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episode1 出会い。其れは唐突にやって来る♡

19話 エスプリの効いた夜をアナタに

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 人の噂ほどアテにならない。

 見かけは人目を引く華やかな美女で、各国の王族から求婚されているという噂もあるシンシア王女だが、意外にも自国の茶会にも夜会にもほんの少ししか顔を出さないことは大変有名であり、きっと高飛車で横柄な人物――そう想像していた者はきっといたであろう。


 『ハイドランジアの人間はいい意味でも悪い意味でもいつもこちらの予測を裏切って来るなぁ』


 ゆるりとした優雅な所作で周りに侍ってくる学者達と意見交換をする姿は如何にも王族女性なのだが、会話の内容は文学、科学、経済と、あらゆる博識層達との会話を男性顔負けの見識とウィットの効いた話術で渡り合っている。

 そして何よりも会話内容そのものを楽しんでいるように見える。

 学者達は基本的に人の美醜よりその知識や見識の深さに重きを置くものが多く
彼らも彼女の魅力に気が付いたようで更に深い会話を愉しもうと試みる。

 その掛け合いは傍から見ると嫌味の応酬のようにも見えるのだが、其れが彼女の動作一つで高尚な社交のようにも見えてしまう・・・


『なんというか規格外な人物ばかりだな。の国は・・・・』


 顎に手を添えながら、未だ学者達が彼女と自分をとりまき熱中している様を愉しげに見回した後、自分たちの後ろに控えているハイドランジアの護衛2人を見遣りながら、


 『良くも悪くも御伽の国って所かねぇ』


 護衛の後ろに更に控えているであろう姿の見えない白猫も一緒に思い出してフッと笑った。


××××××××××


 一方問題児で周りの見解が一致していらっしゃるロザリア皇女は、何故か兄であるゲオルグと踊った後、大きな柱の影に隠れてジッと学者達が山のように群れている辺りを見つめている・・・


 「おい、ロジー何してんだ」

 「煩いわよお兄様。私は忙しいんだからあっち行っててちょうだい。リンダがが一緒だからいいでしょ!」


 彼女の後ろで女性護衛騎士がちょっとだけ表情を揺らす。


 「・・・ 柱に蝉のようにくっついてるのが用事なのか?」


 仔犬のように愛くるしい姿の妹姫を呆れ顔で見つめる第2皇子。


 「違うわよ~、あの方のご尊顔を見てるだけに決まってるじゃない!」

 「「は?」」

 「シンシア様の顔を見てんのよ!」

 「「・・・・」」


 どうやらミゲルによく似た顔を拝んでいるらしいロザリア皇女。


 「殿下、ここは大丈夫ですので貴族達との社交をお願いします。あ、独身の子女との交流は忘れぬようお願いします」


 リンダが溜息を1つ付きながらそう言う。

 それに頷き心配そうに振り返りながら貴族の輪に戻っていくゲオルグ。

 彼女は、上官に騎士の礼をした。


××××××××××


 さて、時間も夜会開場から2時間ほど経った頃である。


 「もうそろそろ退場してもいい頃合いだが、どうする?」


 皇帝グエンが魔石の最新の利用方法で学識者と意見交換が丁度終了したばかりのシンシア王女に声を掛ける。


 「あら、そんなお時間ですのね? 余りにも楽しかったので・・・ こんなに大勢の高名な学者様達とお会いできる夜会など初めてでしたので夢中になりすぎていましたのね。申し訳ございませんわ」


 彼の肘にぶら下がったまま、思わず頬を薔薇色に染めてしまうシンシア王女。


 「確かに今迄見た貴女の姿の中でも一番饒舌だったな」


 そう言いながら彼女の頬に手を添え、赤い紅の端に親指を添える。


 「その夜の様な瞳に、一向に俺を映してくれぬので少しばかり嫉妬した」

 「まぁ」

 「貴女を夢中にさせる学者を取り揃えた大臣に文句を言っておこうか」


 そう云いながらニヤリとし、親指をそっと紅の端からその膨らみの中心に器用に動かす。


 「陛下、御冗談を。重鎮の方々は私が夜会に飽きぬように彼らをお招き下さったのですわ」


 妖艶な笑みをそのかんばせに浮かべ、彼の肘に掴まった右の手の上に左手を添える。


 「では、褒美を取らせるとするか」


 顎を天井のキラキラ輝くシャンデリアに向けて、溜息を付いて見せる皇帝陛下。



 「是非に」


 そう云うシンシア王女の耳は薔薇色に染まっている。

 少しばかり離れた位置に陣取っているこの国宰相以下大臣達が、柱の陰でハラハラしながらその様子を見つめ、ハンカチで目を拭いながら、


 「「「「やっと陛下に春が!」」」」


 と口々に呟いているのが見える・・・(汗)


 全員皇帝陛下より20歳近く離れているため、親戚のオジサン達が甥の初恋を見守るようである・・・


 いや? それにしちゃ手慣れすぎているかな? 陛下が。


 一方此方こちらはハイドランジアの護衛役の2人である。


 『すげーなシンシアが夜会に2時間も居るとか最長記録だぞ』


 魔道具の眼鏡を外し、ホール中央付近の天井近くに据えられている壁時計を見ながらミゲルが呟く。


 『え、そうなんですか』


 思わずビックリして、ミゲルを見上げるミリア。


 『おう。最長で1時間。最短で陛下の開場の挨拶が終わると同時にひっ込むのが常だったからな』

 『エスコートし甲斐がありませんね~』

 『いや、楽で良かったがな』


 そう言って肩を竦める茶髪の護衛騎士姿のミゲル。


 『・・・・』 


 まあ、姉弟みたいなもんだしな、と一応納得のミリアである。

 自然と首は傾げているのだが・・・


 様々な思いが交錯する夜会である。


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