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153 製作者か? 手渡した人か? それとも・・・③
しおりを挟む胸を押さえてソファーの座席に反対の手を付いて仰け反るハロルド王子に向かい鼻息を荒げて茶色く染まった髪をかきあげつつ伊達メガネのブリッジをクイッと上げるフロイラインの言葉に慌てたのは、何を隠そう殿下であった。
「え? どういう事だフラウ?」
仰け反っていた姿勢から思い切り飛び跳ねるエビの様にピョンと姿勢が良くなるハロルド。
「何がですか?」
未だ鼻息を荒げ、腰に手を置いたままフロイラインは渋顔になった。
「『嫁どころか領地のために婿を構えなきゃいけない』ていうやつと、
『他国に高飛びも王宮女官も無理』って奴だよ!?」
「あ~ ソレ? コックス領って位置的に微妙なくせにこの国を代表するような希少ワインの産地なんですよ」
「ああ、それは知ってるが・・・」
「でもコックス領は魔物が隣国から侵入する可能性が高いんです。
で、私の先祖が聖女だったらしくてコックス家は代々聖属性の魔力持ちが産まれるので、魔物の侵入を防ぐために領地から離れられないんですよ。
祖父に社交とかどうしてたんだって聞いたら、魔石に聖属性の魔力を蓄えて領地の教会に奉納しておくっていう方法があるらしいんですが、その方法でも、保って1ヶ月くらいなんです。
領地には王都から馬車で4、5日、魔馬で1日半から2日なのでギリギリ王都での社交シーズンに参加できるらしいですが、コックス家の者が1ヶ月以上の長期にわたってあの土地を離れることは出来ないんだそうです。
コックスの直系は今や私と祖父しかいないので、領地と伝統のワインを守ろうと思うと私が婿を貰うしか方法がないんですよ」
肩を竦めるフロイライン。
「まぁ、コックス家は男爵位ですから上は伯爵、子爵。
下は準貴族や上級平民までの範囲で婚姻できますから、上の爵位の家を望まなければ何とかなるかなとは考えてますけどね」
あっけらかんとフロイラインに説明されて鈍器で頭を殴られたようにショックを受けるハロルドだった。
×××
「フラウはちゃんと領地のことや、自分の将来の事を考えてるんだな・・・ 俺より年下なのに」
だって、前世2?歳+14歳だよと思わず言いそうになって口をむにょむにょさせてしまうフロイライン。
「いや、まぁこの世界って魔獣もいるし。
領地貴族なんだから領地や領民のことも考えなきゃでしょ?
以前は義両親の事があったんで、逃げようって考えてましたけど、あの人達詐欺師でコックスの血筋とは全く関係なかった訳ですし・・・」
それでも凄いよ、と力なく笑うハロルド殿下。
「俺は未だに王子領の事で悩んでるし、リアーヌとの婚約を白紙にしたことをクヨクヨ悔やんでる。
なんだか、ずっと同じ所で足踏みしてるだけみたいな気がしてさ・・・」
フロイラインの首から下がる護符に目を向けると、
「さっきだって護衛の男にアクセサリーを渡されて嬉しそうにするフラウを見て、何でだかイライラしたし・・・」
「え、これですか?」
そう言って、シャラリと音をさせて胸元の護符を触るフロイライン。
「あいつが選んだんだろ?」
「へ? いや、多分これ作ってくれた人が私に渡してくれって言って預けられただけだと思いますけど・・・」
そう言いながら
『絶対レイモンドが作ったんだよな~』
と、頭の中に元従姉妹の旦那になった腹黒男を思い浮かべ微妙な顔になる。
女の勘だが、アレは絶対見かけ以上に厄介な人物だとフロイラインは気が付いている・・・
――まぁ、ゲームではヤンデレだし。
「ところでどうして私がハンスさんにコレを渡された事が殿下のイライラの原因になるんですか?」
コテンと首を傾げるフロイラインである。
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