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11しつこい王子様
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それから二日が過ぎた。
下宿先のご主人であるハンスさんが手配してくれたフィルの服が届いた。
人ひとりが入るであろう木箱を開けると、服が満載に入っていた。
それを見たフィルは目を輝かせて、その服を手に取る。
「これ、服」
片言で言い、フィルは私の方を見た。
私は彼に微笑みかけて答えた。
「えぇ、貴方用の服よ。貴方が住んでいた国から取り寄せたの」
そんな私の言葉を、リディアが通訳するとフィルは一瞬悲しそうな顔をした。
けれどフィルは首を振り、私の方を見て微笑んで言った。
「ありがとう」
フィルが嬉しいことは私も嬉しい。
フィルは服を引っ張り出して、それを長椅子の上にひろげていく。
結構お金はかかってしまったけれど、当分は大丈夫、かな。
フィルは、今は私より身長が小さいけれど……いずれ成長期を迎えてどんどん背が伸びるだろう。
その辺は人間と同じらしいけれど……どれくらい大きくなるのだろうか?
エミール位になるのかしら?
私、一年もしたら身長をぬかされてしまうかもしれない。
まだあどけないフィルが大人になったらどうなるのだろうか?
大人の獣人を見たことがないので正直想像できなかった。
彼は帰りたいだろうか? 獣人たちの国に。
でも、フィルの両親は亡くなっていると言っていたし……
今のところ、フィルは帰りたいということは一切言わない。
親のいない子供がひとりで生きていけるとも思えないし。
「シュテフィ、ちょっといいか?」
ほぼ毎日屋敷に帰って私のことを両親に報告しているエミールが、戻ってくるなり私を呼んだ。
彼は珍しくまじめな顔をしている。
いったいなんだろうか?
部屋の扉のところで手招きをしているということは、フィルに聞かれたくないのだろうな。
仕方なく私は立ち上がり、彼に歩み寄った。
「どうしたの?」
実家で何かあったのだろうか?
エミールは着ているジャケットの襟もとから手を入れて、懐から一枚の封筒を取り出した。
何、この嫌な予感しかしないものは。
私は眉間にしわを寄せ、その封筒を見た。
「シュテフィ、お前宛てに王子様から招待状が届いた」
「なんですって?」
一昨日はっきりきっぱり断ったのに。
どうして私にこだわるの?
意味わかんない。
私の魔力が目的? それとも別の理由?
ミルカが言っていた、人生予定表のことを思うと絶対に行きたくないのだけれど。
逃げようとしても、予定表からは絶対に逃げられないの?
でもミルカの口ぶりからすると私がやっていることは予定からだいぶずれていることのはずよね。
違うことを始めたから予定表が書き換えられたとか? それはあり得そうだけれど、どうなのだろうか?
「王子様の正式な招待なんて断れないよな、シュテフィ」
ミルカの楽しそうな声が癇に障る。
けれど、ミルカの言うとおり、正式な招待を断るのはさすがに無理だと思う。
これを断ったら父の立場がまずくなるのではと、私でも思う。
「パーティーにこっぴどく振ってやればいい?」
真面目に考えて出した案を口にすると、エミールは苦笑して首を傾げた。
「……いや、さすがにそれについて俺は何とも言えねーよ。お前の両親も正直困惑してるよ。今まであちらがお前に言及してきたことなんて一切なかったのに突然どうしたのかって。探りを入れているらしいけれど……理由はまだわからん」
ギルベルトから声をかけられたことや誘われたことは幾度もあるけれど、相手をしたことはない。
声を掛けられていたのは私だけではないし、女子生徒の大半は彼から誘われたことがある……はず。
「その探りは続けてほしい所だけれど。
ギルベルトの誕生日のパーティーは二か月後……よね」
二か月あればドレスや装飾品の準備は十分できるけれど……乗り気じゃないのでやりたくない。
とはいえ正式な招待状が来てしまったらさすがに断るわけにもいかないしな。
すっごく嫌なんだけれど。
あの口ぶりではあいつ、私を選びかねないじゃないの。
でもそうなったら、妖精が言ってた婚約破棄とかなんだとかになるのよね?
婚約破棄……というか解消?
そんなことするくらいなら最初から私以外を選べばいいのに。
なんでこんなことに。
ギルベルトの目的がさっぱりわからない。
わからないことは不安だし、イラッとする。
「シュテフィ! 着ていい?」
思案していると、フィルが服を持って私に駆け寄ってきて言った。
私は振り返りできるだけ笑顔を作ってフィルを見る。
「えぇ。着てみたいなら私の寝室で着てみていいよ。鏡もあるし。ちゃんと扉は締めてね」
「うん!」
フィルは頷き、服を抱えて私の寝室へと入って行った。
「あぁ、服、届いたんだ。よかったな。あんなに喜ぶなんて」
「えぇ。人用の服はちょっと着にくいみたいだったからよかった。
それで、その招待なんだけれど、さすがに断れないよね」
「打診蹴るならともかく、招待状となるとなあ。家の立場が悪くなる」
そして、エミールは渋い顔をする。
招待状が来た以上、答えはひとつしかない。
私は腹をくくり、エミールに向かって言った。
「仕方ないわね。ねえ、エミール。出席すると伝えておいてもらえる?
