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9章 オリヴィエ・アボット〜過去〜
89. オリヴィエ・アボット⑭〜接近遭遇再び。
しおりを挟む午後の最終授業が恙無く終わったことを知らせる鐘が鳴るとほぼ同時に、手早く鞄に自分の荷物を片付けると席を立ったオリヴィエ。
――誰にも呼び止められないうちにさっさと寮に戻らなくちゃ・・・
寮が安全かと言うと昨日の『んまぁ』事件があったので、気は抜けないのかも知れないが学園の方が大勢の生徒出くわす可能性が大きいので長居はしたくない――何でこんな事に・・・と憤りを感じつつも早足で廊下を進み校舎を出ると、寮へと向って一目散に駆け出した――筈だったのだが。
焦っていたのだろう、足元の小石に蹴躓いて勢いよく鞄が手から離れて足は見事に置き去りとなった格好で地面に向って彼女は見事にダイブした・・・
「ひえぇえッ!」
淑女にあるまじき? 悲鳴を上げながら次にやってくる衝撃に思わず目を瞑る。
が、膝の痛みや地面の感触はやって来なかった。
「? あれ? え?!」
閉じていた目を開けるとそこには地面。
「ひえッ!」
後30センチ程度で顔が地面に激突ッ! という状態で彼女の体が宙に浮いていたのである。
「淑女が走るもんじゃない。間に合って良かったが」
何処かで聞いたことのあるようなバリトンボイス・・・恐る恐る声のした方を向くと真っ先に目に飛び込んできたのは赤銅色に近い赤。
「殿下・・・」
「お、さっきアインスに渡り廊下で絡まれてた下級生か。大丈夫か?」
後ろに側近を3人ほど後ろに引き連れたウィリアム王子が呆れた顔で自分を見ているのが目に映った。
×××
「ありがとうございました・・・」
深々と45度の角度でお辞儀をするオリヴィエ。
「お、おう」
間一髪のところで魔法で彼女の身体を浮かせてオリヴィエを救ってくれたウィリアムは何故か眉間にシワが寄っていて、眉尻が下がり困った顔をする。
彼の側近達が気を利かせて彼女の鞄から飛び出した教科書やノートを拾い集めてくれる中、恥ずかしいやら情けないやらで顔を赤くしたまま45度のお辞儀から頭を上げられないオリヴィエ。
「重ね重ねありがとうございましたッ! 殿下に助けて戴いたのはこれで3回目です」
――ひぃ~恥ずかしい・・・
「3回?」
「はい、新学期が始まって直ぐに競技場の入口で靴の踵が引っかかって転びそうになったのを助けていただきました。それと昼の例の・・・」
「あ~・・・渡り廊下と今のやつな、成る程。まぁ、良かった怪我がなくて」
「はい。あ、でも魔法・・・良かったのでしょうか」
思わず心配になってガバリと顔を上げたが、彼は苦笑いして
「ああ、俺が学園内で魔法を使えるように、さっき登録してきたばかりだからそれは大丈夫だ」
学園内の指定された場所以外で魔法を使えるのは教師だけだ。
彼等は個人々々の魔法波長を学園に登録してあるのだが、それは何処でどういう必要性があって使ったのかが、後で証明出来るようにするためだ。
その教師と同じ登録をウィリアムはしてきたのだという。
「学園長に許可を取って、登録した所だったんだよ。だから気にするな」
面倒なので転移魔法を使えるようにしてくれ! と、ウィリアムが直訴したからである。
×××
側近たちが集めて来たモノを鞄とともに彼女に手渡しながら
「全部あるかどうかご確認ください」
と言われて、慌てて鞄の中を覗き確認し始めるオリヴィエ。
ソレを眺めながら、なんとも言えない表情で
「ピンクの髪・・・」
と、ウィリアム王子がボソリと呟いたが、彼女の耳には届かなかった。
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