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15わからないなら調べるまで
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次の日。
エミールが出かけたあと、私はフィルに言葉を教えるリディアに間を見計らって尋ねた。
「エミールがうちに来たとき、リディアはまだうちにいたわよね?」
私の問いかけに、目を大きく見開きリディアは頷いた。
「え? あ、はい。エミール君がきてひと月くらいして、私はお屋敷を離れましたので」
「エミールは、フルス公国と何か関係があるのかしら?」
すると、リディアの表情が一瞬固まったような気がした。
けれど彼女はすぐに困ったような顔をして、
「さあ……心当たりはありませんが」
と言った。
「こいつも嘘ついてるな」
私の肩に腰かけるミルカが呟く。
私もそう思う。
エミールと言い、リディアと言い、なぜ嘘を言うのかしら?
理解できない。ばれないとでも思っているの?
私が嘘を見抜けないわけないじゃないの。
「……お前のその根拠のない自信が理解できねーよ」
呆れた声でミルカが呟く。
私は守護精霊を完全に無視して、リディアの目を見つめて言った。
「エミールは私にフルス公国に関する何かを隠しているの。
それは本人が認めているの。お兄様が帰国される理由だって本当は知っているのでしょうに、話してくれないのよ」
リディアの目に戸惑いや困惑と言った色が浮かんでいるように見える。彼女はちらりとフィルを見た。
彼は見ていた本から視線を外し、きょとん、とした顔でこちらを見ている。
フィルがいる状況ではこれ以上リディアを問い詰めることはできないわね。
彼は首を傾げ、
「シュテフィ、怒ってる?」
なんて言いだす。
私は笑顔で首を振り、
「いいえ、怒っていないわ」
と答えた。
リディアは、下を俯き、首を振った後顔を上げて真剣な眼差しで私の方を見た。
「あの、詳細は存じ上げませんが……あの、今フルス公国で問題が発生しているのは存じております。商人の間で噂になっているので」
「その噂について聞いてもいいかしら?」
言いながら、私は髪を掻き上げた。
尋ねたのは私なのに、心臓が破裂しそうなほど大きな音を立てて鼓動を繰り返している。
なんでこんなに緊張をしているのだろう?
こんなの、私らしくない。
リディアは言いにくそうに、下を俯いた後言った。
「十年近く前に亡くなったはずの公子が実は生きていたらしいと……そんな噂が流れております。そのことで、フルス公国の中央では騒動が起きているとか」
「ありがとう、リディア。そうしたら私、ちょっと外に出て調べてくるわね」
「し、調べるって何を」
「フルス公国のその騒動についてよ」
そう答え、私はにっこりと笑って見せた。
ひとりで外に出掛ける、というのは未だに不思議な感じがする。
家を出てからひとりで出かけることは何度かあったけれど、フィルやリディアと一緒にでかけることの方が圧倒的に多かった。
だからひとりでのお出かけ、と言うのは違和感が大きい。
私が出かけた先は本屋だ。
童話や歴史書、大衆娯楽の小説などのほか、雑誌や新聞なども扱っている。
国内外の王族貴族の醜聞、というのは皆好きらしく、雑誌ではいろんな国のいろんな王族貴族の噂話を扱っている。
フルス公国の話題もきっとあるはずだと思い、私は雑誌の表紙をざっと見た。
この手の雑誌は人の目を惹かなくちゃいけないためか、けっこう過激な文章が並んでいることが多い。
実家にいるときはこんな雑誌の存在、知らなかった。
初めて目にしたときは衝撃的だったけれど今ではだいぶ慣れた。
「フルス公国でお家騒動再び? 死んだはずの王子が生きている?」
なんていう文書が表紙に書かれている雑誌がいくつかあったので私はそれらを購入して家に戻った。
私も家を出たときに雑誌に好き勝手書かれ、半分くらいは嘘だったので書かれていることを全部を信じる気はもちろんないのだけれど。
寝室の寝台に寝転がり、私は雑誌に目を通した。
リディアの言うとおり、フルス公国の亡くなった公子が生きている、という噂がたっているらしい。
その王子と言うのはいわゆる妾の子供で前大公の第一子だとか。
八年ほど前に大公が亡くなり、続けて正妃も亡くなり、妾の子である公子も亡くなったとか。
「ずいぶんと立て続けに人が亡くなっているのね」
さすがに続きすぎではないだろうか?
大公が亡くなったのも、正妃が亡くなったのも皆なにか陰謀がありそうね。
「……エリアス公子が実は他国で生き延びている……ねえ」
八年前に十二歳と言うことは、今二十歳くらい……エミールと同じくらいね。
そう思い、私は雑誌の記事を指でなぞる。
「エミール……エリアス……」
八年前、私の家にやって来たエミール。
なんだか暗い子供だったような気がする。
「……まさか、そんなことないわよね」
エミールが実はこの死んだはずの公子エリアスなんてこと……ない、よね?
そんな都合がいい話あるだろうか?
でもなぜお兄様が帰国されるの? 公子エリアスが生きていることと関係がある?
ギルベルトが言っていた、私が置かれている状況……私の立場って何?
