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一章.聖女と出会いと王宮と

あれ?やっぱり王弟ルート?

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 「落ち着けミリー」


 剣聖ミゲル殿下から、空手チョップを頭に喰らう侯爵令嬢ミリアンヌ。


「いった~! ミゲル様、脳細胞が壊れますったら」

「大丈夫だ。その説はもう古い」

「え、そうなんですか?! 」


 蝉のように自分の腰回りにくっついているミリアを、ベリッと音のしそうな勢いで引き剥がして脇に手を差し込み、猫のように持ち上げるミゲル。


「兎に角、落ち着け。両陛下の前だ」

「あ・・・申し訳ございません・・・」


 ボンッと音がしそうな勢いで顔を真っ赤にするミリアンヌ。

 ストンと下に降ろされた途端シュッとスライムの様な素早さで、ミゲルの後ろに隠れてしまう。


「うひゅう~、どどどうしましょう~・・・恥ずかしい~ 」

「お前、意外と土壇場に弱いな・・・」


 振り返って後ろを見ると、真っ赤になって必殺の角度で目をウルウルさせながら両手を頬に添え、此方を見上げているミリアが目に入る。

 それを見た、その場の全員が更に鼻を抑えて天井を見上げたのは言うまでもない・・・

 勿論侯爵閣下は除いて、である。合掌。


××××××××××


 王宮魔道士の象徴である銀糸の刺繍が入った白いマントを纏った男性が、謁見の間に現れた。

 年の頃は四十歳位。ブルーグレイの所謂天然パーマと言われる髪の毛なのだろう。短くカットしてあるのだが、襟足が何だか可愛くカールしている。

 髪の毛と同色の目は、優しそうな垂れ目である。愛嬌のある丸いメガネは金縁で、耳のカーブに沿ってしっかりとかけられるように独特の形をしている。


「お呼びと伺いました。両陛下」


 深い心地の良い声は、見た目の柔和さに比べると些か不釣り合いな深いバリトンボイスである。


『あ~。何かスチルで見たっぽい? でももっと歳が若かったような? 』


 小首を傾げながら、侯爵閣下とミゲルに挟まれた席から覗くミリア。

 それを見た王妃様が扇で口を隠しながら


「くぅっ! 可愛過ぎるわあ~ 」


 と、囁いたのを片眉を上げながら、めっちゃ嫌そうに見る国王陛下・・・


「あ~。オホン。テイラー卿、息子のマーロウは? 共に呼んだのだが? 」

「宰相閣下、恐れながら息子はここ十日ほど行方知れずなのです。使い魔に探索をさせているのですが、消息が掴めません」


 よく見れば眼鏡の奥の目の下にうっすらと隈が出来ている。


『あ、マーロウって魔道士長の息子で攻略対象だった・・・んん? 』


 何か思い出しそうな気が・・・


「あ。ひょっとしたら、王弟ルート? 」


 考え込むミリアンヌ。

 確か王弟ルートで魔道士長の息子もシンシア王女も出てきたような・・・


「何か思い出したのか? 」


 耳元でミゲルの声がすると、急にヒュッと息が詰まり何故か耳が熱くなるミリアンヌ・・・


「? あ、いえ。王弟ルートでマーロウが出てきたような気がします。あと、王女殿下も・・・」

「まあ、俺に出会った時点で王弟ルートだろうな。仕方ないだろ」

「・・・」


 思わずジト目になるミリアンヌ。


「ゲームをプレイしてないので、わかんないですよ。王弟ルートはバグ取りで忙しかった事しか覚えてないです」

「まあ、俺も似たようなもんだな。クレーム処理しかしてねえ」

「・・・それなら私の方がマシですかね」

「間違いないな」


 ボソボソと小さな声で、話す二人を微妙な顔で見守るアークライド侯爵と、対照的に扇の影からワクワクした顔で見ている王妃殿下・・・

 更にその二人を見比べて、チベットスナギツネの様な表情の国王陛下。


「「絶対勝てないな・・・」」

「うるさい! 」


 アレク王子と側近二人の声も・・・

 宰相閣下だけが心の中で


『お前ら全員、何考えてんだ! 真面目にやれっ! 』


 と、叫びながら鳩尾を押さえたのであった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



いや、そもそもルートはもう関係ないってばよ~(泣)

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