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ニ章.転生聖女と転生聖王

双子とメル

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 ベンチに座り直すために動こうとすると、何処からかクスクスという忍び笑いが聞こえる。


「マーサ、子供の声がしたわよね」

「声というか、笑い声ですね」

「おかしいわね」

 見回しても誰もいない・・・

 首を捻りながら席に戻ると、メルが


「これで今日の騎士団としての訓練は終わりです。御主人様は離宮に一度お戻りになられますが、ミリア殿と弟殿は離宮の方においでになられますか? 」


 首を可愛く傾げるメル。


「おいでになられるならセバス殿に一足先に吾輩、知らせておきますが」

「良いの? 」

「御主人様が、ミリア殿が我輩をモフリに来るのは毎日でも可ということです」

「じゃあ、行きたいデス」


 ちょっとマーサの顔を見て、ウンウンと頷いているのを確認するミリア。

 最近気がついたが、メルが絡むとマーサが甘い・・・勘違いだろうか?

 では、と言いながら席を立つメル。途端に


「今だ! 」


 という声がしたかと思うと小さな黒い影が飛び出して、影からメルめがけて何かが伸びた。


「甘いですよ。御二方」


 メルの目の前で、防護結界の魔法陣が銀色の光を帯びて発動する。パアンッという音とともに何かが飛び散った。


「まだまだですね」


 首を横にフリフリして前足で胸の辺りの土埃を払いながら髭をピクピクさせると、目を弓型にスッと細める。


「明日以降出直して下さいませ。我輩は離宮にもう戻ります故」

「くっそ! 今度こそ捕まえた筈だったのに~ 」

「もうう! 完璧な作戦だった筈だ! 」


 振り返れば、以前の間諜達が捕まった時のように蜘蛛の糸によく似た繊維でロールキャベツ状にぐるぐる巻になった子供達が転がっていた。

 二人は悔しそうに足をバタバタさせながら何とか抜け出そうと藻掻くのだが、どういう訳かその罠は藻掻くとキツく絞まる構造のようで・・・


「メルッ苦しい、出してっ! 」

「メルッ助けてよお~! 」


 泣き言を言い始める二人。


「仕方ないですねえ~。女性がいらっしゃる時は、イタズラは控えるのですよ」


 そう言いながら、タヌキの様にモフモフした尻尾を地面にタンタンと打ち付けると拘束していた銀色の糸は消えてしまった。


「よーう、待たせたなミリー・・・何だ、お前ら。又性懲りも無くメルに返り討ちにされたのか」


 汗を拭きながら騎士服の前を肌けた状態で歩いてきたミゲルが声をかけると、


「叔父上~ また負けた~ 」

「叔父上~悔しいです~ 」


 子どもたちはミゲルに飛びついたのである。


××××××××××


 この二人、クレス・ハイドランジア第二王子と、ゲイル・ハイドランジア第三王子。

 ハイドランジア王国の二卵性の双子の王子達で現在五歳である。

 クレスはアレクシスの様なハニーブロンド。ゲイルはミゲルの様な真っ黒い髪色。
 共に目の色は王家特有のラピスブルーで金の星が散っているのがよく分かる。

 顔も何だか第一王子と王弟殿下を幼くしたみたいである。


「凄い、お二人共聖属性魔法を使えるのですね」

「ほんとうだわ、とても奇麗なはっきりした星だわ」


 ダニエルとミリアが感心した様に呟くとそれに気がついた双子達。こっちを向いて


「「あ、天使が二人っ! 」」

「「?」」

「「侍女達が騎士団の練習場に天使が二人来てるって大騒ぎしてたんだ」」

 
 揃ってミゲルを見上げる双子達。


「叔父上、お友達? 」

「叔父上、彼女? 」

「ばっか。かたっぽ男だし」

「でもかたっぽ女のコだよ。デビュタントで見たことあるよ」

「思い出した、ウィル卿の娘さん! 」

「アレク兄上が騒いでた人だろ」

「「可愛い~! 」」


 ここまで二人だけで会話が成り立ち、周りはそれをポカーンと眺めていた。

 メルだけが冷静に


「では吾輩はお茶の準備をと、セバス殿に伝えに屋敷に戻りますので」


 優雅に貴族の礼をすると転移魔法の金色の魔法陣を展開して消えてしまった。

 猫なのでうるさい子供は苦手なようである・・・



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



猫、やんちゃな子供は苦手だしね。

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