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7章 東部辺境伯領
72.お預け。そして殿下の噂
しおりを挟む以後は辺境伯夫妻が様子を見てみるという事で、マリアンヌ嬢の話題を一旦切り上げようとしていたウィリアム達のいる応接室に、丁度やってきたバートン騎士団長と辺境伯領私兵団長。
辺境伯夫妻も交え、その場で魔獣討伐の結果報告書のすり合わせを行ったがやはりどちらの遠征部隊でも上位魔獣が見当たらなかった事が判明し、関係者全員が眉を顰める結果になった。
「これ程大量の魔獣が現れて近隣に被害が殆ど出ずに済んだのはやはり上位魔獣が群れに混ざっていなかった事が要因かもしれませんなあ」
確かに討伐そのものは東部辺境伯軍も王子達の支援隊も全力を尽くしたのは間違いないのだが、今回の魔物の総数から考えるとあり得ないくらい被害が少なかったのだ――
「最早規模はスタンピードでしたからね・・・」
カスターネ辺境伯も渋顔だ。
「今回は軍そのものの被害も殆ど無かったのは有り難かったがな。見つかったのは天幕に現れた蜘蛛1体だけか・・・」
ウィリアムも又他の者と同じ様に顔を顰めている。
「やはりこの空白地点を急ぎ調査したほうが良さそうですな」
騎士団長が指さした地図のその場所は例の鉱石が採れる場所、現在王家預かりになっている鉱山地帯だった。
「明日の朝、辺境伯団から調査隊を向かわせましょう。現在は王領区の扱いですから騎士団からも何名か同行して頂ければ有り難いのですが」
カスターネ伯の言葉で騎士団から数名と団長、そしてウィリアム自らが向かう事に決まった。
残念ながらウィリアムの画策していたお忍びデートはお預けのようである・・・
×××
ウィリアム達一行の幹部は客間を与えられる事になり、騎士団員や各家の私兵達は辺境伯兵の騎兵舎で泊まる様にカスターネ伯が直々に取り計らってくれた。
野営から開放されて兵達も顔が若干緩んでいるようだった―― そうなってくるとお互いに軽口を叩く者も出てくるのがお約束であり、それがある意味休息が取れている証拠でもある。
「なぁ、あの噂、殿下の婚約者の令嬢と上手く行って無いっていうの。アレ嘘だろ?」
「ああ。根も葉もないってヤツだろ? あんな激甘な様子の殿下見たことないぞ」
「「「だよなあ」」」」
「俺、天幕内で殿下が公爵家の御令嬢を膝に乗せて嬉しそうにしてるの見たぞ」
「あ、俺も見た」
「俺も~! すっげえご機嫌な顔で殿下が公爵令嬢にくっついてたの見たぞ。砂糖で口がジャリジャリ言いそうでゲロ吐くかと思った」
「城門の警備やってる奴らが馬車の中でも大事そうに膝に乗せてたって言ってたぞ? そいつ思わず二度見したらしい」
「まーじーかー。殿下、普段がこええからな。ギャップがマジすごいな」
「ご令嬢の方はどうなんよ?」
「コレがまた、嬉しそうに顔を赤くして恥じらっちゃってさぁ~」
「そんなに噂になるほど不美人じゃないよな?」
「あ~、俺、眼鏡外した所見た!」
「「「何!?」」」
「アレ、魔道具だぞ。認識阻害の」
「「「「え?」」」」
「メッチャクチャ美人だった。驚いたのなんのってねーの! アレは絶対殿下が掛けさせてるに違いないね~殿下の独占欲の凄さを思い知ったぜ」
「そ、そんなにか?」
「おう。アレ見たらその辺りのネーチャンの性別が霞むかもしれんな。心配で殿下が魔道具で彼女の顔を隠してるに違いないと俺は見たね!」
「「「「そりゃあ是非見てみたいな」」」」
「俺も、もう1回拝みたい。でも・・・」
「「「「「?」」」」」
「ぽーッと見とれてたら、殿下が睨んできて背筋が凍った・・・」
その新兵は一瞬顔色を悪くして自分の肩をぎゅっと抱いて
「正直言って魔獣なんかより怖かった・・・」
「「「「・・・そ、そうか」」」」
全員の顔が引き攣った――
ウィリアムは例の『シルフィーヌは運命の恋人症状』を新兵が起こさないか危惧しただけだったのだが、此の後王国騎士団の間ではまことしやかに『ウィリアム王子、婚約者様溺愛説』とか『ウィリアム殿下、ヤンデレ説』が浮上したらしい。
何処かの伯爵令嬢が眼鏡をクイクイしながら目を輝かせそうな噂である・・・。
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