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四章.転生聖女と冒険者ミハイル
棲家
しおりを挟むメルはピコピコと髭を動かしていたが今度は自信なさげにソレを下げて
「ただ・・・」
「どうした? 急に」
「はい。御主人様のご命令とあらば、吾輩空の上に行くことも否はありませんが・・・」
「?」
「ミリア殿の杖の上に再び乗るのは、ちょっと・・・」
髭が下がり、耳がペタンと後ろに向き、尻尾が後ろ足の間に所在なさげにどんどん引っ込んでいく・・・
「メル、お前・・・」
「はい。ミリア殿の杖は・・・」
どうやらミリアとの空の旅はメルのトラウマになった様である・・・
××××××××××
「じゃあ、ミハイル! 嬢ちゃんと一緒に頼んだな! 」
全員と相談した結果ミリアの操縦?するロッドに同乗したミゲルが通訳のメルを肩に載せ、ワイバーンの雛を片手に抱いて親との接触を試みることになった。
「兎に角コイツを返さねえ事にはワイバーンの襲来が収まらんだろうからなぁ。たのんだぞ」
「はい」
「おう」
返事をするとロッドに二人が跨って、フワリと上空へと上がっていく。
「「「はあ~、信じらんねえ」」」
「見るの二回目だけどなー。すげーわ」
「いいわね~、あれ練習しようかしら? 」
「蜂に気をつけろよ~! 」
下から冒険者達が騒いでいるのを聞きながらどんどん上に登っていくミリア御一行様。
「ミリア殿、アソコですもうちょい上がってください」
メルがミゲルの肩の上で爪を上に向ける。
「うん分かった! 」
「ギャ、ギャ」
「オメーは大人しくしてろよ」
雛はまだ飛べないのでもし暴れて落ちたらヤバいかもと言う事で布に包んで、ミゲルが片手で抱えているだが先程から落ち着きなくモゾモゾしているのだ。
「居ます。番のようです」
すぐ近くにホバリングして空中で同じ位置で落ち着きなく左右に首を振るワイバーンが待ち構えていた。
「・・・」
メルがイメージで何かを伝えているのか黙って動かなくなるが、落ち着きなく首を動かしていた二羽は急に旋回して去っていき始める。
「追いかけて下さい。巣まで行きます」
「お。凄いな通じたのか? 」
「はい。敵意は無いと判ったようです。あと、攫ったのは虫だと言う事もちゃんと理解していました」
「ふえ~ 凄いです」
ワイバーンを追いかけロッドに乗ったまま空を飛ぶ。
どんどん森の上を通り過ぎて、川の上流の崖迄やってくるとワイバーンの番が旋回を始めた。
「ミリア殿、あの崖の壁面に穴があるので、そこに戻して欲しいらしいです」
「うひゃあ難しい~ 」
何も生えていない殺風景な切り立った崖の側面に、穴があり、そこが巣になっているようだ。
「でもですよ、アソコから雛が攫われたんなら、戻してもヤバくないでしょうか。蜂が又来たりしないかな? 」
「だが、あそこが彼奴等の住処だから仕方ないだろ。俺達が勝手に慣れ親しんだ場所から移動させても彼奴等が困るだろう? 」
「まあ、ソレもそうなんですけど。今回の蜂に攫われたのだって自然の摂理なのかも知れないですもんねえ・・・」
穴に近寄り、ロッドに乗ったまま入口付近に横付けする。人が入れるようなサイズではなく、ワイバーンの成体がやっと潜り込んで行けるくらいのサイズである。
ミゲルが、片手で杖をしっかり持ったままで身を乗り出し、布で包んだままの雛を穴に突っ込んだ。
奥は空洞になっていて、なんだか魚臭い。
例えて言うなら漁港のゴミ捨て場・・・
「うぉ・・・魚が主食ですかね? 」
「そうだろうな」
白い布がモゾモゾ動き回りやっと這い出すと、雛は一目散に奥へ駆け込んでいく。
「ミリア殿。穴から離れてください。親も巣に入ります」
フワリと入り口から離れるとワイバーンの親が一羽滑空して飛び込んで行き、もう一羽は真下の川へ降りていくのが見える。
「雛に餌を与えるようです。もう大丈夫ですね」
「蜂さえ来なけりゃな」
周りを見回すミゲル。
「ミリー、この崖の出来るだけ上に行ってみてくれるか? 」
「いいですよ」
ロッドに乗ったまま急上昇をすると崖の上に出る。眼下に草原が広がり、川が流れているのが見えた。
「あそこ、あの森だ。こないだの討伐先だぞ。分かるか? まだ騎士団の一部が残ってるだろう? 」
「あ~ ほんとだ。随分距離があると思ってたけど空からなら以外に近いんですね・・・じゃあ、やっぱり結界石の老朽化が原因かもって事ですかね」
小さく豆粒みたいに見える野営地と騎士団の旗がタープの側で翻っているのが見える。
「アレが原因なら再調査をしないとな。あの蜂なら犬猫位なら攫うだろうし、赤ん坊位なら人でも攫う可能性も無いとは言い切れんしなあ」
「もし、あの騒ぎの時の森にいたんなら、もう浄化されちゃって死んじゃってますから、別から来たんでしょうか?」
「ああ、確認しようがないけどな。俺達が森にいた時には生き物がほぼ居なかったから、他の場所に移動した後だったかも知れんしな」
「結界の穴から入ってきたのか、別ルートなのかはっきりしないと・・・」
「そうだな。まあ、用事は済んだから帰ろう。対策はそれからだ」
ミゲルがそっとため息を付いた。
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