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一章.聖女と出会いと王宮と
三●●トリオ参上!
しおりを挟む少しばかり時間は遡る。
大ホールに続く廊下を小声で喋りながら歩く三人の少年達。
「陛下も王妃様も駄目だって言うのか? 」
「ああ。それどころか宰相も反対してる」
「そりゃあそうでしょう。バランスが悪すぎますからね」
銀縁眼鏡をクイッと上げながら榛色の目を呆れたように細める知的な風貌の少年。宰相の息子のクロードである。
「何のだ? 」
首を傾げながらクロードを振り返る赤毛の大柄な少年。騎士団長の息子ハリー。
「経済的なバランスですよ」
肩をすくめながら答えるクロード。
「侯爵家の経済力のことだろう? それは解っている」
ハニーブロンドに王家特有のラピスラズリの瞳の少年がため息をつきながら答える。
「だが、あの姿に素晴らしい口上。美しいキレのある所作・・・」
思い出してうっとりとするアレク王子である。
「そんなに可愛かったのかよ」
ガハハと笑うハリー。
「可愛いなんてものじゃない、あれは正しく『妖精姫』だよ。本当に美しくて、心臓が止まるかと思ったんだ。オレだけじゃなくて、その場にいた全員がそう思ったさ。何でオレじゃなくて叔父上なのか、って悔しかった」
「なんでそこで、ミゲル殿下なんだ? 」
ハリーがんん?という顔で天井を見上げる。
「わからんが、ミリアンヌ嬢と叔父上が仲がいいらしい・・・」
困惑気味の顔をする王子。
「そりゃあ、お前じゃ敵わんだろ。ミゲル殿下は、『剣聖』の称号を持つ英雄だぞ」
「俺だって、叔父上の剣の腕が国一番ってのは知ってるけどさ」
「いえ、ミゲル殿下は学識も素晴らしい方ですよ。実際アレクが生まれなかったら次期国王として立太子しても不思議じゃない神童って言われてたんですからね」
「へ~。そうなのか」
「そうなんです僕らと四歳しか違わないとは思えないですよ」
「俺、四年後に剣聖とか、無理だ・・・」
ガックリと肩を落とすハリーの肩を叩くアレクとクロード。
「所詮あの人とは、出来が違う」
「叔父上がライバルとか無理だ~ 」
「まあ、色々と諦めたほうがいいんじゃないですかね? 」
「「お前冷たいぞ」」
「僕は目の前の現実を冷静に判断して言ってるだけです」
肩を竦める仕草をして、
「まあ、噂の侯爵令嬢を見てみるくらいはしてみたいですけどね」
「だよな」
「お前らだって見たら、目が離せなくなるってば! 俺の気持ちを思い知れ! 」
「「ハイハイ」」
「はあ~・・・可愛かったな~ 」
「重症だ」
「同感ですね」
ホールのドア近くの角を曲がると、白いドレスの裾がヒラリと翻ったのが見え、女性が侍従に抱え上げられ運ばれているのがチラリと見えた。
「おい、あれ。あの侍従」
「ん? あれ? マーロウじゃねえか? 」
「確かに似てますが、何で侍従の服着てるんですかね」
三人は、同時に魔道士長の息子の顔を思い浮かべる。
「あいつ、最近姉上にベッタリで学園に来てなかったんだよな」
「シンシア様にですか? 」
「そうなんだよ」
「そうだとしても宮廷魔道士の制服じゃないのはおかしくないか? 」
小声で柱の影から様子を伺う三人組。
侍従の肩口の辺りに見えた髪色がストロベリーブロンドに見えた。
「あの女性ミリアンヌ嬢だぞ」
「「え? 」」
「間違いない。あんな髪の色、他に居ないはずだから」
王子が真顔になる。
「どういう事? え? 倒れたのアークライド侯爵知ってんのかな? 」
「知ってたら一緒にいるんじゃないか」
「「「・・・」」」
眼鏡の奥の榛色の目が険しくなるクロード。
「マーロウの様子がおかしいです・・・追いかけましょう。王子は陛下に知らせてください、ハリーは僕と一緒に・・・」
王子が柱の影から出ようとする。
「俺も行く! 」
その頭を平手で迷わずしばくクロードと、頭を押さえて不満げな顔で振り返るアレク王子。
お互いに馴れているようだ・・・
「いや、駄目でしょ。ハリーとにかくアレ追っかけて」
顎で侍従が消えた方角を指すクロード。
「お、おう」
赤毛の大きな少年が慌てて見えなくなった侍従姿のマーロウを追う。
「殿下、アンタお世継ぎなんですから危険な真似しちゃ駄目なんですってば! 」
ハリーを更に追いかけようとするアレクの首根っこをひっ掴み、ホールの扉に引きずって行くクロードの額には青筋が立っていたのであった・・・
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