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カフェ〝ユベスク〟の最奥にて
しおりを挟むカフェ『ユベスク』。
約五年前に建てられたばかりのそこは駅から近く、通学・通勤路によく利用される道路に面している事もあり、小さいながらも店はそこそこ繁盛していた。
そんなこの店『ユベスク』には、一年程前から不気味な噂が囁かれていた。
〝店内の右列、再奥にあるテーブル席で好きな人に告白すると必ず振られてしまう〟
〝昔恋人に捨てられた女の霊が憑いていて、幸せそうなカップルを憎み呪っている〟
〝閉店後のカフェの窓から、あの席にぽつんと座る女が見えた〟
などと噂は様々だ。
兎にも角にも、不名誉な噂のたたる席ではあるものの、しかし反対にこんな話もあった。
〝恋人と別れたい時、あの席で話せば円満に別れられる〟
…つまり、必ず別れる呪いがあるなら、むしろそれを利用してやろうぜ!という事だ。
そういう訳で、例の席は今では専ら破局寸前のカップルの縁切寺と相成ったのだ。
───────
「お願いします」
力強い瞳が、こちらを見据える。彼女の黒い眼に映る自分と目が合った。
「貴方にしか、頼めないんです」
握りこまれた手が冷たい。
人のそれとは思えない温度に、改めて目の前の存在が全くの異形である事を悟った。つう、と汗が額を伝う。
「どうか、私に…」
「恋を、見せてください」
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