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2放っておいてほしい
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大学生活が始まり一週間が過ぎた。
俺と蒼也は同じ国立大学だが、学部が違うので顔を合わせることはなかった。
この大学は広大だ。
教育学部、政治経済学部、理工学部、医学部、芸術学部などがあり、校舎がいくつもある為学部が違えば顔を合わせることはない。
俺は芸術学部で、蒼也は政治経済学部だ。
よほどのことがない限り、俺はあいつと会わなくて済む。
それは俺の心の平穏には大事なことだった。
午前の講義を終えて昼休み。
天気がよく、中庭には多くの学生が出ていて皆思い思いに過ごしている。
俺は中庭の片隅で、イヤホンをつけて音楽を聞きながら、昨日スーパーで買った半額のパンを食べていた。
時おり吹く風が心地よく肌を撫でる。
ずっとこうやって平穏な日々を送れたらいいのに。
蒼也と同じ大学、と知った時は絶望した。
あいつから離れようと別の高校に行ったのに。
あいつならもっと違う大学に行けただろうに。
俺と暮らしたい、と言いだしたときは絶望を感じたが、両親が止めてくれて本当によかったと思う。
じゃなかったら俺は、毎日あいつに抱かれることになるんだから。
パンを食べ終えてごみを持ってきた小さなレジ袋に放り込んでいると、誰かが隣に座って来た。
その人は俺の肩を叩いてきたため、驚きその人物の顔を見る。
癖のある明るい茶髪。優しそうな二重の瞳の好青年。
見るからにモテそうなそいつに、俺は本能的に嫌悪感を覚えた。
蒼也と同じ、匂いがする。
直感が、こいつはアルファだと告げている。
見覚えのない学生だが、いったい何者だろう。
俺は仕方なく、イヤホンを片耳だけ取った。
「何か、ご用ですか」
「手袋」
「え? 手袋?」
見ず知らずの人間がなぜ、俺の手袋なんて気にするんだ?
「したまま食事取る人なんて珍しいから、何でだろうって思って」
「な、なんでそんな事……知らない人に言わなくちゃいけないんですか」
言いながら俺は、彼から目を反らす。
「気になったから」
「個人的な理由です。放っておいてください」
今までに、そう言うことを聞いてくる相手は何人もいた。
そのたびに俺ははぐらかしてきた。
そんなの答える必要なんてないからだ。
「なんか不思議な匂いがしたから気になったんだけど? そうだよねえ。警戒するよね。僕は浅木奏。医学部の二年生だよ」
医学部二年。
なんでそんなやつが、なんで俺に話しかけてくるんだよ?
そんなに手袋が気になるのか?
名乗られたら、こちらも名乗らないわけにはいかず、俺は俯き答えた。
「羽入……緋彩。芸術学部の……一年生で」
「羽入、変わった名字だね」
この苗字は会話のきっかけになることがよくある。
でも俺は会話を続ける気などなく、膝の上で手を組み、早く行ってくれないかと念じていた。
「すごく使いこまれてるみたいだけど、ずっとしてるの?」
「そ、そんなのどうでもいいじゃないですか。なんで気にするんですか?」
「一度気になったら、確認しないと気が済まないんだよね」
なんだよその迷惑な性格は。
放っておいてくれ。
俺は、誰とも関わりたくないのに。
「デリケートな問題みたいだね。ごめんね」
「そうですよ。だからそんな、プライベートなことに、首を突っ込むのは……やめてください」
言いながら俺は首を横に振る。
「緋彩」
耳慣れた声に、俺の身体は震えた。
なんであいつがここに現れるんだよ。
なんで……なんでだよ。
かたかたと膝が、歯が震えだす。
「兄に、何か用ですか」
冷たい、蒼也の声。
「……へえ……」
それに続く、浅木さんの声。
緋色の手が俺の腕を掴む。
「探してたよ、緋彩。行こう」
「彼、怯えているみたいだけど?」
「貴方には関係ないですよ」
蒼也は答え、俺を無理やり立ち上がらせる。
「な、何しに来たんだよ、お前」
震える声で言うと、蒼也は俺の頭を抱きしめて言った。
「会いたかったからに決まってるじゃないか、兄さん」
兄、と呼ばれるたびに俺は心はぐちゃぐちゃになる。
俺はお前の兄なのに、なんでお前は俺を、こんな目に合わせるんだ?
