上 下
30 / 42

30 エンカウント

しおりを挟む
 俺と秋星さんの、期間限定の同居生活が始まった。
 俺はバイトかけもちだし、シュウさんもバイトやフィールドワークがあるとかで、一日一緒にいるのは週に一回程度になるだろうな。
 一緒に暮らし始めて毎晩シュウさんとの「プレイ」が行われ、俺は渇きを感じることはなくなった。
 彼との「プレイ」を重ねていくたびに、自分がSubである、と自覚させられていく。
 そして俺は、シュウさんから離れられなくなる気がした。
 っていうか、シュウさんのいない時間なんて考えられなくなりそうだ。
 一緒に暮らし始めてまだ数日だけど、一緒にいると安心感が半端ないし、望めば満たされるから、俺はどんどん彼への依存心を増している気がする。
 以前、Subについて調べたときに見た、首輪をつけられて悦ぶSubの姿を思い出す。
 あの時は信じらんなかったけど、俺も首輪をつけられたい、という願望が浮かんでは消えていくようになっていた。
 どんどん俺の心が変わっていく。
 シュウさんの手によって。
 気になるのは武藤さんだけど、彼とは駅前での出来事以降、DomとかSubの話はしていない。
 バイト先で顔を合わせても、話すのはゲームのこととか学校のことばかりだ。
 武藤さん、病院行ってその結果どうだったのかとっくにわかってるよなぁ……
 でも、そんなこと職場で聞くわけにもいかないし、ふたりでメシに行く機会も、飲みに行く機会も全然なくて確認できていなかった。
 まあ、ふたりにきりにならなければ危険もないだろうから、そんなに気にしなくてもいいんだろうけどな。
 俺、Dom相手なら誰でも命令聞いちゃうのかなあ……それはそれで嫌なんだけど。でも、Domってそんなにいないって言うから、日常生活を送るうえで困ることはないだろう。たぶん。
 また武藤さんが俺に命令すること、なきゃいいけど。
 それはちょっと心配だだった。
 
 そして八月六日日曜日。
 今日は朝からプールのバイトに行き、夕方から量販店のバイトでさすがに疲れて欠伸が出てくる。

「神代君、お疲れ様」

 量販店のバイト終わり、喫煙室で煙草を吸って廊下に出ると、武藤さんと鉢合わせた。

「あ、武藤さん、お疲れ様です」
 
 閉店時間を過ぎているため、廊下を行く人たちは皆疲れた顔をして通り過ぎていく。
 先に帰るのもおかしいので、俺はそのまま武藤さんと並んで出口に向かう。
 警備員の手荷物チェックがある為、出口は混みあっていた。
 
「神代君は夏休み中、他にもバイトしてるんだよね」

「はい。今日も他でバイトしてから来たんですよ」

「他の子もバイトの掛け持ちしてるって言ってたけどがんばるよねー」

 なんてことを話しながら警備員のチェックを通り、俺たちは外に出た。
 今日も昼は四十度を超えていたから、日が暮れても空気がむわっとしている。
 ここから俺はシュウさんの家に帰るから、武藤さんとはすぐに別れることになる。

「じゃあ俺、あっちなんで」

 と、駅前で武藤さんに声をかけると、彼は驚いたような顔をして俺を見た。

「あれ、どこか寄るの?」

「あー、えーと、俺、友達んちに行くんで」

 そう笑ってごまかし、俺は武藤さんに手を振る。
 
「あぁ、うん。それじゃあ」

 武藤さんは笑って手を振り返してきてそして、駅の中に消えて行く。
 ……なんか違和感。
 結局、武藤さんに何にも聞けてない。
 そもそも俺がそれを知る必要、あるだろうか?
 そう思い俺は、駅に背を向けて歩き出した。その時。

「漣君」

 耳慣れた声が聞こえてきて俺は、そちらへと視線を向ける。

「あ……シュウさん」

「お疲れ様。車で来たから一緒に帰ろうか」

 言いながら彼は、俺の方に手を伸ばしてくる。
 わざわざ迎えに来てくれたのか。特に連絡はなかったと思うし、話しもなかったと思うけど。そうか、シフトを共有してるから俺の仕事が終わる時間、全部知ってるんだもんな。

「ありがとうございます」

 俺は伸ばされた腕に絡みつき、

「今日の夕飯、どうするんですか?」

 と、尋ねた。

「今日はハンバーグとコーンスープだよ」

「マジですか? 超楽しみです」

 やべえ、メシの話してたら腹が鳴ってきた。

「ねえ漣君」

「何ですか?」

「一緒に出てきた人、誰?」

「え? 出てきた人?」

 すぐに武藤さんのことだと気が付いたけど、って、いつから俺のこと見てたんだ?

