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26 彼女の事
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臨の手から電気が放たれ、それは化け物――日和ちゃんと思われるものに向かっていく。
化け物はひょい、と左に跳んでそれを避けるとその背中から黒い手が伸びていった。
「臨!」
その手の先端は尖っていて、もしあれで刺されたら……嫌な想像が僕の頭に浮かぶ。
黒い手は臨へとまっすぐに伸びていくが、臨はそれを後ろに跳んで避けた。
なんなんだあの化け物……黒いあの手は、日和ちゃんに憑りついているやつの仕業なんだろうか?
化け物は虚ろな目でこちらを見つめそして、一点を見て固まった。
その視線の先にいたのは、驚きの顔で地面に座り込んでいる初芝さんだった。
化け物の表情に動揺が見えたとき、臨の手から電撃が放たれる。
その電撃を黒い手で弾くと、化け物はくるり、とこちらに背を向けひょい、と跳ねて森の中へと姿を消してしまう。
なんだ今の。
初芝さんを見て明らかに様子が変わった。
臨がその後を追おうとしてなのか走り出す。
「おい、臨!」
声をかけると、臨は笑顔で振りかえり言った。
「ちょっと追いかけてくる」
「ちょっとって……おい、あぶねえだろ!」
そう僕が叫ぶと、臨は一瞬目を見開いた後また笑顔になり首を振った。
「大丈夫だよ俺は」
と言い、森の中に消えてしまった。
大丈夫、だろうか?
だめだ、不安が心を埋めていく。
あの黒い手が抉った地面には大きな穴が開いている。
こんなの喰らったら確実に死ぬじゃねえか。
でもだからって僕は臨を追いかけることができなかった。
僕は戦う力なんてない。
足手まといになるしかない。
それは充分わかっているから。
僕はリモを抱きしめたまま地面に座り込んでいる初芝さんに駆け寄りその場に膝をついた。。
「あの……大丈夫ですか」
そう声をかけると、彼は悲しげな眼で僕を見る。
「今のはいったい……」
「えーと……リモが言うには彼女は何かに憑りつかれているんじゃないかと。だからあんな姿になったんじゃないかって」
「憑りつかれてる……?」
呆然と呟き、彼は首を横に振る。
「いったい何が……」
それは僕も知りたいけれど、答えなんて出ないだろう。
いったい彼女に何があって憑りつかれたのか。
「なあリモは何かわかんねーの?」
腕の中にいるリモに問いかけるが、狸は首を傾げる。
「さあ……妖怪が別の妖怪に憑りつかれるってないわけはないですけど……そうなるとよほど強い妖怪ってなるかと。でも日和ちゃんは野狐だし、狐の妖怪としては下っ端ですからね。怒るとめちゃくちゃ怖いけど」
と言い、ぶるり、と震える。
「あの、この子は今なんて言ったんですか?」
そう問われ、僕は彼に話していいのか悩んだ。
初芝さんが捜している日和ちゃんは人じゃないこと。
そして今、何かに憑りつかれていること。
……話していいんだろうか?
たぶんこの話は、初芝さんの人生を左右してしまうだろう。
そう思うと話していいのかわからなくなる。
悩んでいると、初芝さんの手が僕の腕を掴んだ。
彼はまっすぐに僕を見つめて言った。
「お願いします。何が起きているのか教えてください。今見たものから何が起きているのか、知るのは怖いですが覚悟はできますから」
まっすぐに僕を見つめる目に、迷いは感じなかった。
それでも僕の中には迷いがある。
愛した相手が人じゃない、ってショックじゃないだろうか。
それを知って、この人はどうするだろう……
そうか、僕は記憶を消せるじゃないか。
辛い記憶や哀しい記憶だけだけど。
もし彼が望むなら、僕は日和ちゃんに関する記憶を消すことができるじゃないか。
僕は意を決し、話すことにした。
「日和さんは……この狸の友達で貴方がご飯をあげていた狐なんです。それで貴方に恩返しをしたいと人の姿になって会いに行っていたみたいで。理由はわからないけど、今、彼女はなにか別のモノに憑りつかれているみたいなんです。それがなんなのかはわからないけど、あの黒い手はたぶんその憑りついているやつのせいだと思います」
僕が一気に言うと、初芝さんは目を伏せてしまう。
「そうですか……」
……本当に言ってよかったんだろうか。真実を知ることが必ずしも幸せとは限らないだろうに。
初芝さんは首を横に振り、顔を上げて笑顔で言った。
「ありがとう、話してくれて。それで、彼女を救う方法ってないのかな」
救う、方法……?
思いもよらない言葉に、今度は僕が動揺してしまう。
彼は日和ちゃんが妖怪であっても受け入れるつもりなのかよ?
「え……と、それって……」
戸惑い言うと、彼は言った。
「彼女が妖怪でも、それでも僕はまた日和さんに会いたいと思うし、どうにかして救いたいんだ。君たちみたいに力はないけど」
彼は妖怪である彼女を受け入れるって言うのか?
僕には理解できないけれど、そう思えるだけの関係がふたりの間にあるんだろうか。
記憶が消せる話をしようと思っていたけど、やめておこう。
今はとにかく、日和ちゃんを救う方法を探さねえと。
化け物はひょい、と左に跳んでそれを避けるとその背中から黒い手が伸びていった。
「臨!」
その手の先端は尖っていて、もしあれで刺されたら……嫌な想像が僕の頭に浮かぶ。
黒い手は臨へとまっすぐに伸びていくが、臨はそれを後ろに跳んで避けた。
なんなんだあの化け物……黒いあの手は、日和ちゃんに憑りついているやつの仕業なんだろうか?
化け物は虚ろな目でこちらを見つめそして、一点を見て固まった。
その視線の先にいたのは、驚きの顔で地面に座り込んでいる初芝さんだった。
化け物の表情に動揺が見えたとき、臨の手から電撃が放たれる。
その電撃を黒い手で弾くと、化け物はくるり、とこちらに背を向けひょい、と跳ねて森の中へと姿を消してしまう。
なんだ今の。
初芝さんを見て明らかに様子が変わった。
臨がその後を追おうとしてなのか走り出す。
「おい、臨!」
声をかけると、臨は笑顔で振りかえり言った。
「ちょっと追いかけてくる」
「ちょっとって……おい、あぶねえだろ!」
そう僕が叫ぶと、臨は一瞬目を見開いた後また笑顔になり首を振った。
「大丈夫だよ俺は」
と言い、森の中に消えてしまった。
大丈夫、だろうか?
だめだ、不安が心を埋めていく。
あの黒い手が抉った地面には大きな穴が開いている。
こんなの喰らったら確実に死ぬじゃねえか。
でもだからって僕は臨を追いかけることができなかった。
僕は戦う力なんてない。
足手まといになるしかない。
それは充分わかっているから。
僕はリモを抱きしめたまま地面に座り込んでいる初芝さんに駆け寄りその場に膝をついた。。
「あの……大丈夫ですか」
そう声をかけると、彼は悲しげな眼で僕を見る。
「今のはいったい……」
「えーと……リモが言うには彼女は何かに憑りつかれているんじゃないかと。だからあんな姿になったんじゃないかって」
「憑りつかれてる……?」
呆然と呟き、彼は首を横に振る。
「いったい何が……」
それは僕も知りたいけれど、答えなんて出ないだろう。
いったい彼女に何があって憑りつかれたのか。
「なあリモは何かわかんねーの?」
腕の中にいるリモに問いかけるが、狸は首を傾げる。
「さあ……妖怪が別の妖怪に憑りつかれるってないわけはないですけど……そうなるとよほど強い妖怪ってなるかと。でも日和ちゃんは野狐だし、狐の妖怪としては下っ端ですからね。怒るとめちゃくちゃ怖いけど」
と言い、ぶるり、と震える。
「あの、この子は今なんて言ったんですか?」
そう問われ、僕は彼に話していいのか悩んだ。
初芝さんが捜している日和ちゃんは人じゃないこと。
そして今、何かに憑りつかれていること。
……話していいんだろうか?
たぶんこの話は、初芝さんの人生を左右してしまうだろう。
そう思うと話していいのかわからなくなる。
悩んでいると、初芝さんの手が僕の腕を掴んだ。
彼はまっすぐに僕を見つめて言った。
「お願いします。何が起きているのか教えてください。今見たものから何が起きているのか、知るのは怖いですが覚悟はできますから」
まっすぐに僕を見つめる目に、迷いは感じなかった。
それでも僕の中には迷いがある。
愛した相手が人じゃない、ってショックじゃないだろうか。
それを知って、この人はどうするだろう……
そうか、僕は記憶を消せるじゃないか。
辛い記憶や哀しい記憶だけだけど。
もし彼が望むなら、僕は日和ちゃんに関する記憶を消すことができるじゃないか。
僕は意を決し、話すことにした。
「日和さんは……この狸の友達で貴方がご飯をあげていた狐なんです。それで貴方に恩返しをしたいと人の姿になって会いに行っていたみたいで。理由はわからないけど、今、彼女はなにか別のモノに憑りつかれているみたいなんです。それがなんなのかはわからないけど、あの黒い手はたぶんその憑りついているやつのせいだと思います」
僕が一気に言うと、初芝さんは目を伏せてしまう。
「そうですか……」
……本当に言ってよかったんだろうか。真実を知ることが必ずしも幸せとは限らないだろうに。
初芝さんは首を横に振り、顔を上げて笑顔で言った。
「ありがとう、話してくれて。それで、彼女を救う方法ってないのかな」
救う、方法……?
思いもよらない言葉に、今度は僕が動揺してしまう。
彼は日和ちゃんが妖怪であっても受け入れるつもりなのかよ?
「え……と、それって……」
戸惑い言うと、彼は言った。
「彼女が妖怪でも、それでも僕はまた日和さんに会いたいと思うし、どうにかして救いたいんだ。君たちみたいに力はないけど」
彼は妖怪である彼女を受け入れるって言うのか?
僕には理解できないけれど、そう思えるだけの関係がふたりの間にあるんだろうか。
記憶が消せる話をしようと思っていたけど、やめておこう。
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