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11 またやらかした

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 慌てて上体を起こしキョロキョロと室内を見回す。
 知らないベッドに、知らない匂い。
 ベッドの横には布団が畳まれている。
 ……どこだ、ここ。
 血の気が引く音が響き俺は昨日のことを思い出す。
 そうだ、武藤さんと飲みに行って、ハメ外して飲みすぎたんだ。
 ……その後の記憶がない……!
 服は……着てる。
 そりゃそうだよな、そうそう男と寝ることなんてねぇよな……
 でもこれ……やばくねぇかな……
 いくら職場の人とはいえ一晩泊まったのがシュウさんに知られたら……
 そう思うと心臓が大きな音を立てる。
 いいやでも浮気したわけじゃねぇし……そもそも俺たちの関係ってなんだ……?
 それについてはっきり話したことはない。
 でもあんなことしてるのに何でもない、はねぇし……
 恋人? セフレ? なんて呼ぶんだよ、DomとSubの関係って。
 混乱していると、扉が開く音がした。
 現れたのは、半袖Tシャツにスウェットのズボンを着た武藤さんだった。

「神代君、大丈夫?」

 言いながら彼はベッドに近付いてくる。

「う、え? あ、武藤さん……だ、大丈夫です」

「良かった。頭痛くない?」

 武藤さんは俺の頭に触れてくる。
 飲みすぎた割には頭はスッキリしてるし、身体も怠くない。それよりも俺は違うことが気になっていた。
 何にもねえだろうな……

「俺……何があったんすか?」

「あ、覚えてないか。まあ、結構酔ってたしね。帰れるか聞いたんだけど抱きついてきて離れなかったからタクシー呼んでうちに連れ帰ってきちゃった」

 抱きついて離れなかった……?
 うわぁ、やべぇ俺、何やってんだよ!

「すみません、そのへんのこと全然思い出せなくて」

 言いながら俺は頭を下げた。
 やっべーところ見られたなあ……
 いくら武藤さんとはそこそこ仲いいとはいえ、恥ずかしすぎる。

「大丈夫だよ。色々と溜まってたのかなー」

 と言い、武藤さんは俺の頭をくしゃり、と撫でた。
 やべぇ……なんかドキドキしてきた。
 俺、もしかして男なら誰でもいいのか? いいや、んなわけあるかよ。
 あー、俺、どうかしてる。

「今日朝からシフト入ってるでしょ? 行けそう?」

 そうだ、今日は開店から仕事だ。バイトには行かないと生活費が減る。
 でも、一旦家帰って着替えねぇとなあ。

「大丈夫ですけど、一回家に帰らないと」

「そうだよね。そしたら少し遅れるって、俺から伝えとくよ。俺も今日は早番だから。朝ごはん食べられそう? 簡単に用意したけどどう?」

 そう言われると腹がなる。
 俺は頷き、

「いただきます」

 と答えた。



 朝飯を食べた後急いで家に帰ってシャワーを浴びる。
 その間に昨日の事を思い出そうとするけど……記憶がおぼろげだった。
 なんかやべえこと言ってねえだろうな……
 俺、当たり前のようにシュウさんと毎週会ってるけどこの関係、なんて言うんだろ?
 ……知識なさ過ぎてわかんねえ……
 俺はシャワーを浴びて黒の綿パンにワイシャツ、それにパーカーを羽織り家を出た。

 結局十時の開店時間には間に合わなくて、少し過ぎた時間に職場に着く。
 日曜日って時間の進みがおせーんだよなぁ……
 ゲーム筐体の前を通ると、どの台も埋まってて順番待ちがいる。
 クレーンゲームでは女の子が必死に白いうさぎみたいあキャラのぬいぐるみを取ろうと頑張っている。
 それを横目に通り過ぎ、俺はレジへと向かった。

「あ、神代君おはよう」

 売り場で武藤さんに会い、彼は俺の見て微笑む。

「あ、おはようございます」

「無理しないでね」

 と言い、彼は俺の肩をぽん、と叩き行ってしまった。
 武藤さんにやべえ所見られたよなぁ……今度から気をつけねえと。
 武藤さんや他のバイトとご飯行ったり飲みに行くことは月に一回あったりするし。
 俺はそう決意してレジへと急いだ。

 三時にバイトが終わり、退社して外に出ると従業員入り口のそばに、白い長そでTシャツをきたシュウさんが待っていた。
 彼は俺を見つけるとにこっと笑い、手を振ってくる。

「お疲れ様」

「あ……えーと、お待たせしました」

 何だろう。なんか俺気まずい。
 別に浮気したわけじゃねえのに……なんでこんな落ち着かねえんだろ?
 そんな俺のちょっとの変化に気が付いたのか、シュウさんは俺の顔を覗き込んできて言った。

「何かあったの?」

「え? あ、え? いや、その……」

 言っていいのか言ったらまずいのか、とっさの判断ができねえうえに嘘もつけない。
 俺はドギマギしながらシュウさんの顔を見る。
 やべえ、背中を変な汗が流れてく。
 するとシュウさんは目を細めて言った。

「漣君」

 きつい響きを持った声が響く。

「あんまりやりたくないけどねえ、漣君、『言って?』何かあったのか、教えてくれるかな」

「あ……あの、昨日職場の人と飲みに行って……それで飲みすぎて俺……その人ンち泊まっちゃって……」

 しどろもどろになりながら俺は答えた。
 そうだ、シュウさん、言ってたっけ。
 無理やり喋らせる方法があるって。
 するとシュウさんは微笑みそして、俺の頭に手を触れて言った。

「あぁ、そういうことか。それを知られたら僕に怒られると思ったの?」

 その問いかけに、俺は小さく頷く。

「無理やり喋らせるようなことしてごめんね。何かありましたって顔していたからさ」

 そりゃそうだよな……まともに顔見らんなかったらバレるよな。

「怒りはしないよ。だって君と僕はパートナーとしての契約はしていないし。でも……嫉妬はするかな」

 笑いながら言っているけれど、声はなんだか冷たくて、また背中を変な汗が流れていく。
 シュウさんは俺の頭から手を離すと今度は腕をがしりと掴み、満面の笑みで言った。
 
「ねえ漣君、うちに帰ったら詳しい話、聞きたいな」

 ぜってー怒ってないなんて嘘だ。
 何されんだ俺……
 何をされるのかわからない恐怖とお仕置きされるかも、という期待で心の中を乱されながら俺はシュウさんに連れられて彼の家へと向かった。
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