「えーと、職場の人っすよ」

「もしかして、前に家に泊まったっていう人?」

 その言葉に、俺の心臓が大きな音を立てる。
 シュウさん、そりゃあ覚えてるよなぁ。たしかあの時、シュウさん絶対嫉妬してたし。
 まだあの時は、武藤さんがDomっぽいってこと知らなかったから言ってないけど、あの人がDomよりだってこと、言った方がいいのか?
 悩んで俺は、すぐにはそのことを話さず、シュウさんの様子を見ることにした。
 そもそもそんなデリケートな話、人にほいほいしていいのかわかんねえしな。

「そう……ですけど……」

 シュウさんは笑って、俺の方を見る。
 なんかその笑顔が怖い。大丈夫か、これ……
 ぜってー言わない方がよさそうだな、武藤さんのこと。

「そうなんだ。あぁ、車、こっちだから」

 と言い、シュウさんは駅にある送迎者用の駐車スペースへと向かって行く。
 その駐車場は、量販店から駅前を通り過ぎた所にある。
 やっぱ、ずっと見てたのかな、シュウさん。
 ならなんですぐに声をかけてこなかったんだろ?
 ……もしかしたらシュウさん、今、嫉妬に燃えていたりするのかなぁ?
 この人全然そういうの、表に出さないから分かんねえんだよな……
 明日は俺もシュウさんも一日休みだ。
 何事もなきゃいいけど。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】奴隷に堕ちた騎士

蒼い月
BL
気持ちはR25くらい。妖精族の騎士の美青年が①野盗に捕らえられて調教され②闇オークションにかけられて輪姦され③落札したご主人様に毎日めちゃくちゃに犯され④奴隷品評会で他の奴隷たちの特殊プレイを尻目に乱交し⑤縁あって一緒に自由の身になった両性具有の奴隷少年とよしよし百合セックスをしながらそっと暮らす話。9割は愛のないスケベですが、1割は救済用ラブ。サブヒロインは主人公とくっ付くまで大分可哀想な感じなので、地雷の気配を感じた方は読み飛ばしてください。 ※主人公は9割突っ込まれてアンアン言わされる側ですが、終盤1割は突っ込む側なので、攻守逆転が苦手な方はご注意ください。 誤字報告は近況ボードにお願いします。無理やり何となくハピエンですが、不幸な方が抜けたり萌えたりする方は3章くらいまでをおススメします。 ※無事に完結しました!

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【本編完結済】ヤリチンノンケをメス堕ちさせてみた

さかい 濱
BL
ヤリチンの友人は最近セックスに飽きたらしい。じゃあ僕が新しい扉(穴)を開いてあげようかな。 ――と、軽い気持ちで手を出したものの……というお話。 受けはヤリチンノンケですが、女性との絡み描写は出てきません。 BLに挑戦するのが初めてなので、タグ等の不足がありましたら教えて頂けると助かります。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

獅子帝の宦官長

ごいち
BL
皇帝ラシッドは体格も精力も人並外れているせいで、夜伽に呼ばれた側女たちが怯えて奉仕にならない。 苛立った皇帝に、宦官長のイルハリムは後宮の管理を怠った罰として閨の相手を命じられてしまう。    強面巨根で情愛深い攻×一途で大人しそうだけど隠れ淫乱な受     R18:レイプ・モブレ・SM的表現・暴力表現多少あります。 2022/12/23 エクレア文庫様より電子版・紙版の単行本発売されました 電子版 https://www.cmoa.jp/title/1101371573/ 紙版 https://comicomi-studio.com/goods/detail?goodsCd=G0100914003000140675 単行本発売記念として、12/23に番外編SS2本を投稿しております 良かったら獅子帝の世界をお楽しみください ありがとうございました!

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

処理中です...