168 / 189
終章.承認の儀とハッピーエンド
エスコート必須です
しおりを挟む聖女や聖王の『承認の儀』は各国に対してのお披露目という意味合いが強いが、生まれた家の家格とは関係のない身分をこの世界そのものより賜る事を知らしめる儀式でもある。
ミリアンヌはアークライド姓、ミゲルはハイドランジア姓を捨て神の姓である『ルクス』を名乗る事になる、つまり神の子供、神の家族になるという事を発表する場でもあるという事だ。
これを経た後、彼らは目に見える権力は有しないが、国のトップである国王や皇帝等と同列かそれ以上の存在として認められる。
因みに余談だが、各家の家系図から二人は抹消されるのではなく姓がセカンドネームの様に間に入った形で表記される事となる。つまりミゲルの場合は、『ミゲル・ハイドランジア・ルクス』となり、ミリアの場合は『ミリアンヌ・アークライド・ルクス』となる。
この儀式以降は身分制度や家格による婚姻の強制は全くなくなり、生涯独身を貫くも良いし伴侶を得て結婚する事を選んだとしても『聖なる者』の資質そのものには無関係なので本人の意思が最優先される。
まあ、身分制度そのものから逸脱する存在の彼らに対する婚姻の申込みは誰でも自由となり罰則はないのだが、本人に受付けて貰えるかどうかは別ということでもある・・・
ただ、聖女や聖王が生涯独身を貫く者が歴史的に多いのは普通の人以上に長生きする者が大多数だからだと言われている。
誰しも愛するものが先に失われて行くのを見守るだけは辛いだろうと云うのが定説である。
××××××××××
「まあねー、『復活』と『再生』で若返ってんの繰り返すとさー、伴侶がジジババになったらシラケるわよね。お相手は若返んないんだからさぁ」
「・・・そ、そうだな。確かに」
目を白黒させるミゲル。
「だからアタシは独身で通したけどね~、アンタ達はお互いがこの世界で唯一釣り合いが取れてる相手同士だからさ結婚もいいかもだけどさ、余所見が浮気になっちゃう事もあるからね~ そこん所もよく考えなさいね」
「・・・いや、浮気とかしねえよ」
焦るミゲルを見ながら、ニヤニヤするお爺ちゃん。
「まあ、アンタたちは見たところ『ニコイチ』だからね。前世からの縁は深いしさ。二人一緒でやっと一人前だわよ」
「そうなのか」
「今のところはねぇ。祈りの広がり方が違うのよね。ミリーは縦、アンタは横って感じなのよ」
「?」
「今日、実感するだろうからよく見てるのよ。自分とミリーの違いを。どっちが優れてるって事じゃなくて、二人で完成形なのよね。面白いわよね」
うふふと嬉しそうに笑う大神官である。
××××××××××
入場の時間直前にミリアが二人の元に到着した。
「お、お待たせしました」
思わず頭を下げそうになるが二人に止められる。
「大丈夫、時間ぴったりじゃ」
「頭を下げたら飾りが落ちるだろ。ほら」
ミゲルがエスコートの為に左手を差し出した。
「緊張しすぎで両手と両足が一緒に出ちゃって、部屋を出た所ですっ転んだんです! 」
「「・・・」」
「それで、控室に戻ってハイヒールをやめてかかとの低いサンダルに変えたらドレスの丈が合わなくなって・・・」
「「・・・・」」
「マーサにもう一回着付けをし直して貰って・・・」
「「・・・・・」」
「顔からコケたのでメイクもやり直してもらって・・・」
「「・・・・・・」」
「遅くなってごめんなさい」
「「あー・・・・・うん」」
お爺ちゃんが笑顔で、
「ミゲル、ホレ。手じゃだめだ。肘な」
ミゲルが無言で肘を差し出した。
「結婚式みたいに見えるかもしれんが気にせんようにのう」
ホッホッホとお爺ちゃんの陽気な笑いが廊下に響いた。
ミリアが顔も耳も真っ赤になったのはご想像通りである。
その頃控室では
「お嬢様、流石です・・・」
マーサが疲労困憊でソファーに突っ伏していたとか、いなかったとか・・・
××××××××××
大聖堂の両開きのドアが神官達によって開け放たれると先ず現聖王である大神官が現れ、そのすぐ後をミゲルがミリアをエスコートして歩く。
貴賓席の招待客達は簡易の礼で頭を下げたまま三人が自分達の眼の前を通り過ぎていくのを待っている。
静かな聖堂の中に動く三人の衣擦れと僅かに靴音だけが響く。
中央に設えてある大理石の壇上に三人が上がると神官達がクリスタルボウルを鳴らし、それに答えるように招待客達が顔を上げて正面に並んだ聖王達に視線を向けた。
百年以上生きている白いヒゲを生やした老人と、その後ろに並ぶ美しい若者が二人。
ハイドランジア王家特有のラピスラズリの瞳には紛れもなく神聖な金の星。この聖堂に集う世界のトップ達は彼なら次期聖王と言われても納得できるミゲル・ハイドランジア王弟殿下である。
そしてその左腕にエスコートされ立っている少女。まだ少しあどけなさの残る顔に左右対称に配置された、美しい透明なタンザナイトのような青みがかった紫の瞳に紛れもなく浮かぶ神聖な金の星。
今迄名は知らぬ者も多かったが、大神殿で秘匿された聖女がいるらしいという事は公然の秘密とされていて、ほんの最近になって世界中にその名が駆け巡ったミリアンヌ・アークライド嬢。
まるで婚姻式のように仲睦まじく立っている姿に誰ともなく、ほう、と感嘆の溜め息が漏れる。
「これより聖王及び大聖女の承認の儀を執り行うものとする」
聖王様の声が聖堂に響き、招待客と神官達が恭しく一礼をした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
お読み頂きありがとうございます!
13
お気に入りに追加
188
あなたにおすすめの小説
お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました
さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア
姉の婚約者は第三王子
お茶会をすると一緒に来てと言われる
アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる
ある日姉が父に言った。
アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね?
バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
当て馬の悪役令嬢に転生したけど、王子達の婚約破棄ルートから脱出できました。推しのモブに溺愛されて、自由気ままに暮らします。
可児 うさこ
恋愛
生前にやりこんだ乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。しかも全ルートで王子達に婚約破棄されて処刑される、当て馬令嬢だった。王子達と遭遇しないためにイベントを回避して引きこもっていたが、ある日、王子達が結婚したと聞いた。「よっしゃ!さよなら、クソゲー!」私は家を出て、向かいに住む推しのモブに会いに行った。モブは私を溺愛してくれて、何でも願いを叶えてくれた。幸せな日々を過ごす中、姉が書いた攻略本を見つけてしまった。モブは最強の魔術師だったらしい。え、裏ルートなんてあったの?あと、なぜか王子達が押し寄せてくるんですけど!?
【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました
八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます
修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。
その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。
彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。
ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。
一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。
必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。
なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ──
そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。
これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。
※小説家になろうが先行公開です
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
女嫌いな辺境伯と歴史狂いの子爵令嬢の、どうしようもなくマイペースな婚姻
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「友好と借金の形に、辺境伯家に嫁いでくれ」
行き遅れの私・マリーリーフに、突然婚約話が持ち上がった。
相手は女嫌いに社交嫌いな若き辺境伯。子爵令嬢の私にはまたとない好条件ではあるけど、相手の人柄が心配……と普通は思うでしょう。
でも私はそんな事より、嫁げば他に時間を取られて大好きな歴史研究に没頭できない事の方が問題!
それでも互いの領地の友好と借金の形として仕方がなく嫁いだ先で、「家の事には何も手出し・口出しするな」と言われて……。
え、「何もしなくていい」?!
じゃあ私、今まで通り、歴史研究してていいの?!
こうして始まる結婚(ただの同居)生活が、普通なわけはなく……?
どうやらプライベートな時間はずっと剣を振っていたい旦那様と、ずっと歴史に浸っていたい私。
二人が歩み寄る日は、来るのか。
得意分野が文と武でかけ離れている二人だけど、マイペース過ぎるところは、どこか似ている?
意外とお似合いなのかもしれません。笑
サラシがちぎれた男装騎士の私、初恋の陛下に【女体化の呪い】だと勘違いされました。
ゆちば
恋愛
ビリビリッ!
「む……、胸がぁぁぁッ!!」
「陛下、声がでかいです!」
◆
フェルナン陛下に密かに想いを寄せる私こと、護衛騎士アルヴァロ。
私は女嫌いの陛下のお傍にいるため、男のフリをしていた。
だがある日、黒魔術師の呪いを防いだ際にサラシがちぎれてしまう。
たわわなたわわの存在が顕になり、絶対絶命の私に陛下がかけた言葉は……。
「【女体化の呪い】だ!」
勘違いした陛下と、今度は男→女になったと偽る私の恋の行き着く先は――?!
勢い強めの3万字ラブコメです。
全18話、5/5の昼には完結します。
他のサイトでも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる