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38 偶然は必然であって

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 朝、目が覚めると目の前にシュウさんの顔があった。
 なんとなく腹に違和感を覚えて、昨日の行為を思い出し身体が熱くなるのを感じた。
 って、朝から何考えてんだ、俺。
 今何時だろ?
 ベッドヘッドに確かデジタル時計があるはずなんだけど。
 そう思って頭を動かした時だった。

「……ん……」

 薄くシュウさんの目が開いたかと思うと、ぎゅうっと身体を抱きしめられた。
 互いに裸だから、ペニスが硬くなってるのがわかってしまう。
 朝だから仕方ねぇけど……超恥ずかしい。

「……しゅ……秋星さん……?」

「まだ寝てようよ……今日はずっとこうしていたい気分」

 と、眠たげな声で言い、抱きしめる腕の力が強くなる。

「ちょ……あたって……」

「……当たり前でしょ……朝なんだし」

 そう言ったあと、シュウさんは俺の額に口付けた。
 朝だから、てことはわかってるけどやべえ……腹の底がうずうずしてくる。
 シュウさんは額だけじゃなく、瞼や頬にまでキスしてきてちょっとくすぐったかった。
 やばいってそれ。
 そんなにされたら俺……

「シュウさん……」

 たまらず名前を呼ぶと、キスの雨がやみ彼は俺の顔を眠そうな目で見つめた。

「何、漣君」

「し、したくなっちゃうから……」

 呟くように言いながら顔を伏せると、手がそっと、背中を撫でた。

「あ……」

「自分から言うの珍しいね。昨日あんなにしたから今日はそんなにする気、ないんだけど」

 言いながら、背中を撫でる手が下までおりてい尻を撫で、太ももが俺のペニスを刺激する。

「顔見せて」

 そう言われて俺は、ゆっくりと顔をあげた。
 すると唇が重なり、舌が入ってきて口の中を舐め回される。
 あーこれ、やばいやつ……
 舌が絡め取られて吸われて……気持ち良さに溶けちゃいそう。
 唾液の混ざり合う音が聞こえてきて、俺はたまらずシュウさんの背中に腕を回してしがみついた。
 欲しいほしい。
 もっと、いっぱい欲しい。
 唇が離れてうっとりとシュウさんを見つめると、彼は言った。

「まだ早いからしばらくこうしていようよ。僕も君も休みなんだから」

 やはり眠そうな声で言い、シュウさんは俺の身体を撫でながら首や胸に口づけを落としていった。
 

 
 七月二十五日金曜日の夜。
 量販店に出勤してレジに行くと、武藤さんがいた。
 彼に会うのは一週間ぶりだ。あの、駅で話をして以来で、俺はどんな顔をして武藤さんを見ればいいのかわからないでいた。
 彼は俺を見るとにこっと笑い、

「お疲れ様」

 と言った。

「お疲れ様です」

 なるべく心の中の動揺を出さないようにして、俺は笑顔で答える。
 夏休み中の金曜日、ということもありレジはそこそこ混みあっていて武藤さんと話をすることはなかった。
 客がひいたのは八時を過ぎた頃だった。
 レジの周りを片付けて閉店の準備をすすめていると、三台あるレジのうち、一台のレジの売り上げの集計処理をしている武藤さんが言った。

「神代君」

「え、あ、な、何すか?」

「君ってお酒弱い?」

 思ってもみなかったことを言われ、俺は手を止めて武藤さんの方を見る。
 彼は一切こちらを見ず、レジを見つめたまま言葉を続けた。

「いや、そうは思ったことないっすけど……何で?」

「君とは何回か飲みに行ってるけど……前はそこまで弱い、って感じしなかったけど明らかに弱くなってるよね。っていうかやたら抱き着いたりしてくるように……」

「は、は、恥ずかしいからレジでそんな話しないでください」

 周りにお客さんは見えないとはいえ、フロアにはまだ客がいるはずだ。
 ちょっと前にレジの前、通っていったし。
 やべえ、動悸がしてきた。

「だから、飲みにいくのには誘わない方がいいのかなって……俺の精神がもたないし」

 それは何にも言い返せねえ……
 まさかビール二杯で武藤さんの腕に絡みつくとかやると思ってなかったし。
 ……武藤さんからDomっぽさを感じてるから甘えようとしたのかもしれねえよな。
 そう思うと、武藤さんと飲みに行くのは控えた方がいいかもしれない。
 なんかそれはそれで寂しいよなぁ……俺が酒、飲まなきゃいいのかな。
 そもそもそこまで酒、飲みたいわけじゃねえし。

「俺、そんなに酒、好きなわけじゃないから俺が飲まない様にすればいいと思うんですけど」

 飲み会の雰囲気は好きだから、誘われないのは寂しすぎる。
 俺が言うと、武藤さんはこっちを向いて、真顔で言った。

「あぁ、そうか。誘わないのも不自然だよね。今まで他の子たちも含めてけっこう飲んだり食べ行ったりしてるし」

「そうっすよ。それはそれで寂しいし、なんかハブられてるみたいになるし」

「ごめん、そこまで考えてなかった」

 と言い、武藤さんは顔を伏せてしまう。
 別に責める気とかはねえんだけどな……

「薬飲んでるから、ある程度は抑えられてると思うんだけど……飲んだ君を目の前にすると抑えきれなくなりそうで怖くて」

 それはもう、かける言葉が見つからねぇ……
 悩んでいると、武藤さんは顔を上げてぱっと明るい顔になる。

「また病院行くからその時話してみるよ。違う薬、出してもらえるかもだし」

 なんか申し訳ない気がするけど、でもだからといって俺にはどうしようもねえしな……
 俺もバイトを辞めるわけにはいかないし、それは武藤さんも同じだろう。
 ゲームとかが好きだから、ここにいるんだし。
 武藤さんはDomじゃない。なのにSubがそばにいることでDomの特性が出てきてるみたいな話、してたよな。
 確かアパートの最寄駅で会って、コマンドを言われた時に。
 武藤さんはレジの方を向き、作業を続ける。
 その姿を見つめながら俺はふと考える。
 もし武藤さんがDomだったら?
 もしあの時、俺がシュウさんに会わなかったら?
 いいや、そんなこと考えても意味はない。
 だけど何とも言えない気持ちになって胸が痛くなり、俺はワイシャツの上から首にかかるドッグタグをぎゅっと握りしめた。
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