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苦痛の誕生日パーティー
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「本日はお招きいただきまして、誠にありがとうございます」
私は貴族の礼にのっとって、正式な挨拶を述べました。
仮面を被ったまま。
通常、このような場で仮面をつけたままの挨拶は非礼とされているのですが、病が理由の場合はそれを咎めてはならないという不文律があります。
ここは、トライブ様の誕生日パーティーです。
おそらく私はもう呼ばれることはないだろうと思っていたのですが、招待状が届きました。
招待状が届いたからには、理由なく欠席するのは失礼にあたります。
ゴブリン病は確かに難病ではありますが、決してすぐに通常の生活ができなくなるわけではありません。
ただ、醜くなるだけで。
なので、呼ばれたからには出ないといけないのです。
私の顔のコブは日を経る毎に大きくなっていきます。
数も増え、その色も毒々しい紫や緑に変色していっています。以前トライブ様にお会いしたときよりも、私の顔は醜くなっているのです。
仮面の隙間からこの醜いコブが見えてしまっているのではないかと、いつも心配でたまりません。
できるだけ顔が人の目に触れないように、前髪を伸ばしたりして工夫しているのですが、やはり心配になってしまうのです。
できることなら、誰とも会うことがないように、ずっと部屋に籠もっていたいくらいなのですが、そういうわけにもいきません。
貴族ですので、どうしてもある程度は人とお会いする機会があるのです。
今、このパーティーのように。
トライブ様は、私の挨拶に対して、ごくごく通常通りの返答をなさいました。
軽く会釈をして、
「ああ、ありがとう」
と言っただけです。
そのトライブ様の隣には、ベラドンナがいました。
二人は寄り添って、まるで恋人同士のような距離感でくっついています。
いえ、本当に恋人同士なのでした。私はもう、トライブ様の婚約者ではないのですから。
「来てくれて、ありがとう」
ベラドンナが私に言いました。その顔には満面の笑みが浮かんでいます。
いけないと思っていても、私にはその笑顔がとても憎々しい、邪悪な表情に見えてしまうのでした。
私を嘲笑うような、敵意のある笑みに見えてしまうのです。
ベラドンナは私と目を合わせると、トライブ様の腕をとって、自分の腕と絡めてみせました。
トライブ様とベラドンナは婚約者同士なのですから何もおかしなことではありません。
ですが、やはり分かっていてもそれを見る私の胸は張り裂けそうでした。
これみよがしに笑顔を振りまくベラドンナ達を見ていると、私の心がシクシクと痛むのです。
私は私に言い聞かせます。
仕方ないのよ。私はもう、こんな醜い顔になってしまったのだから。
愛される資格なんてない。
だからトライブ様がベラドンナと仲良くするのも当然のこと。受け入れなきゃ。
そう繰り返して、私は自分を納得させようとします。
しかし体は震えるばかりで、声も上ずってしまいそうです。
これ以上お話していると、失礼になってしまいそうでしたので、私は深くお辞儀をしてその場を辞することにしました。
「今日はありがとうございました。どうかお幸せに」
無理矢理に紡いだその言葉は、自分に聞かせるためのものでもありました。
もう私は恋愛の場にいてはいけないんだ、と。
仮面のおかげで、私の表情は外から分かりにくくなっているはずです。
ですが、口元や頬の震えで様子がおかしいと思われたかもしれません。
お辞儀をした拍子に、涙が目から溢れてしまいました。
それを見られないように、私は慌ててその場を去りました。
もっと大きな仮面を被ることにしよう。
もっと、顔全体を覆い隠すような、私の表情をすべて覆い隠してくれるような仮面を。
私の心が誰からも見えなくなるくらいの、大きな仮面を被ることにしよう。
私は貴族の礼にのっとって、正式な挨拶を述べました。
仮面を被ったまま。
通常、このような場で仮面をつけたままの挨拶は非礼とされているのですが、病が理由の場合はそれを咎めてはならないという不文律があります。
ここは、トライブ様の誕生日パーティーです。
おそらく私はもう呼ばれることはないだろうと思っていたのですが、招待状が届きました。
招待状が届いたからには、理由なく欠席するのは失礼にあたります。
ゴブリン病は確かに難病ではありますが、決してすぐに通常の生活ができなくなるわけではありません。
ただ、醜くなるだけで。
なので、呼ばれたからには出ないといけないのです。
私の顔のコブは日を経る毎に大きくなっていきます。
数も増え、その色も毒々しい紫や緑に変色していっています。以前トライブ様にお会いしたときよりも、私の顔は醜くなっているのです。
仮面の隙間からこの醜いコブが見えてしまっているのではないかと、いつも心配でたまりません。
できるだけ顔が人の目に触れないように、前髪を伸ばしたりして工夫しているのですが、やはり心配になってしまうのです。
できることなら、誰とも会うことがないように、ずっと部屋に籠もっていたいくらいなのですが、そういうわけにもいきません。
貴族ですので、どうしてもある程度は人とお会いする機会があるのです。
今、このパーティーのように。
トライブ様は、私の挨拶に対して、ごくごく通常通りの返答をなさいました。
軽く会釈をして、
「ああ、ありがとう」
と言っただけです。
そのトライブ様の隣には、ベラドンナがいました。
二人は寄り添って、まるで恋人同士のような距離感でくっついています。
いえ、本当に恋人同士なのでした。私はもう、トライブ様の婚約者ではないのですから。
「来てくれて、ありがとう」
ベラドンナが私に言いました。その顔には満面の笑みが浮かんでいます。
いけないと思っていても、私にはその笑顔がとても憎々しい、邪悪な表情に見えてしまうのでした。
私を嘲笑うような、敵意のある笑みに見えてしまうのです。
ベラドンナは私と目を合わせると、トライブ様の腕をとって、自分の腕と絡めてみせました。
トライブ様とベラドンナは婚約者同士なのですから何もおかしなことではありません。
ですが、やはり分かっていてもそれを見る私の胸は張り裂けそうでした。
これみよがしに笑顔を振りまくベラドンナ達を見ていると、私の心がシクシクと痛むのです。
私は私に言い聞かせます。
仕方ないのよ。私はもう、こんな醜い顔になってしまったのだから。
愛される資格なんてない。
だからトライブ様がベラドンナと仲良くするのも当然のこと。受け入れなきゃ。
そう繰り返して、私は自分を納得させようとします。
しかし体は震えるばかりで、声も上ずってしまいそうです。
これ以上お話していると、失礼になってしまいそうでしたので、私は深くお辞儀をしてその場を辞することにしました。
「今日はありがとうございました。どうかお幸せに」
無理矢理に紡いだその言葉は、自分に聞かせるためのものでもありました。
もう私は恋愛の場にいてはいけないんだ、と。
仮面のおかげで、私の表情は外から分かりにくくなっているはずです。
ですが、口元や頬の震えで様子がおかしいと思われたかもしれません。
お辞儀をした拍子に、涙が目から溢れてしまいました。
それを見られないように、私は慌ててその場を去りました。
もっと大きな仮面を被ることにしよう。
もっと、顔全体を覆い隠すような、私の表情をすべて覆い隠してくれるような仮面を。
私の心が誰からも見えなくなるくらいの、大きな仮面を被ることにしよう。
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