上 下
159 / 199

159 お嬢様呼びは説教コース。

しおりを挟む



 公爵家のお忍び用馬車に乗り、城下街に向かう主人リアーヌに向かい、懇々と説教をかます専属侍女マーサ。


「そもそもハンスはお嬢様の護衛ですから、呼び戻すのは簡単なんです。

 魔鳥を飛ばせば直ぐ解決ですから」


 確かにそうである。

 ハンスはリアーヌの護衛兼間諜兼従者である・・・ 顔をあまり見ないせいで偶に忘れそうになるが。


「はい・・・」

「コックス様の身の安全を考えて下手にハンスを呼び戻したくないと考えた上での行動だとは思いますが、お嬢様の身に何かあったら本末転倒ですよね?!」


 浅葱色の髪色をした侍女の片方の眉尻がググッと上がる。


『勿論わかってますよね?』


 ・・・という無言の圧が凄い。


「はい・・・ ソウデスネ」

「お嬢様に何かあればレイモンド様や旦那様達に顔向けできなくなるのは、お屋敷にいる使用人全員なのです。

 考えなしに飛び出すのはおやめ下さい」


 溜息を吐くマーサにリアーヌ、ショボーンである。


「・・・ゴメンナサイ」

「それと。

 王都に住み始めてからは猫100匹くらい身体中に貼り付けて10年近く淑女のフリで頑張って来たことを私もよく知っております。

 ですので今のお嬢様の方が本来の性格だということはよお~~~~く分かっておりますので、今更驚きません」

「・・・ハイ」

「ですが領地での振る舞いを全く知らない使用人も大勢いますので、気をつけ下さいませ?」

「・・・ハイ」

「それから。

 ご家族以外の貴族達も猫を被ったお嬢様しか知らないんですからね?

 くれぐれも忘れないで下さいね」

「は~い」

「・・・・・・」


 マーサの目が細くなる。


「ゴメンナサイ。

 ・・・ところでマーサ。

 お嬢様呼びに戻ってるわよ?」


 そ~っと上目遣いになって、侍女の顔を覗く若奥様。


「わざとです。

 『リアーヌ奥様ッ!』

 って言いながら説教するイメージが自分の中に無いんですよ。

 諦めて下さい」


 マーサに怒られる時は『お嬢様』呼びなのね、と諦め顔になるリアーヌであった。



 ×××



 一階に喫茶店、2階に恋愛相談所のある建物の向かい側の馬車溜まりにお忍び用の馬車が止まり、そこから歩いてフロイラインの恋愛相談所ローラを目指してマーサをお供に歩き出すリアーヌ。

 
「今日は通りに人が多いわね」


 如何にも平民ですという格好の親子連れから、恐らくは貴族のお忍びなのだろうと思えるような身なりの良い者まで。

 様々な階級の王都民が石畳の通りを大勢歩いている。


「今日は日曜日ですからね」


 マーサに言われてちょっと考え、


「あ。そうだったわね」


 と、相槌をうつリアーヌ。

 曜日の感覚が無いのはレイモンドのだと知っているマーサが生温い視線になったが、


『お嬢様が幸せならまあいいか』


 と思いながらウンウンと頷いた。



 ×××



 「まーったくッ! 失礼しちゃうわッ」


 未だに痛い尻を擦りながら客室のソファーに浮いたまま座る格好で不機嫌な顔になり、兄が慌てて出て行ったドアに向かって『アッカンベー』と舌を出すマリーナ皇女。


「お兄様ったら堅物なんだからッ。

 そんなんだからヒロインにアッサリメロメロになって攻略されちゃうのよッ!

 って言ってもヒロインはいないんだっけ・・・」


 そう呟きながら、窓の外に目を向ける。


「あーあ、今日の晩餐までにハロルドさまの追っかけをする予定だったのに・・・

 でもなぁ・・・」


 勝手に彷徨いたら速攻で本国に送り返すと言われたばかりなのでウ~ンと悩む皇女殿下。


「ん? あれ? ・・・」


 魔塔と騎士団の詰所の間にある中庭を歩いていく文官が目についた。

 風にフワリと広がり陽に当たると黄金にきらめくサラリとした金髪に細くスラリとした身体付き。

 高い身長から考えても、かなり長い割合の足。

 急に、何故か止まって後ろを振り向いた時にちらりと見えた顔は・・・


「もしかして、アレ・・・ レイモンド様?」














~~~~~~~~~~


生活時間が新しい家族(オカメインコ)の世話でまるきり変更になってしまい、夜中に執筆が出来なくなってしまいまして。

朝が早いので12時には寝てしまうのです・・・・(⁠ ⁠;⁠∀⁠;⁠) インコ早起きw

 今日から更新時間を8時→20時に変更します(_ _)


しおりを挟む
感想 207

あなたにおすすめの小説

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?

ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。 だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。 これからは好き勝手やらせてもらいますわ。

【完結】え、別れましょう?

須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」 「は?え?別れましょう?」 何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。  ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?  だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。   ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

冤罪から逃れるために全てを捨てた。

四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

処理中です...