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三章.転生聖女と春の庭
アレクシス・ハイドランジア第一王子
しおりを挟む自分はずっと平凡だと思っていた。
今だってそう思っている。
俺には四歳だけ年上の叔父がいて、彼と自分は兄弟のように育てられた。祖父である前国王と前王妃との間に退位後に生まれたのがその叔父、ミゲル・ハイドランジアだ。
彼は兎に角、優秀だった。
剣でも、魔法でも、勉学でも、礼儀作法でも。
小さい頃は叔父を追いかけ回し、金魚の尻尾のようにくっついて過ごした。十一歳と十歳離れた姉が二人いたが、離れすぎていて遊び相手にならなかったからだ。
叔父は当時、沢山の教師陣に囲まれており勉強に、剣の稽古に、ダンスに、マナーにと忙しくしていたが自分と過ごす時間は大切にしてくれて沢山の時間を共有した。
その頃は兄も叔父も違いが分かっておらず、兎に角年の近い遊び相手で頼りになる大好きな人だった。
それが急に変わったのは八歳の時だ。
その頃にはもう兄と叔父の違いは理解していてクロードもハリーも側近候補として一緒に過ごしており、当然エリーナも顔をちょくちょく見せていた。
その代わりと言ってはなんだが叔父上は学園に通い始め、一緒に過ごす時間はどんどん減っていた頃だ。
きっかけはエリーの言った
「ミゲルお兄様は素敵よね」
この一言だった。
あまり良く覚えていないけど、大喧嘩になった事は覚えている。
その後、叔父上の人となりがやたらと気になり周りの大人に聞いて回った。
その時知ったのが、『天才』『剣豪』『神童』という、たった十二歳の子供に与えられる評価とは思えない言葉の数々だった。その時に一部の貴族達が次期王太子として叔父を国王である父に推挙しているという事実も知った。
叔父と自分とが同じ年齢の時に教わっていた内容がかけ離れていた事もその時に知ることになり、あまりの違いに愕然とした。
両親や叔父から言われていた事は『お前が次の国王である』だった事もあり、周りも当然そう思っているのだろうと勝手に決めつけていた。
けれど本当は違っていた。
優秀な叔父を王太子にと推挙する貴族が半数近く数を占めていたのだ。ただ、大貴族と呼ばれる公爵、侯爵といった重鎮達が、首を縦に振らなかった為表沙汰になることは無かっただけだった。
自分はどうすれば良いのだろう?
王族として国とは何かを学んだ時に、『国民の総意』についても学んだ。他国はどうあれ『魔法国家』と呼ばれるハイドランジア王国は貴族も平民も全てが『幸せ』を享受出来る立場にあると学ぶ。
国王はその為に存在し、それを遂行する事が最大の義務であり責任でもあると。
じゃあ、自分はどうしたらいいんだろう?多くの貴族達は叔父を国王にしたがってるってことじゃないか。
自分はいらなくないか?
自分じゃなくてもいいんだろう?
そう思ってしまった。だから逃げた。
叔父が好きだったからって事もあったと思う。でも本当はどんなに努力しても叔父のレベルには自分はなれると思えなかったから。
比べられるのが恐ろしかったから。
プライドが高くて負けるのが嫌だった。
色んな気持ちがごちゃまぜで、ここまで来てしまった。
でも今まで考えたこともない事が一つだけあった。それは、叔父の気持ち。
『お前が産まれて来てくれて良かったよ』
そう言われた時に気がついたんだ。
早くに両親を亡くしてしまった叔父は、年の離れた兄夫妻の実の子どものように育てられた。ずっと、血は繋がっているとはいえ養子でもなく中途半端な立場のままきっと人並み以上に努力してた。
だって遅くまで毎晩の様に執務机に向かっていたのを俺は知ってる。
叔父は天才なんかじゃなくて、努力してた。
それと、『自分を育ててくれた恩があるから』って言うのが小さい時から叔父の口癖だった。いつの間にか言わなくなったと思ってたけど、よく考えると俺と叔父が共有する時間が減ってただけだ。
叔父が学園に入学して寮で過ごし始め一緒に遊べなくなり、更に俺が学園に入る頃には王都にさえ居なくなってたから。
叔父は十六過ぎて騎士団へ入団したことで王太子になる可能性はない事を世間に示した。騎士団への所属は貴族の次男以降つまり跡継ぎではないと言う事を公言したということになるからだ。
それは優秀なのに俺なんかに遠慮してるんだと思ってたけど、神官の礼装の上に王族の印であるサッシュを腰周りに巻いた彼が、
「お前には感謝してるよ。生まれて来てくれて良かったよ」
そういった時に、全部俺の独りよがりだったんだなって気がついたんだ。
叔父は
「我慢するのは辞めたんだ」
そうか。
我慢して努力して今の叔父を作ってたけど、王族から抜けるのが彼の望んだ事だったんだ。
じゃあ、残った俺はどうしたらいい?
馬鹿で、分からないフリは辞めて叔父が抜ける分もしっかりするのが俺の役目かな?
もう遊んでばっかりは出来ないって事か~ ちょっとだけ残念だけど。
頑張ってみるかな。
次期国王として。
ま。大丈夫だろう。
クロードもいるしな。
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