あと、仕立て屋と宝石商の手配を」
予定外の出費は正直痛い。けれど仕方ない。
エミールは、わかった、と頷きリディアへと駆け寄った。
下宿先のご主人であるハンスさんが手配してくれたフィルの服が届いた。
人ひとりが入るであろう木箱を開けると、服が満載に入っていた。
それを見たフィルは目を輝かせて、その服を手に取る。
「これ、服」
片言で言い、フィルは私の方を見た。
私は彼に微笑みかけて答えた。
「えぇ、貴方用の服よ。貴方が住んでいた国から取り寄せたの」
そんな私の言葉を、リディアが通訳するとフィルは一瞬悲しそうな顔をした。
けれどフィルは首を振り、私の方を見て微笑んで言った。
「ありがとう」
フィルが嬉しいことは私も嬉しい。
フィルは服を引っ張り出して、それを長椅子の上にひろげていく。
結構お金はかかってしまったけれど、当分は大丈夫、かな。
フィルは、今は私より身長が小さいけれど……いずれ成長期を迎えてどんどん背が伸びるだろう。
その辺は人間と同じらしいけれど……どれくらい大きくなるのだろうか?
エミール位になるのかしら?
私、一年もしたら身長をぬかされてしまうかもしれない。
まだあどけないフィルが大人になったらどうなるのだろうか?
大人の獣人を見たことがないので正直想像できなかった。
彼は帰りたいだろうか? 獣人たちの国に。
でも、フィルの両親は亡くなっていると言っていたし……
今のところ、フィルは帰りたいということは一切言わない。
親のいない子供がひとりで生きていけるとも思えないし。
「シュテフィ、ちょっといいか?」
ほぼ毎日屋敷に帰って私のことを両親に報告しているエミールが、戻ってくるなり私を呼んだ。
彼は珍しくまじめな顔をしている。
いったいなんだろうか?
部屋の扉のところで手招きをしているということは、フィルに聞かれたくないのだろうな。
仕方なく私は立ち上がり、彼に歩み寄った。
「どうしたの?」
実家で何かあったのだろうか?
エミールは着ているジャケットの襟もとから手を入れて、懐から一枚の封筒を取り出した。
何、この嫌な予感しかしないものは。
私は眉間にしわを寄せ、その封筒を見た。
「シュテフィ、お前宛てに王子様から招待状が届いた」
「なんですって?」
一昨日はっきりきっぱり断ったのに。
どうして私にこだわるの?
意味わかんない。
私の魔力が目的? それとも別の理由?
ミルカが言っていた、人生予定表のことを思うと絶対に行きたくないのだけれど。
逃げようとしても、予定表からは絶対に逃げられないの?
でもミルカの口ぶりからすると私がやっていることは予定からだいぶずれていることのはずよね。
違うことを始めたから予定表が書き換えられたとか? それはあり得そうだけれど、どうなのだろうか?
「王子様の正式な招待なんて断れないよな、シュテフィ」
ミルカの楽しそうな声が癇に障る。
けれど、ミルカの言うとおり、正式な招待を断るのはさすがに無理だと思う。
これを断ったら父の立場がまずくなるのではと、私でも思う。
「パーティーにこっぴどく振ってやればいい?」
真面目に考えて出した案を口にすると、エミールは苦笑して首を傾げた。
「……いや、さすがにそれについて俺は何とも言えねーよ。お前の両親も正直困惑してるよ。今まであちらがお前に言及してきたことなんて一切なかったのに突然どうしたのかって。探りを入れているらしいけれど……理由はまだわからん」
ギルベルトから声をかけられたことや誘われたことは幾度もあるけれど、相手をしたことはない。
声を掛けられていたのは私だけではないし、女子生徒の大半は彼から誘われたことがある……はず。
「その探りは続けてほしい所だけれど。
ギルベルトの誕生日のパーティーは二か月後……よね」
二か月あればドレスや装飾品の準備は十分できるけれど……乗り気じゃないのでやりたくない。
とはいえ正式な招待状が来てしまったらさすがに断るわけにもいかないしな。
すっごく嫌なんだけれど。
あの口ぶりではあいつ、私を選びかねないじゃないの。
でもそうなったら、妖精が言ってた婚約破棄とかなんだとかになるのよね?
婚約破棄……というか解消?
そんなことするくらいなら最初から私以外を選べばいいのに。
なんでこんなことに。
ギルベルトの目的がさっぱりわからない。
わからないことは不安だし、イラッとする。
「シュテフィ! 着ていい?」
思案していると、フィルが服を持って私に駆け寄ってきて言った。
私は振り返りできるだけ笑顔を作ってフィルを見る。
「えぇ。着てみたいなら私の寝室で着てみていいよ。鏡もあるし。ちゃんと扉は締めてね」
「うん!」
フィルは頷き、服を抱えて私の寝室へと入って行った。
「あぁ、服、届いたんだ。よかったな。あんなに喜ぶなんて」
「えぇ。人用の服はちょっと着にくいみたいだったからよかった。
それで、その招待なんだけれど、さすがに断れないよね」
「打診蹴るならともかく、招待状となるとなあ。家の立場が悪くなる」
そして、エミールは渋い顔をする。
招待状が来た以上、答えはひとつしかない。
私は腹をくくり、エミールに向かって言った。
「仕方ないわね。ねえ、エミール。出席すると伝えておいてもらえる?
あと、仕立て屋と宝石商の手配を」
予定外の出費は正直痛い。けれど仕方ない。
エミールは、わかった、と頷きリディアへと駆け寄った。
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