わからなくてもやもやする。
こんなの、私らしくない。
「わからないなら、ギルベルトに聞けばいいのよね。あいつ、何か知っているんだから」
私はすっと起き上がり、雑誌を勢いよく閉じた。
エミールが出かけたあと、私はフィルに言葉を教えるリディアに間を見計らって尋ねた。
「エミールがうちに来たとき、リディアはまだうちにいたわよね?」
私の問いかけに、目を大きく見開きリディアは頷いた。
「え? あ、はい。エミール君がきてひと月くらいして、私はお屋敷を離れましたので」
「エミールは、フルス公国と何か関係があるのかしら?」
すると、リディアの表情が一瞬固まったような気がした。
けれど彼女はすぐに困ったような顔をして、
「さあ……心当たりはありませんが」
と言った。
「こいつも嘘ついてるな」
私の肩に腰かけるミルカが呟く。
私もそう思う。
エミールと言い、リディアと言い、なぜ嘘を言うのかしら?
理解できない。ばれないとでも思っているの?
私が嘘を見抜けないわけないじゃないの。
「……お前のその根拠のない自信が理解できねーよ」
呆れた声でミルカが呟く。
私は守護精霊を完全に無視して、リディアの目を見つめて言った。
「エミールは私にフルス公国に関する何かを隠しているの。
それは本人が認めているの。お兄様が帰国される理由だって本当は知っているのでしょうに、話してくれないのよ」
リディアの目に戸惑いや困惑と言った色が浮かんでいるように見える。彼女はちらりとフィルを見た。
彼は見ていた本から視線を外し、きょとん、とした顔でこちらを見ている。
フィルがいる状況ではこれ以上リディアを問い詰めることはできないわね。
彼は首を傾げ、
「シュテフィ、怒ってる?」
なんて言いだす。
私は笑顔で首を振り、
「いいえ、怒っていないわ」
と答えた。
リディアは、下を俯き、首を振った後顔を上げて真剣な眼差しで私の方を見た。
「あの、詳細は存じ上げませんが……あの、今フルス公国で問題が発生しているのは存じております。商人の間で噂になっているので」
「その噂について聞いてもいいかしら?」
言いながら、私は髪を掻き上げた。
尋ねたのは私なのに、心臓が破裂しそうなほど大きな音を立てて鼓動を繰り返している。
なんでこんなに緊張をしているのだろう?
こんなの、私らしくない。
リディアは言いにくそうに、下を俯いた後言った。
「十年近く前に亡くなったはずの公子が実は生きていたらしいと……そんな噂が流れております。そのことで、フルス公国の中央では騒動が起きているとか」
「ありがとう、リディア。そうしたら私、ちょっと外に出て調べてくるわね」
「し、調べるって何を」
「フルス公国のその騒動についてよ」
そう答え、私はにっこりと笑って見せた。
ひとりで外に出掛ける、というのは未だに不思議な感じがする。
家を出てからひとりで出かけることは何度かあったけれど、フィルやリディアと一緒にでかけることの方が圧倒的に多かった。
だからひとりでのお出かけ、と言うのは違和感が大きい。
私が出かけた先は本屋だ。
童話や歴史書、大衆娯楽の小説などのほか、雑誌や新聞なども扱っている。
国内外の王族貴族の醜聞、というのは皆好きらしく、雑誌ではいろんな国のいろんな王族貴族の噂話を扱っている。
フルス公国の話題もきっとあるはずだと思い、私は雑誌の表紙をざっと見た。
この手の雑誌は人の目を惹かなくちゃいけないためか、けっこう過激な文章が並んでいることが多い。
実家にいるときはこんな雑誌の存在、知らなかった。
初めて目にしたときは衝撃的だったけれど今ではだいぶ慣れた。
「フルス公国でお家騒動再び? 死んだはずの王子が生きている?」
なんていう文書が表紙に書かれている雑誌がいくつかあったので私はそれらを購入して家に戻った。
私も家を出たときに雑誌に好き勝手書かれ、半分くらいは嘘だったので書かれていることを全部を信じる気はもちろんないのだけれど。
寝室の寝台に寝転がり、私は雑誌に目を通した。
リディアの言うとおり、フルス公国の亡くなった公子が生きている、という噂がたっているらしい。
その王子と言うのはいわゆる妾の子供で前大公の第一子だとか。
八年ほど前に大公が亡くなり、続けて正妃も亡くなり、妾の子である公子も亡くなったとか。
「ずいぶんと立て続けに人が亡くなっているのね」
さすがに続きすぎではないだろうか?
大公が亡くなったのも、正妃が亡くなったのも皆なにか陰謀がありそうね。
「……エリアス公子が実は他国で生き延びている……ねえ」
八年前に十二歳と言うことは、今二十歳くらい……エミールと同じくらいね。
そう思い、私は雑誌の記事を指でなぞる。
「エミール……エリアス……」
八年前、私の家にやって来たエミール。
なんだか暗い子供だったような気がする。
「……まさか、そんなことないわよね」
エミールが実はこの死んだはずの公子エリアスなんてこと……ない、よね?
そんな都合がいい話あるだろうか?
でもなぜお兄様が帰国されるの? 公子エリアスが生きていることと関係がある?
ギルベルトが言っていた、私が置かれている状況……私の立場って何?
わからなくてもやもやする。
こんなの、私らしくない。
「わからないなら、ギルベルトに聞けばいいのよね。あいつ、何か知っているんだから」
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