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愛される日1
しおりを挟むある日のこと。
いつもであればココは昼前くらいまで巣穴で寝て、それから大空へ飛び立っていき、夕方くらいに帰ってくる。
本人いわく、縄張りの見回りらしい。
帰ってくる時に、野菜や肉などのお土産を持ってくることが多い。
神殿にも寄っているらしい。
飛ぶときはもちろん、寝ている時もたいていはドラゴンの姿なので、人の状態の姿を見るのは、起きてから出かけるまでの間だけだ。
別に人型に変化しなくてもいいはずだが、私への配慮があるのかもしれない。
その日、ココは珍しく朝から起きていた。それも人型でである。
なにやら巣の奥でごそごそやっていたかと思うと、テーブルと椅子、そしてバーベキューコンロを引っ張り出してきて外の庭に並べ始めた。
そしてドラゴンの姿で飛んでいったかと思うと、すぐに大きなイノシシをくわえて戻ってきた。
それを器用に爪で捌いて肉の塊にしてしまう。
人型に戻り、
「準備できたよ!さあどうぞ!」
と言って私を呼ぶ。
バーベキューコンロに火を点け、肉を焼き始めた。
私は彼が何をしているかはわかっていたが、なぜそんなことを始めたのかはさっぱりわからなかった。
私が戸惑いながら庭へ出ると、じゅうじゅうと焼ける新鮮な肉の薫りが食欲をそそった。
「なんなの?今日はバーベキューパーティー?」
私は尋ねた。
ココは得意げに笑いながら、
「違うよ!今日はマイアーレの誕生日でしょ?誕生日おめでとう!」
と言ったのだった。
私はすっかり忘れていた。
今日は確かに私の誕生日だ。
このドラゴンの巣に来てからというもの、日付を意識することがほとんどなかったのですっかり失念していた。
しかしココは相変わらずのセンスである。私は苦笑した。
誕生日に、狩りたてのイノシシまるまる一頭の肉でバーベキューとは。
ココの得意げな表情からして、おそらく私が喜ぶだろうと一生懸命考えてこのワイルド過ぎる誕生日プレゼントを用意したのだろう。
さすがに私も彼のセンスには慣れてきていて、その裏表のない好意がわかるようになってきていたので、ズレたセンスもまた愛嬌と感じられるようになっていた。
「ありがとう……」
その素直な気持ちそのものに、私は感動した。
そしてそれを私も素直に言葉にしてココに微笑みかけた。
「嬉しいわ」
「どういたしまして!」
ココはとても満足そうに笑った。
そしてかいがいしく肉を切り分けたり、飲み物を準備したりしてくれた。
席につくと、ココは咳払いをして、なにやら改まった口調で話し始めた。
「さて、今日はマイアーレさんの誕生日です。本当におめでとうございます。今日は誕生日ですが、もう一つ、お伝えしたいことがあります」
「あら、なにかしら」
ココの話し方に引っ張られて、私もついつい芝居がかった口調になってしまう。
「それは、私ココが、マイアーレさんを愛しているということです。ですので、私はマイアーレさんに求婚します」
ココは私の目の前へ来て、膝をついた。
「マイアーレさん、僕と結婚してください」
私は驚いてしまった。
ココの好意にはもちろん気がついていたが、こんなにストレートに表現されたのは初めてだった。
というか、求婚?
もしかして、プロポーズってこと?
「ココ……」
私は二の句が継げず、しばらく黙っていたが、少しして口を開いた。
ずっと疑問に思っていたことがあるのだ。
それを訊かなければ、この先には進めない。
「ココ……。訊きたいことがあるの。いいかしら」
「なんなりと」
「どうして、追放された私を迎えに来てくれたの?いつから、私のことを知っているの?どうして、私をそんなに愛してくれるの?」
ココは顔を上げた。
そして話し始めた。
「マイアーレのことは、ずっと前から知っていたよ。君がまだ、こんな小さな女の子だったころからね。君は憶えていないだろうけど、そのころ、君と僕は出会っているんだ」
ココは、私の腰くらいの背丈を手で示した。
そんな小さなころに?
「ごめんなさい。……憶えていないわ」
ココは私の様子を見て、寂しそうに笑った。
その顔は、町外れの畑から私を連れ去って飛んだ時、あなたはだあれと私が尋ねた時の、あの表情と同じだった。
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