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第7話
しおりを挟む街と山の境界から、さらに少し山側に進んだあたり。
獣道よりも少しマシな程度の道があり、その先に小さな小屋がある。
木々に隠れており、あらかじめ小屋の存在を知っている人間でないと、見つけるのは難しいだろう。
そこが、この周辺を縄張りにしている盗賊たちのアジトだった。
この場合、盗賊というのは、泥棒だけをする存在ではない。
追い剥ぎ、殺人、人さらい、なんでもやる。
食い詰め者たちの総称である。
自主的に悪事を働くこともあるし、金を積まれれば依頼も受ける。
ただし、ここに集まるような奴らはあくまでもただのならず者達である。
組織立ったギルドというわけではないし、彼ら同士のつながりも薄い。
仕事の質も低いし、秘密を守ることも期待できない。
事実、しょっちゅう逮捕者が出ている。
この小屋は、そういったどうしようもないごろつきたちの詰所のような使われ方をしている。
小屋ごと潰されないのは、ごくまれに貴族や大商人がちょっとした汚れ仕事を任せることがあるからだ。
使い捨てにできる雑用係として、利用価値を認められているのだ。
僕も貴族だったころ、裏の仕事の依頼先としてこの詰所の存在は聞いたことがあった。
もちろん依頼したことはないが。
「さて……」
木々の陰から様子を伺う。
さすがに無警戒ではない。
見張りと思しき男が二人、ドアの前に立っている。
いや、小屋の向こう側にも人の気配がする。三人が見張りに立っているようだ。
周囲の森には鳴子も仕掛けてあった。
ちょうど足が引っかかりやすい高さに紐を張り、その紐に木の板や鈴等をぶら下げてあるのだ。
何も知らない者がその紐に足を引っ掛けると、木の板や鈴が揺れて大きな音が鳴り、その存在を知らせるという仕掛けだ。
僕はその鳴子を外しながら、慎重に小屋に近づいていく。
テラはいない。
あの地下施設から、あまり離れられないのだそうだ。
それが心理的なものなのか、それとも実際に何かの制限がかかっているのかはわからないが、僕も無理を言ってまで着いてきて欲しいわけではない。
危ない目に合わせたくないというのもあるが、実はまだ、少し女性不信が残っているのだ。
最愛の妻に裏切られてからというもの、自分でも良くないとわかってはいてもやはり心から女性を信じることができない。
命を預け合う戦いの場に、共に来るというのはどうも気乗りがしなかった。
良くないことだと、頭ではわかっているのだが。
木の陰に隠れながら、迂回して小屋の向こう側に回る。
油断しているのか、一人でいた見張りはやすやすと背後をとらせてくれた。
「ぐっ……、か……」
後ろから首を絞めて、すみやかに意識を失わせる。
力を失った体を、なるべく静かに横たえる。
一人やっつけて、改めて実感した。
自分の体調が、これまでの人生で最高と言ってもいいくらい良い。
テラの用意してくれた食事や治療のおかげだろう。
他の二人は小屋の反対側にいるので、見張りが一人減ったことにはまだ気づいていない様子だ。
これで有利なポジションが取れる。
僕は音をたてないように移動し、二人の見張りが見える位置へと移動した。
二人は、門番のように小屋の入口近くに立っている。
僕は足元の雪を集めて、以前と同じように左腕の義手で氷塊を作り上げた。
同じ大きさの氷塊を2つ用意して、二人の門番に連続で投げつける。
今回はテラのサポートが無いが、距離が近いせいか2発ともそれぞれ顔面に直撃させることができた。
物も言わず、倒れ込む二人。
倒れる音がしないようにその体を受け止めようと駆け寄る。
しかし、片方の体を受け止めるのに精一杯で、もう一人の体を受け止めるのは間に合わなかった。
どさり、とかなり大きな音がする。
その音は小屋の中にまで聞こえてしまったらしい。
「なんだ?おい、どうした?」
小屋の中から声をかけてくる。
仕方がない。僕はドアのすぐ横に張り付いて息を潜めた。
「おい。何かあったのか?……ちっ、なんだってんだ……」
ぼやく声とともに、ドアが開く。
僕は素早くその隙間に左手を差し込み、ドアノブを持っている相手の腕を掴んだ。
そして義手の力で外にひっぱり出す。
「うおっ!なん……」
まろび出てきた男のうなじを、抜き放った剣で斬りつける。
男はわけも分からぬまま絶命した。
小屋の中がどんな状況が分かってから突入したかったが、やむを得まい。
ここは賭けだ。
僕は開いたドアから小屋の中に踏み入った。
「なんだ、てめえ!」
中にいるのは、三人の男だった。
すでに全員が武器を手に取っている。
うち二人が立ち上がり、一人は椅子に座ったままこちらを睨みつけている。
座っている大男が口を開いた。
「おう、ヘンリー閣下じゃねえか。逃げ回っていたくせに、そっちからノコノコ出向いてくれるとはな。左手をやったと聞いたが、間違いだったか?」
どうやら、座っている大男がボスのようだ。
僕はこの男の顔を知らないが、向こうは僕の顔を知っているようだ。
遠くから見たか、手配書でも配られたのだろう。
「カシラ、やっちまっていいんだな?」
「おう、生死は問わねえとの依頼だ。ぶっ殺しちまえ」
ボスが命令すると、二人のならず者たちが襲いかかってきた。
「バカめ!」
叫びながら、一人が斬りつけてくる。
僕はそれをかわし、無防備な相手の顔面を斬りつけた。
もう一人が、僕の胴体を狙って剣を薙いでくる。
それを剣の腹で受けとめる。
同時に、相手の足を踏み、顔を殴りつけた。
踏んでいた足を放し、よろめく相手の顎を剣で下から切り上げる。
血しぶきが舞い、襲いかかってきた二人は床に沈んだ。
これでも一応は貴族だ。
義手の力を使わずとも、体調さえ万全なら、これくらいの芸当はできるのだ。
「おいおい、元気じゃねえか。毒はどうした?瀕死だって聞いてたのによ」
ボスの大男はそう言いながら立ち上がった。
残るはこいつだけだ。
「こんなに強いなんて、話が違うじゃねえか。冗談じゃねえ」
大男の視線が窓の方へ行く。
窓を破って逃げるつもりか。
大男と僕の間にはテーブルがある。
一瞬で斬りつけるには少し遠い。
案の定、大男は窓へ向かって走り出した。
僕は左手の義手でテーブルを掴み、そのまま持ち上げて振りかぶった。
大男の目が驚愕に見開かれる。
窓から飛び出そうとしていた大男めがけて、ものすごい勢いでテーブルが投げつけられた。
テーブルがバラバラに壊れ、ぶつけられた大男は気を失って床に倒れ伏した。
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