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7章 東部辺境伯領

69.世話係の女

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 「いいですかお嬢様。あの婚約者を排除しなければいけません」


 マリアンヌの私室――


 ソファに座りまたもやクッションを抱きしめる少女に向かって世話係は主人であるマリアンヌの傍に膝をつき耳元で囁いた。


「でも、兄様はあの人を膝に乗せて仲良くしていたわよ」

「それでもです。今は仲が良く見えてもこの先は婚約を殿下によって破棄され修道院に送られる途中で暴漢に攫われて始末される未来が待っているだけの女です」


 黒髪のメイドは首を横に振ると溜息をついた。


「王都に帰れば殿下達の運命を狂わす女性が待っているのです。もう時間がありません」

「リリアの言う、辺境伯領の向こうのアボット男爵家の令嬢のことでしょう?」

「そうです。この世界はなのですから、どうしても決まったストーリーを辿ってしまいます」

「でも、それだと私は兄様とは結婚できないじゃない」


 むっとした顔をクッションから覗かせて黒いお仕着せを着たメイドを睨む。


「大丈夫です。男爵家の御令嬢では王族には嫁げません。 前にも説明しましたよね?」

「うん・・・男爵家じゃ家格が低いから、だよね?」

「そうです。王家と男爵家は天と地ほどの差があるのです。ですから王家には相応しくありません。ですが何故か誰もがそれに気がつかないで婚約者に婚約破棄を宣言した後、殿下達は二人揃って国王陛下によって廃嫡されてしまいます。勿論殿下方を惑わした男爵令嬢も国家反逆罪を問われ断罪されます」

「そんなの兄さまたちが可哀想・・・ だから、男爵令嬢がすんなり兄様達の恋人になれるように二人の婚約者がいなくなれば良いのよね?」

「そうです。その通りです。婚約者という存在がなければ婚約破棄など出来ませんから。王都の噂ではその男爵令嬢は既に第一殿下の周りに出没し、高位の貴族子息達に積極的に媚を売っているらしいです」

「その女を捕まえたほうが早くない?」


 可愛らしい顔の額にしわを寄せて不快そうな表情になるマリアンヌ


「ダメでしょう。誰もが咎めないらしいのです。学園では殿下と令嬢を応援するような輩も多いらしいのです。このままでは小説の通りに殿下方も篭絡されてしまうのも時間の問題でしょう」


 うーん、と首を捻りながら、


「愛人なら爵位は関係ないんだっけ?」

「ええ。でも愛人をいくらなんでも妻にはできませんから。婚約者さえいなければ殿下達もすんなりその女を愛人にするでしょうが、どちらにせよ王妃になるための結婚相手が必要なのです。それにふさわしいのは当然マリアンヌ様です」

「魔獣討伐ができなくちゃ王族にはなれないからだよね?」


 その可愛らしい顔に配置された眉を更に寄せるマリアンヌ。


「そうです。王妃様が王太子妃だった頃は王族として魔獣討伐に参加して素晴らしい功績を上げておられましたから」


 黒髪のメイドはうっとりとした様子でどこか遠くに視線を向ける。


「マリアンヌ様ならアレクシア様以上に活躍できること間違いなしですわ」

「確かに魔獣なんかへっちゃらだけど・・・」

「流石ですわ、マリアンヌ様」


 私の称賛の言葉を耳にして、嬉しそうに笑うマリアンヌ様――何て可愛らしいのでしょうか。



 ×××



 私ことリリアが初めてカスターネ辺境伯の屋敷へ奉公に上がった時、お嬢様であるこのマリアンヌ様を見た時に衝撃が走ったのは2年前のことだ。

 私の知っている物語に出てきた『辺境の戦乙女達』の主人公の一人であるマリアンヌ・カスターネ様そのものだったからだ――私はこの世界に生まれ変わった時から前世の記憶を持っていたがそれをだれにも打ち明けたことはない。

 前世の自分の人生など、今の自分に比べれば語ることなど何一つ無かったからだ――



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