対応で、熱い想いは恋幸の一方通行……かと思いきや。  なんと裕一郎は、冷たい態度とは裏腹に恋幸を溺愛していた。その理由は、 「……貴女に夢の中で出会って、一目惚れしました。と、言ったら……気持ち悪いと、思いますか?」  そして、裕一郎がなかなか恋幸に手を出そうとしなかった驚きの『とある要因』とは――……?  これは、ハイスペックなスパダリの裕一郎と共に、少しずれた思考の恋幸が前世の『願望』を叶えるため奮闘するお話である。 (🌸だいたい1〜3日おきに1話更新中です) (🌸『※』マーク=年齢制限表現があります) ※2人の関係性・信頼の深め方重視のため、R-15〜18表現が入るまで話数と時間がかかります。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

俺様御曹司は十二歳年上妻に生涯の愛を誓う

ラヴ KAZU
恋愛
藤城美希 三十八歳独身 大学卒業後入社した鏑木建設会社で16年間経理部にて勤めている。 会社では若い女性社員に囲まれて、お局様状態。 彼氏も、結婚を予定している相手もいない。 そんな美希の前に現れたのが、俺様御曹司鏑木蓮 「明日から俺の秘書な、よろしく」 経理部の美希は蓮の秘書を命じられた。     鏑木 蓮 二十六歳独身 鏑木建設会社社長 バイク事故を起こし美希に命を救われる。 親の脛をかじって生きてきた蓮はこの出来事で人生が大きく動き出す。 社長と秘書の関係のはずが、蓮は事あるごとに愛を囁き溺愛が始まる。 蓮の言うことが信じられなかった美希の気持ちに変化が......     望月 楓 二十六歳独身 蓮とは大学の時からの付き合いで、かれこれ八年になる。 密かに美希に惚れていた。 蓮と違い、奨学金で大学へ行き、実家は農家をしており苦労して育った。 蓮を忘れさせる為に麗子に近づいた。 「麗子、俺を好きになれ」 美希への気持ちが冷めぬまま麗子と結婚したが、徐々に麗子への気持ちに変化が現れる。 面倒見の良い頼れる存在である。 藤城美希は三十八歳独身。大学卒業後、入社した会社で十六年間経理部で働いている。 彼氏も、結婚を予定している相手もいない。 そんな時、俺様御曹司鏑木蓮二十六歳が現れた。 社長就任挨拶の日、美希に「明日から俺の秘書なよろしく」と告げた。 社長と秘書の関係のはずが、蓮は美希に愛を囁く 実は蓮と美希は初対面ではない、その事実に美希は気づかなかった。 そして蓮は美希に驚きの事を言う、それは......

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

薔薇の姫は夕闇色に染まりて

黒幸
恋愛
あらすじで難解そうに見えますが本編はコメディです、多分メイビー。 その世界は我々が住む世界に似ているが似ていない。 我々がよく知っているつもりになっているだけで、あまり知らない。 この物語の舞台は、そんなとある異世界……。 我々がイタリアと呼ぶ国に似たような国がその世界にはある。 その名もセレス王国。 重厚な歴史を持ち、「永遠の街」王都パラティーノを擁する千年王国。 そして、その歴史に幕が下りようとしている存亡の危機を抱えていることをまだ、誰も知らない。 この世界の歴史は常に動いており、最大の力を持つ国家は常に流転する。 今この時、最も力を持った二大国とセレス王国は国境を接していた。 一つは、我々が住む世界のドイツやフランスを思わせる西の自由都市同盟。 そして、もう1つがロシアを思わせる東の自由共和国である。 皮肉にも同じ自由を冠する両国は自らの自由こそ、絶対の物であり、大義としていた。 本当の自由を隣国に与えん。 そんな大義名分のもとに武力という名の布教が幾度も行われていた。 かつての大戦で両国は疲弊し、時代は大きく動き始めようとしている。 そして、その布教の対象には中立を主張するセレス王国も含まれていた。 舞台を決して表に出ない裏へと変えた二大国の争い。 永遠の街を巻き込んだ西と東の暗闘劇は日夜行われている。 そんな絶体絶命の危機にも関わらず、王国の民衆は悲嘆に明け暮れているかというとそうでもない。 そう、セレス王国には、最後の希望『黎明の聖女』がいたからだ。 これは歴史の影で誰にもその素顔を知られること無く、戦い続けた聖女の物語である。 そして、愛に飢えた一人の哀しき女の物語でもある。 旧題『黎明の聖女は今日も紅に染まる~暗殺聖女と剣聖の恋のシーソーゲーム~』 Special Thanks あらすじ原案:『だって、お金が好きだから』の作者様であるまぁじんこぉる様

果たされなかった約束

家紋武範
恋愛
 子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。  しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。  このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。  怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。 ※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

処理中です...