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第22話 置いてきた給食袋
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T先生と別れると、「あっ、給食袋、教室に忘れてきた。取りに行ってくる」と言い残してランドセルを背負いながらぼくは西階段を降りて1階の教務室に戻るT先生や東玄関に向かう合唱部の部員の子たちと反対に、東階段を駆け上がり、階段のすぐ近くの3階の6年2組の教室に行った。
本当は放課後の部活動や児童会の活動では、どの部でも帰りは児童が階段を上って自分の教室に寄るようなことをしないために、ランドセルのような下校時の持ち物の部活に持ってくるのが穴実小のきまりだった。おきゅう部や水泳部のような運動部の子たちは体育館にその手の下校時の持ち物を置き、決して階段を上がることはなかった。むしろ音楽教室にような2階で練習している合唱部が特別だった。
でも、ふだんから忘れ物が多いぼくは、これまでも誰もいなくなったまっくらな3階の6年2組に給食袋のような家に持ち帰るものを取りに戻ることは珍しくなかった。だからぼくが東階段に上がることを気に留める子は誰もいなかった。それでぼくは合唱部の子たちと別れて東階段を駆け上がり、3階に上がった。
そして、ぼくはまっくらな6年2組の教室に入り、明かりをつけた。誰もいない教室のぼくの机の上には練習に行った時のまま、名前が書かれた給食袋が置かれていた。ぼくはどうするか迷った。
もううんこはおしりの口の中いっぱいではみ出しそうで、歩いて20分以上かかる家までガマンすることは無理だった。
本来、みんなの学校だから学校の便所でうんこするべきではなかったけど、本当にもらしそうになって仕方なくするときは、正しい6年生ならば6年2組の前で東階段の並びにある3階東の男子児童便所でするの穴実小のきまりだった。
3階には誰もいないので、昼間みたいに教室のそばの便所でうんこしてもだれかにからかわれたり、のぞかれたりする心配はなかったし、給食袋を持ったまま教室を出て、入るときは便所の前に置いておけば、終わった後そのまま西階段を降りて玄関に向かえばよく教室に戻る必要はなかった。
しかし、ぼくが本当にうんこしたかったしたかったのはやはり1階西のほうだった。
もちろん5限で終わる1年生の子たちはみんな3時前にはもう下校していて、今、1階西の男子児童便所に行って彼らがうんこしているところがのぞけるわけでなかった。それどころか明日からは午後からの授業がなくなり、そのままぼくは穴実小を卒業して小学生でなくなるので、その機会はぼくにはもう永遠に失われていた。
ただ、ぼくがのぞいたあの子たちみたいに、そこのオンナベンジョに入っておしりを出してしゃがんでうんこをすれば、ぼく自身もあの子たちと同じように気持ちよくなれるかもしなかった。その機会でさえ、ぼくには放課後の誰もいない学校にいることができる今しかなかった
でも、本来、勉強するところの学校で、6年2組の教室から、教室のすぐ前の3階東の男子児童便所をはじめ男子児童便所はいくつもあるのに1階西のそれににわざわざ行ってうんこするような気持ちいいことをするのは、あの子たちのうんこするところをのぞいたときと同じくらい悪いことだった。もしかすると、おまわりさんにタイホされるかもしれなかった。だから、ぼくは誰にも見つからないように6年2組の教室から3階の廊下を通ってそのまま西の階段に向かった。
給食袋を取りに来たはずだけど、1階西の男子児童便所まで持っていくのはめんどうだったので終わったらまた教室に取りに来ようと思って、そのまま教室を出た。
3階には、もう日が沈んでまっくらになったけど、6年生・5年生の教室や東側の奥の図書室、西側の奥の視聴覚室や図工室に明かりのついている部屋は一つもなく、誰かが居残っている感じもなかった。廊下の向こうまでいくつか見える非常口を示す緑の矢印や火災報知器の赤い電球だけがあかあかとついていた。
まだ先生方が教務室にいる1階や、まだ合唱部の子に音楽教室に残っていた2階と違って、みんなが下校した6年2組などの6年生5年生の教室の他にも、東のいちばん奥の図書室やあるいは反対の西の奥の図工教室など、どちらを向いても本当に誰もいそうもない部屋ばかりだった。
グラウンドに面した窓を見ると、とくに夏の地区大会の直前ならば、日が長いことに加えて7時を過ぎてもグラウンドの大きな照明があかあかとついていて、おきゅう部の子たちが練習するのがはっきり見えたけど、グラウンドの向こうは人家が無くて田んぼだけだったので、今はわずかに融け残った汚い雪の白いのが見えるほかは誰もいなかったし何もなかった。
歩いているぼくの心の中ではもうおしりを出して1階西の男子児童便所のオンナベンジョ便器の上にどっぷりとしゃがんでおしりの口をひらくことばかり考えて歩いていた。このまま足が進んでそこに着けばそれ以上ガマンすることなく確実にうんこだった。
誰もいない学校の廊下をそんな自分がラクになることだけ考えながら一人で歩いていると、自分が何か悪いことをしているという後ろめたさがどうしても離れなかった。でも、その分うんこを出すとき気持ちよくなりそうな変な気分がしてぼくはドキドキした。
そして、ぼくは西の階段にたどり着き、それを降りた。途中の2階で一番奥の音楽教室まで3階と同じようにどこも明かりはついてなくてまっくらだった。もう合唱部の子たちも音楽教室を全員出たのだろう。ぼくはそのまま1階まで下りた。
もちろん階段手前の1階西の男子児童便所もまっくらだった。まさかまっくらな中でうんこするわけにはいかないので、ぼくは入口の前にあったスィッチで電気をつけた。するとの二本の蛍光灯がパッとついて、左の方の小便器と右側のぼくの入ろうとしているオンナベンジョが照らし出された。外から見たら、今、穴実小学校の鉄筋コンクリート3階建ての校舎の中で明かりがいるのは確実に教務室とここだけだった。
(続く)
本当は放課後の部活動や児童会の活動では、どの部でも帰りは児童が階段を上って自分の教室に寄るようなことをしないために、ランドセルのような下校時の持ち物の部活に持ってくるのが穴実小のきまりだった。おきゅう部や水泳部のような運動部の子たちは体育館にその手の下校時の持ち物を置き、決して階段を上がることはなかった。むしろ音楽教室にような2階で練習している合唱部が特別だった。
でも、ふだんから忘れ物が多いぼくは、これまでも誰もいなくなったまっくらな3階の6年2組に給食袋のような家に持ち帰るものを取りに戻ることは珍しくなかった。だからぼくが東階段に上がることを気に留める子は誰もいなかった。それでぼくは合唱部の子たちと別れて東階段を駆け上がり、3階に上がった。
そして、ぼくはまっくらな6年2組の教室に入り、明かりをつけた。誰もいない教室のぼくの机の上には練習に行った時のまま、名前が書かれた給食袋が置かれていた。ぼくはどうするか迷った。
もううんこはおしりの口の中いっぱいではみ出しそうで、歩いて20分以上かかる家までガマンすることは無理だった。
本来、みんなの学校だから学校の便所でうんこするべきではなかったけど、本当にもらしそうになって仕方なくするときは、正しい6年生ならば6年2組の前で東階段の並びにある3階東の男子児童便所でするの穴実小のきまりだった。
3階には誰もいないので、昼間みたいに教室のそばの便所でうんこしてもだれかにからかわれたり、のぞかれたりする心配はなかったし、給食袋を持ったまま教室を出て、入るときは便所の前に置いておけば、終わった後そのまま西階段を降りて玄関に向かえばよく教室に戻る必要はなかった。
しかし、ぼくが本当にうんこしたかったしたかったのはやはり1階西のほうだった。
もちろん5限で終わる1年生の子たちはみんな3時前にはもう下校していて、今、1階西の男子児童便所に行って彼らがうんこしているところがのぞけるわけでなかった。それどころか明日からは午後からの授業がなくなり、そのままぼくは穴実小を卒業して小学生でなくなるので、その機会はぼくにはもう永遠に失われていた。
ただ、ぼくがのぞいたあの子たちみたいに、そこのオンナベンジョに入っておしりを出してしゃがんでうんこをすれば、ぼく自身もあの子たちと同じように気持ちよくなれるかもしなかった。その機会でさえ、ぼくには放課後の誰もいない学校にいることができる今しかなかった
でも、本来、勉強するところの学校で、6年2組の教室から、教室のすぐ前の3階東の男子児童便所をはじめ男子児童便所はいくつもあるのに1階西のそれににわざわざ行ってうんこするような気持ちいいことをするのは、あの子たちのうんこするところをのぞいたときと同じくらい悪いことだった。もしかすると、おまわりさんにタイホされるかもしれなかった。だから、ぼくは誰にも見つからないように6年2組の教室から3階の廊下を通ってそのまま西の階段に向かった。
給食袋を取りに来たはずだけど、1階西の男子児童便所まで持っていくのはめんどうだったので終わったらまた教室に取りに来ようと思って、そのまま教室を出た。
3階には、もう日が沈んでまっくらになったけど、6年生・5年生の教室や東側の奥の図書室、西側の奥の視聴覚室や図工室に明かりのついている部屋は一つもなく、誰かが居残っている感じもなかった。廊下の向こうまでいくつか見える非常口を示す緑の矢印や火災報知器の赤い電球だけがあかあかとついていた。
まだ先生方が教務室にいる1階や、まだ合唱部の子に音楽教室に残っていた2階と違って、みんなが下校した6年2組などの6年生5年生の教室の他にも、東のいちばん奥の図書室やあるいは反対の西の奥の図工教室など、どちらを向いても本当に誰もいそうもない部屋ばかりだった。
グラウンドに面した窓を見ると、とくに夏の地区大会の直前ならば、日が長いことに加えて7時を過ぎてもグラウンドの大きな照明があかあかとついていて、おきゅう部の子たちが練習するのがはっきり見えたけど、グラウンドの向こうは人家が無くて田んぼだけだったので、今はわずかに融け残った汚い雪の白いのが見えるほかは誰もいなかったし何もなかった。
歩いているぼくの心の中ではもうおしりを出して1階西の男子児童便所のオンナベンジョ便器の上にどっぷりとしゃがんでおしりの口をひらくことばかり考えて歩いていた。このまま足が進んでそこに着けばそれ以上ガマンすることなく確実にうんこだった。
誰もいない学校の廊下をそんな自分がラクになることだけ考えながら一人で歩いていると、自分が何か悪いことをしているという後ろめたさがどうしても離れなかった。でも、その分うんこを出すとき気持ちよくなりそうな変な気分がしてぼくはドキドキした。
そして、ぼくは西の階段にたどり着き、それを降りた。途中の2階で一番奥の音楽教室まで3階と同じようにどこも明かりはついてなくてまっくらだった。もう合唱部の子たちも音楽教室を全員出たのだろう。ぼくはそのまま1階まで下りた。
もちろん階段手前の1階西の男子児童便所もまっくらだった。まさかまっくらな中でうんこするわけにはいかないので、ぼくは入口の前にあったスィッチで電気をつけた。するとの二本の蛍光灯がパッとついて、左の方の小便器と右側のぼくの入ろうとしているオンナベンジョが照らし出された。外から見たら、今、穴実小学校の鉄筋コンクリート3階建ての校舎の中で明かりがいるのは確実に教務室とここだけだった。
(続く)
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