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一章.聖女と出会いと王宮と
来たぞデビュー戦
しおりを挟む「コルセットなんか要らないわねぇ~」
「お嬢様は天然コルセット(筋肉)がありますので、胸当てだけで宜しいかと」
「ちょっとソレだけは羨ましいわねえ・・・」
朝からビューティー部門担当の侍女達が入浴だの、マッサージだの、艶出しのオイルだのと大騒ぎでもみくちゃにされ、若干開き直っているミリア。
本日の午後から始まる王城でのデビュタントの準備で侯爵邸は大騒ぎである。
ピカピカに磨き上げられて簡単な軽食を摘む程度に食べたあとは、メイクとドレスの着付けである。
「年に一回着てくれるかどうかのドレス姿ですもの。ヤッパリ画家を呼んだら良かったかしら・・・」
「ソレはお嬢様が・・・」
「そうよねえ~」
ドレスを着た絵姿なんぞ作った日には、母の陰謀でお見合い用の釣書とセットにされてしまうのがオチなので絶対にお断りのミリアである。
チラチラとこちらを伺う目線は全無視と決めている。
ドレス専用の袖が無いモスリンのシュミーズの上に、胸の谷間を作るためだけが目的の胸当て(ブラジャー)を付け、ドレスを着付けて貰う。
ミリアは身長が靴を履いても百四十センチくらいしかないため、ドレスの形はベル型になった。
ウェストの切り替え部分から白いオーガンジーが優雅なドレープを描き、幾つも重なって足元に落とされて波打つデザインは、デザイナー渾身の作品らしい。
重くない上に動くとフワリと流れるように動きがあるため低身長のミリアでもドレスに埋もれては見えない。
リボンは同色のサッシュベルトだけで、フリルは一切つけておらず、一見大人っぽいが、着付けた後の仕上がりは清楚かつ可憐。
オフショルダーの肩口にシュミーズの紐にあしらったシルク製の小花が並び、可憐さを演出する。総レースの短めの袖に合わせて、シルクのオペラ・グローブを用意した。
ここまで。母とマーサの夢を詰め込んだドレス姿の出来上がりである。
薄くオレンジ系のピンクを基調にしたナチュラルなメイクを施し、ストロベリーブロンドの髪の毛は緩くハーフアップにして、白い小花を散らして、小さな可愛い花冠をトップに飾る。コレはこの国でのデビュタントを迎える少女達の印でもある。
やり切った、と。メイク担当侍女とドレス担当侍女全員が、この日燃え尽きたのは言うまでもない。
「皆ありがとう~ 私嬉しいわ」
感極まった母が嬉し泣きをしながら侍女達と抱き合っている。
マーサはハンカチでそっと目元を拭う。
この日の為に用意したハイヒールは因みに十八センチヒールだったが、スポーツ選手の様に体幹がしっかりしているミリアはしっかりダンスもこなせたので何も問題ないらしい。
「大袈裟だなあ~。もう」
その姿を横目で見つつ、若干膨れっ面のミリア。
物心ついた頃からドレスに全く見向きもしない娘だったからな~
・・・ ちょっとだけ遠い目になってため息をついた。
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