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52 行動する男

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 「フラメア卿、詳しい説明をするので此方に来て下さい」


 レイモンドを呼んだのは宰相、副騎士団長、担当の騎士隊長という見るからに厳つい集まりだ。


「犯人達の本拠地はやはり隣国だった。

 確かに宝飾品の鑑定は難しいが、本物そっくりのイミテーションの宝飾品を作りそれに元々本物についていた鑑定書を付けて販売していた。

 宝飾商の正規ルートには引っかからない王都の質屋を介していたとは・・・」


 宰相と騎士団長が苦虫を潰したような顔をする。


 貴族とて華美にしたくて身を飾っているわけでは無いのだが、家宝に加えられるような宝飾品以外はどうしても女性同士の見栄からか新しい物を手に入れたがる。

 1度使ったものは既に用無しという感覚もあり意外にも馴染みの商人を通じて売り払ったり自身で質屋に持っていく貴族女性は案外多いのだ。

 反対に質流れ品をお忍びで買いに出かける貴族女性も当然多いのだが、それを大っぴらにする者はまず居ない。

 詐欺集団の片棒を担いでいた大手質屋の主人一家は既に隣国の者達と入れ替わっていて、従業員達も大半が隣国の者になっていた。

 ほぼ全員が殺されたか奴隷として売り飛ばされていたらしい。

 商売に関わりのない雑用夫達はそのまま勤めていたが彼等が主人一家に会うことなどほぼ無いし、指示や給料を払う者が急に変わったとしても彼等の立場なら誰も気にしないものだ。

 翻って購入する側の夫人や令嬢達も人目を忍ぶためにベール等を使用し商談相手の顔を確認できない上に、そもそもが宝石には鑑定書が付いているので偽物とは全く思っていない。

 しかも正規価格よりかなり安く手に入れられることに舞い上がっていたり、中古品を買う事に後ろめたさを持つため相手の人相など気にも掛けないのが現実なのだ。


「見栄ねえ・・・」

「男にはわからん世界だがな」

「それで捜査が難航してたんですから文句も言いたくなりますよ」

「で、今朝のコックス男爵家との関わりは?」

「詐欺集団の一味だな。どうやら領地内で受け取りをしているらしいんだが・・・ 聞いたことのある名だろう? コックス男爵家」


 全員がその場で困り顔で押し黙った。


「殿下の寵愛を受けてるって云うご令嬢の家だな。レイモンド?」

「はい。元は脱税の疑いで調べていて確認しました。令嬢は対外的には養女となっされていますが、彼女が本来正当な男爵家の相続人です。

 男爵を名乗っている男は令嬢の実の父親の弟で、本来なら中継ぎにすぎない後見人でしかありません。

 コックスの籍から一度抜かれて平民になった経歴のある奴でした」


 手に持っていたメモの束をレイモンドは宰相に渡して、


「彼の経歴は隣国に長い間留学していた事になっていますが、聞き込みの結果実際は放逐でした。

 原因は家の金を博打に注ぎ込んで父親から絶縁を申し渡されたようです。

 両親と兄夫婦が馬車の事故で死亡した事で急遽帰国後、後見人の申請をしています。

 その際に生き残ったフロイライン嬢を養子にする手続きをしていますが平民だったので許可が降りなかったようです。手元のメモを見て下さい」


 全員揃って、宰相の手元をバッと見た。


「ただその現当主と名乗っている男が怪しくてですね、彼自身が隣国で大怪我をして入院中に一度失踪したという記録がありました」

「どういうことだ?」

「病院の記録では顔に大怪我をしたことになってますね、特に右目の損傷が酷く失明しているはずです。

 しかしコックス男爵には怪我の跡は一切なく、目にも問題は無さそうです。

 治癒魔法でも体の欠損は治せませんから十中八九偽物でしょう」

「入れ替わりか・・・」

「お前、いつの間にそんなに詳しく調べたんだ?!」


 驚く宰相。


「え? 昼休憩の時にですよ? ちょっとツテがあって調べときました」


 涼しい顔でそう言ったレイモンドだが、まさかたったの1時間の間に男爵領とに彼が直接聞き込みに行ったとは、その場の誰もが思わなかった・・・。






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