23 / 39
23 報告
しおりを挟む
臨は僕に温かいほうじ茶を買ってきてくれた。
僕は身体を起こしてベッドに腰掛け、ペットボトルを受け取りそのふたを開けた。
「ありがとう臨」
「真梨香さんが報告聞きたいって言っていたけど、大丈夫?」
そういえばそんなメッセージを貰っていたっけ。
猫惨殺事件の途中経過を聞きたいって。
正直大したことはわかっていないけど、でも報告しないわけにはいかないもんな。
「僕は大丈夫だよ」
お茶を飲み、僕は臨にそう答えた。
すると臨の手が僕の頭に触れる。
「顔色よくないけど、ほんとに?」
と、珍しく心配そうな声音で言った。
どうしたんだこいつ。
こんなに僕のことを心配するような奴だっけ。
手は離れていき、僕は顔を上げて臨を見つめて答える。
「大丈夫だっての。僕がこうなるのはいつもの事だろ」
「そうだけど今日はいつもと感じが違ったから。いつもより辛い記憶を吸い上げたのかと思って」
確かにそうだ。僕が見た記憶はいつもと違っていた。
自分に関係した人の記憶を吸い上げたのは初めての事だ。いいや、そもそもこの吸い上げた記憶があの幽霊と関係あるのか、その証明はできないけれど僕の心は揺れ動いている。
吸い上げた記憶は忘れる。
だけど吸い上げた記憶に対して僕が抱いた想いは僕の記憶として刻まれるから、忘れるのは難しい。
だから僕は今回吸い上げた記憶を完全に忘れ去ることはできないだろう。
あの人の悲しみや苦しみを僕は折に触れて思い出してしまうかもしれない。
それは僕にとって恐怖だった。
忘れるはずの記憶を覚え続けたとしていいことなんてないのに。
僕はぎゅっと、お茶のペットボトルを握りしめた。
しばらくして、仮眠室に白衣姿の真梨香さんが現れた。
真梨香さんは狸を抱えてベッドに座る僕を見つめ、何度も瞬きを繰り返した。
「……狸?」
「狸だけど害はないですよ」
言いながら僕はリモをぎゅっと抱きしめた。
真梨香さんはリモを見つめた後僕の顔を見て、
「……ここから出さないでね」
とだけ言い、床に座った。
「で、わかっている事、教えてくれる? とりあえず今の所大学構内で変わったことは起きていないんだけど」
僕たちは真梨香さんに今わかっていることを報告した。
他にも目撃者がいたこと、他にも不思議な生き物……あやかしがいる事、事件は人の仕業ではないことなどを報告した。
正直荒唐無稽な話だけど、真梨香さんは僕らの話を黙って聞いていた。
僕たちの報告を聞いた後、真梨香さんは腕を組み僕が抱えるリモを見つめた。
「……じゃあその子、普通の狸じゃないってこと?」
「えぇ……まあ、僕らには少なくともリモが喋っているように聞こえるんですよね」
僕が言うと真梨香さんはリモに近づきじっとその顔を見つめた。
するとリモは頬に両手を当てて、
「おお! 女の人に見つめられると恥ずかしいですね」
と言う。
真梨香さんは僕の顔と臨の顔を見た後、不思議そうな顔をする。
「……何か言ってるみたいだけど、ふたりには声が聞こえるって事なの?」
「恥ずかしがってますね」
僕が言うと真梨香さんはしばらく黙り込んだあと、首を傾げた。
「ふたりとも不思議の塊だけど、そこまで不思議だとは思わなかったわ」
それはそうだろうな。僕だってなんでリモと会話できるのかわからないんだから。
「じゃあ満月の夜になれば、犯人に出会えるかもしれないって事?」
「そう、だと思いますけど、でもどこで出会えるのかがわかんなくて」
問題はそこなんだよな。
目撃情報があるのがこの大学構内と近くの路上だし。
日にちがわかっても時間も場所もわからない。
それを絞るためにはもう少し情報が必要だ。
「とりあえずヒトウバンに確認に行くのと……紫音はあのマスターに会いに行くの?」
ベッドに背を預けた臨が僕を見上げて言った。
リモと狐の日和ちゃんを捜す約束をしているし、もしかしたらこの事件と関わりあるかもしれないしな。
「うん。そのつもりだけど」
「とりあえず、紫音が落ち着いたら山に行ってみよう」
臨はきっとヒトウバンに会いたくて仕方ないんだろうな。
声が超弾んでる。
「ねえふたりとも」
真梨香さんの声に不安の色が見える。
僕と臨は同時に彼女の方を見ると、真梨香さんは心配げな顔をして言った。
「頼んでおいてあれなんだけど、ふたりとも無茶はしないでね」
無茶なんてするわけがない。
僕には何もできないし、するとしたら臨のほうだろう。
僕が思わず臨の方を見ると、彼と視線が絡む。
「俺が無茶なことするわけないじゃないでしょ」
「僕が無茶なことなんてできるわけがねえよ」
「そうかな。そうやっていつも辛い思いをして力使ってるのに?」
「それは忘れるからいいんだよ。お前なんか好奇心強すぎて後先考えずに行動するじゃねえか」
「傍から見たらどっちもどっちよ」
呆れたような声で言ったあと、真梨香さんは真剣な顔になる。
「命だけは大事にしてね。特に臨君」
言いながら真梨香さんは臨を指差す。
「え、俺?」
「貴方、危なっかしいのよ。刹那的だし、思いつきで行動するから」
「刹那的ていうのは否定しませんけど、そんなに危ないですか?」
おどけた様子で答える臨に対して、真梨香さんは真面目な顔で頷いた。
「罠だとわかってても突っ込んでいきそうなんだもの」
あー、そこまで馬鹿じゃないだろうけど否定もできないかもな。
臨は大丈夫と答えてるけど、幽霊やヒトウバンに会いに行くと言い出したの、臨だからな……
「危険なことはしないですよ。とりあえず俺たちはこの騒動の決着、ちゃんとつけますから」
「おいらもお役に立てると思いますよ!」
リモが張り切った声で言うが、真梨香さんには伝わらない。
真梨香さんはリモを見つめて、
「何言ってるのかわからないけど、嬉しそうなのはわかる」
と呟く。
「また何かわかったら教えなさい。次の満月の日、私も付き合うから」
真剣な声音で言いながら真梨香さんは、リモを抱きしめる僕の腕をがしり、と掴んだ。
僕は身体を起こしてベッドに腰掛け、ペットボトルを受け取りそのふたを開けた。
「ありがとう臨」
「真梨香さんが報告聞きたいって言っていたけど、大丈夫?」
そういえばそんなメッセージを貰っていたっけ。
猫惨殺事件の途中経過を聞きたいって。
正直大したことはわかっていないけど、でも報告しないわけにはいかないもんな。
「僕は大丈夫だよ」
お茶を飲み、僕は臨にそう答えた。
すると臨の手が僕の頭に触れる。
「顔色よくないけど、ほんとに?」
と、珍しく心配そうな声音で言った。
どうしたんだこいつ。
こんなに僕のことを心配するような奴だっけ。
手は離れていき、僕は顔を上げて臨を見つめて答える。
「大丈夫だっての。僕がこうなるのはいつもの事だろ」
「そうだけど今日はいつもと感じが違ったから。いつもより辛い記憶を吸い上げたのかと思って」
確かにそうだ。僕が見た記憶はいつもと違っていた。
自分に関係した人の記憶を吸い上げたのは初めての事だ。いいや、そもそもこの吸い上げた記憶があの幽霊と関係あるのか、その証明はできないけれど僕の心は揺れ動いている。
吸い上げた記憶は忘れる。
だけど吸い上げた記憶に対して僕が抱いた想いは僕の記憶として刻まれるから、忘れるのは難しい。
だから僕は今回吸い上げた記憶を完全に忘れ去ることはできないだろう。
あの人の悲しみや苦しみを僕は折に触れて思い出してしまうかもしれない。
それは僕にとって恐怖だった。
忘れるはずの記憶を覚え続けたとしていいことなんてないのに。
僕はぎゅっと、お茶のペットボトルを握りしめた。
しばらくして、仮眠室に白衣姿の真梨香さんが現れた。
真梨香さんは狸を抱えてベッドに座る僕を見つめ、何度も瞬きを繰り返した。
「……狸?」
「狸だけど害はないですよ」
言いながら僕はリモをぎゅっと抱きしめた。
真梨香さんはリモを見つめた後僕の顔を見て、
「……ここから出さないでね」
とだけ言い、床に座った。
「で、わかっている事、教えてくれる? とりあえず今の所大学構内で変わったことは起きていないんだけど」
僕たちは真梨香さんに今わかっていることを報告した。
他にも目撃者がいたこと、他にも不思議な生き物……あやかしがいる事、事件は人の仕業ではないことなどを報告した。
正直荒唐無稽な話だけど、真梨香さんは僕らの話を黙って聞いていた。
僕たちの報告を聞いた後、真梨香さんは腕を組み僕が抱えるリモを見つめた。
「……じゃあその子、普通の狸じゃないってこと?」
「えぇ……まあ、僕らには少なくともリモが喋っているように聞こえるんですよね」
僕が言うと真梨香さんはリモに近づきじっとその顔を見つめた。
するとリモは頬に両手を当てて、
「おお! 女の人に見つめられると恥ずかしいですね」
と言う。
真梨香さんは僕の顔と臨の顔を見た後、不思議そうな顔をする。
「……何か言ってるみたいだけど、ふたりには声が聞こえるって事なの?」
「恥ずかしがってますね」
僕が言うと真梨香さんはしばらく黙り込んだあと、首を傾げた。
「ふたりとも不思議の塊だけど、そこまで不思議だとは思わなかったわ」
それはそうだろうな。僕だってなんでリモと会話できるのかわからないんだから。
「じゃあ満月の夜になれば、犯人に出会えるかもしれないって事?」
「そう、だと思いますけど、でもどこで出会えるのかがわかんなくて」
問題はそこなんだよな。
目撃情報があるのがこの大学構内と近くの路上だし。
日にちがわかっても時間も場所もわからない。
それを絞るためにはもう少し情報が必要だ。
「とりあえずヒトウバンに確認に行くのと……紫音はあのマスターに会いに行くの?」
ベッドに背を預けた臨が僕を見上げて言った。
リモと狐の日和ちゃんを捜す約束をしているし、もしかしたらこの事件と関わりあるかもしれないしな。
「うん。そのつもりだけど」
「とりあえず、紫音が落ち着いたら山に行ってみよう」
臨はきっとヒトウバンに会いたくて仕方ないんだろうな。
声が超弾んでる。
「ねえふたりとも」
真梨香さんの声に不安の色が見える。
僕と臨は同時に彼女の方を見ると、真梨香さんは心配げな顔をして言った。
「頼んでおいてあれなんだけど、ふたりとも無茶はしないでね」
無茶なんてするわけがない。
僕には何もできないし、するとしたら臨のほうだろう。
僕が思わず臨の方を見ると、彼と視線が絡む。
「俺が無茶なことするわけないじゃないでしょ」
「僕が無茶なことなんてできるわけがねえよ」
「そうかな。そうやっていつも辛い思いをして力使ってるのに?」
「それは忘れるからいいんだよ。お前なんか好奇心強すぎて後先考えずに行動するじゃねえか」
「傍から見たらどっちもどっちよ」
呆れたような声で言ったあと、真梨香さんは真剣な顔になる。
「命だけは大事にしてね。特に臨君」
言いながら真梨香さんは臨を指差す。
「え、俺?」
「貴方、危なっかしいのよ。刹那的だし、思いつきで行動するから」
「刹那的ていうのは否定しませんけど、そんなに危ないですか?」
おどけた様子で答える臨に対して、真梨香さんは真面目な顔で頷いた。
「罠だとわかってても突っ込んでいきそうなんだもの」
あー、そこまで馬鹿じゃないだろうけど否定もできないかもな。
臨は大丈夫と答えてるけど、幽霊やヒトウバンに会いに行くと言い出したの、臨だからな……
「危険なことはしないですよ。とりあえず俺たちはこの騒動の決着、ちゃんとつけますから」
「おいらもお役に立てると思いますよ!」
リモが張り切った声で言うが、真梨香さんには伝わらない。
真梨香さんはリモを見つめて、
「何言ってるのかわからないけど、嬉しそうなのはわかる」
と呟く。
「また何かわかったら教えなさい。次の満月の日、私も付き合うから」
真剣な声音で言いながら真梨香さんは、リモを抱きしめる僕の腕をがしり、と掴んだ。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる