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6章 殿下魔獣討伐へ
49.共通点?
しおりを挟む「これでよし、と。」
冒険者ギルドの外に出た少女の声が妙に低くなる。
「イザとなったら、これを身分証代わりに他国に行けるからな。念には念を入れとかないと」
独り言を言いながら先程作ったばかりのドッグタグを見つめる。
紐を通す穴はあるが、そこに通す紐もチェーンも付属していない為に無くしやすい。
「帰ったらチェーンを通すか」
建物の裏手に繋がる横手の路地に入ると急に彼女の体が淡い光を纏い、そのまま消えてしまった。
誰も見ていない一瞬の出来事だった。
×××
「兄さん視察から帰ったばっかりなのに、どこ行ってたのさ転移魔法まで使ってさ」
ちょっと拗ねたような声が聞こえたので振り向くと第2王子アダムの姿。
「あ~、ちょっとだけ野暮用」
フード付きのマントを羽織りニシシと笑うのはウィリアム王子だ。
「今後の周りの動き次第で俺自身も対応を変えていこうと思ってさ、その下準備中」
「ふうん」
執務机に頬杖をついたまま、此方を胡乱んな目で見てくる弟を手で制するように
「何も企んでね―ぞ」
「兄さんてさ、公式の場と私的な場の言葉遣いが昔から全く違うよね」
「・・・まあな。確かに私的な場では口が悪ぃな」
「今もそうだ」
「ここは王子宮で、俺の家でもあるからいいんじゃん」
「うんまあそうなんだけどさー。その口調って王宮内だけで育ってたら絶対に覚えられいよね?」
弟の言葉で、ふと、そうかも知れないと思い当たるウィリアム。
「そういやそうだ。アダムは言葉遣いが俺よりキレイだもんな・・・」
前世の影響だろうな、とつい目が泳ぐ。
「ねえ、兄さん前世って信じる?」
弟の言葉にぴゃッとなるウィリアム。
「お、おおう、どした急に? 教会の教えにはそ~いうの無いよな?」
「否定はしないんだね・・・ やっぱり」
「え。と?」
執務椅子に座ったまま肩を竦める、アダムは
「俺、一昨日、前世を思い出したんだ」
「はぁ?」
「兄さんも前世持ちなんじゃない?」
×××
アダムは例の本を読んだ時に偏頭痛を起こしたらしい。
そして、王妃である母も、婚約者のビビアンも同じ様に頭が痛くなったのだそうだ。
その直後、3人共がこの人生の前に違う人格で違う人生を送っていたことを思い出したのだという――
「じゃあ、兄さんはどうなんだろってな思ってさ。兄さん小さい頃から規格外でさ、教師陣に優秀だって言われてたでしょ? ひょっとしたらって思ったんだよ」
「・・・左様デゴザイマスカ」
「因みに今起こってるおかしな状況が乙女ゲームのせいかもって気がついたのはビビアンだよ」
「おおう。何というかあのゲーム流行ってたのか?」
「らしい。母さんも俺もビビもやった事があるんだ」
「おまえ、前世は女の子だったの?」
微妙な顔になるウィリアム。
「あー、違うよ。中学生の妹に頼まれてアクションのところだけ代わってやってた男子高校生」
呆れ顔になるアダム。
「そうか、あとの2人は?」
「母さんは主婦みたい。ビビは中学生だって言ってたエスカレーター式の女子校だったらしいね」
ウィリアムが視察に出掛けていた間に3人の話合いが終わっていたようだ。
「で、兄さんは?」
「俺は乙女ゲームなど知らん、ただのオッサンだ」
胸を張ってウィリアムがそう答える。
・・・アダムの笑顔が固まった。
「共通点は例の乙女ゲームのプレイ経験がある人ばかりだと思ってたよ」
まさかのウィリアムだけが異分子だった。
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