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6 今後の予定

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 ソファーに座った私は、テーブルを挟んで向こう側に立つレーナさんから今後の予定について説明を受けていた。
 彼女は手にファイルを持ち、それに時おり目を落としながら言った。

「……で、今日はゆっくり過ごしていただいて構いませんが、明日は仕立て屋と宝石商、靴屋が訪問予定でございますので、ドレスなどを決めていただきます」

 ドレスを決める、て聞くとときめいちゃうけど、結婚式のドレス見たことそんなにないんだよねぇ……
 子供の頃に見た花嫁さん、綺麗だったなあ……

「結婚式の前に婚約式がございます。それが二週間後です。また、結婚式にはリュシエル王国から国王陛下が御参列する……」

「嘘?」

 思わず声を上げると、レーナさんはきょとん、とした顔をする。

「え、あ……殿下のお兄様であらせられますから……結婚式への出席は当然かと……それに、長きにわたり戦争をしていましたし、この度互いに代替わりしたことから停戦が実現し、友好をアピールするには良い機会かと」

 友好アピールかあ。
 まあ、結局それが目的よね。この結婚。
 わかりやすいほどの政略結婚。
 でも私、大公について何にも知らない。

「ところで、レーナさん」

「レーナ、とお呼びください」

 ぴしゃり、と厳しい声で言われ、思わずびくん、と身体が震えてしまう。
 レーナさんは、険しい顔をして言った。

「ミレイユ様は大公妃となられるのですから、侍女にさん付けはいらないですよ」

 それはわかってはいるけれど、よく知らない、年上の女性を呼び捨てにするのって、抵抗があるんだよなあ……

「わ、わかりました……えーと、それで……あの、ノエル大公について私、何も知らないんだけど、大公って何歳なんですか?」

 遠慮がちに尋ねると、レーナさんは目を瞬かせて、

「あ、えーと……二十四歳になられましたけど……あの、そんなことも知らされていないんですか?」

 と言うので、私は頷いた。

「大公と結婚するよう国王陛下に言われて……詳しい話は全くなくて。だから私、大公について本当に何にも知らないんですよ」

 ギュスターヴ王とはそれきり会ってないし、聞く場面がなかった。メロディや侍女たちは、ノエル大公について何にも知らなかったから聞く相手が全くいなくて今に至る。

「ノエル様は、ミレイユ様が嫁がれる、ということでいろいろと準備をすすめていらっしゃいましたし、国王陛下から話を伺っていたようですが……」

 レーナさんはそれきり黙ってしまい、一瞬暗い顔をする。
 何だろう……憐れむような目で見られたような気がするのは気のせいだろうか。
 何も知らない相手に嫁がされるのなんて珍しい……のかな。
 いや、比較対象がなさ過ぎてわかんないけど。

「えーと……あの、ノエル様はとてもお優しい方ですから……元敵国とはいえ、和平を望み、戦争を終わらせたくらいですので。国内でも王国との和平交渉には反対の声があったんですよ。でも、ノエル様は反対派を説得されて。国民の多くはノエル様の決定を支持されております。やはり、戦争は人々を疲弊させます。我らは一時期王国に支配されましたので複雑な思いはありますが、その頃のことを知る者はもう殆どおりませんし。世代交代をきっかけに、我が国としても戦争のない時代を望みたいです」

 戦争がどんなものなのか、私にはわからない。
 王国でも和平については反対の声があったらしいけど……若い世代ほど戦争なんてやってられない、っていう感じなので、世論としては今回の停戦は大歓迎だとか。

「ただ……あの……ミレイユ様」

 レーナさんは顔を伏せ、遠慮がちに言った。

「何?」

「えーと……ノエル様は少々変わった性質を持ってらっしゃるので……最初は、驚かれるかもしれません。そのせいで、今まで交際が上手くいかなかったようなので」

「……変わった性質?」

 いったいなんだろう?
 レーナさんは顔を伏せたまま、

「リュシエル王国に、獣人はおりませんよね?」

 と言った。

「え? えぇ……だからあの……失礼だとは思うけど……レーナを最初に見たとき驚いたもの」

「ですよねぇ……それだと、驚きすぎると思いますが……ノエル様、害はありませんから……ただ、打ち解けるまではなかなかあの……身体を近づけるようなことはしてこないかと……」

 そこまで言われると気になりすぎるんだけど?
 身体を近づけるようなことはしないっていうのはもう心当たりがある。近づこうとすると逃げていくんだもの。
 いったいどんな秘密があるのよ?
 そのうち、本人から聞けるかなあ。
 レーナさんは私の方を全然見ようとしてくれないし、いったい何があるんだろ?
 私は行儀が悪いと思いつつ、ぼすん、とソファーの背もたれに寄りかかった。
 
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