胸が痛い。息も苦しくなってくる。
「兄弟、の割には似てないね」
「二卵性ですから。とにかく、兄に近づかないでください」
「息が苦しそうだけど、彼」
「俺がいるから大丈夫です」
そう答え、蒼也は俺を引っ張って歩き出した。
怖い。
こいつ、何を考えてるんだ。
「緋彩、食堂にいないから探すのに苦労した」
俺の腕を引きながら、イラついた声で蒼也は言う。
俺はその手を振り払い、
「なんで俺に構うんだ」
と言って睨み付けた。
すると蒼也は目を細めそして、俺の腕を掴み顔を近づけてくる。
「ああいう変なのが、緋彩に近づかない様に、だよ。大学にはたくさん人がいるからね。俺は、緋彩を守りたいんだ」
守りたい? 勝手なことを言うなよ。
一番の危険人物はお前なんだから。
俺と蒼也は同じ国立大学だが、学部が違うので顔を合わせることはなかった。
この大学は広大だ。
教育学部、政治経済学部、理工学部、医学部、芸術学部などがあり、校舎がいくつもある為学部が違えば顔を合わせることはない。
俺は芸術学部で、蒼也は政治経済学部だ。
よほどのことがない限り、俺はあいつと会わなくて済む。
それは俺の心の平穏には大事なことだった。
午前の講義を終えて昼休み。
天気がよく、中庭には多くの学生が出ていて皆思い思いに過ごしている。
俺は中庭の片隅で、イヤホンをつけて音楽を聞きながら、昨日スーパーで買った半額のパンを食べていた。
時おり吹く風が心地よく肌を撫でる。
ずっとこうやって平穏な日々を送れたらいいのに。
蒼也と同じ大学、と知った時は絶望した。
あいつから離れようと別の高校に行ったのに。
あいつならもっと違う大学に行けただろうに。
俺と暮らしたい、と言いだしたときは絶望を感じたが、両親が止めてくれて本当によかったと思う。
じゃなかったら俺は、毎日あいつに抱かれることになるんだから。
パンを食べ終えてごみを持ってきた小さなレジ袋に放り込んでいると、誰かが隣に座って来た。
その人は俺の肩を叩いてきたため、驚きその人物の顔を見る。
癖のある明るい茶髪。優しそうな二重の瞳の好青年。
見るからにモテそうなそいつに、俺は本能的に嫌悪感を覚えた。
蒼也と同じ、匂いがする。
直感が、こいつはアルファだと告げている。
見覚えのない学生だが、いったい何者だろう。
俺は仕方なく、イヤホンを片耳だけ取った。
「何か、ご用ですか」
「手袋」
「え? 手袋?」
見ず知らずの人間がなぜ、俺の手袋なんて気にするんだ?
「したまま食事取る人なんて珍しいから、何でだろうって思って」
「な、なんでそんな事……知らない人に言わなくちゃいけないんですか」
言いながら俺は、彼から目を反らす。
「気になったから」
「個人的な理由です。放っておいてください」
今までに、そう言うことを聞いてくる相手は何人もいた。
そのたびに俺ははぐらかしてきた。
そんなの答える必要なんてないからだ。
「なんか不思議な匂いがしたから気になったんだけど? そうだよねえ。警戒するよね。僕は浅木奏。医学部の二年生だよ」
医学部二年。
なんでそんなやつが、なんで俺に話しかけてくるんだよ?
そんなに手袋が気になるのか?
名乗られたら、こちらも名乗らないわけにはいかず、俺は俯き答えた。
「羽入……緋彩。芸術学部の……一年生で」
「羽入、変わった名字だね」
この苗字は会話のきっかけになることがよくある。
でも俺は会話を続ける気などなく、膝の上で手を組み、早く行ってくれないかと念じていた。
「すごく使いこまれてるみたいだけど、ずっとしてるの?」
「そ、そんなのどうでもいいじゃないですか。なんで気にするんですか?」
「一度気になったら、確認しないと気が済まないんだよね」
なんだよその迷惑な性格は。
放っておいてくれ。
俺は、誰とも関わりたくないのに。
「デリケートな問題みたいだね。ごめんね」
「そうですよ。だからそんな、プライベートなことに、首を突っ込むのは……やめてください」
言いながら俺は首を横に振る。
「緋彩」
耳慣れた声に、俺の身体は震えた。
なんであいつがここに現れるんだよ。
なんで……なんでだよ。
かたかたと膝が、歯が震えだす。
「兄に、何か用ですか」
冷たい、蒼也の声。
「……へえ……」
それに続く、浅木さんの声。
緋色の手が俺の腕を掴む。
「探してたよ、緋彩。行こう」
「彼、怯えているみたいだけど?」
「貴方には関係ないですよ」
蒼也は答え、俺を無理やり立ち上がらせる。
「な、何しに来たんだよ、お前」
震える声で言うと、蒼也は俺の頭を抱きしめて言った。
「会いたかったからに決まってるじゃないか、兄さん」
兄、と呼ばれるたびに俺は心はぐちゃぐちゃになる。
俺はお前の兄なのに、なんでお前は俺を、こんな目に合わせるんだ?
胸が痛い。息も苦しくなってくる。
「兄弟、の割には似てないね」
「二卵性ですから。とにかく、兄に近づかないでください」
「息が苦しそうだけど、彼」
「俺がいるから大丈夫です」
そう答え、蒼也は俺を引っ張って歩き出した。
怖い。
こいつ、何を考えてるんだ。
「緋彩、食堂にいないから探すのに苦労した」
俺の腕を引きながら、イラついた声で蒼也は言う。
俺はその手を振り払い、
「なんで俺に構うんだ」
と言って睨み付けた。
すると蒼也は目を細めそして、俺の腕を掴み顔を近づけてくる。
「ああいう変なのが、緋彩に近づかない様に、だよ。大学にはたくさん人がいるからね。俺は、緋彩を守りたいんだ」
守りたい? 勝手なことを言うなよ。
一番の危険人物はお前なんだから。
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