池の騒ぎ

夏鶴 里愛

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一週間

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 キーンコーンカーンコーン
今週最後の授業のチャイムが鳴ってしまった。
月曜日にラビちゃんが言っていた変わった事が起こらずに……
 強いて言うなら告白に息張ってた橘さんが二日休んで、三限目の今日早退したことぐらいかな。無欠席だった彼女が休む事も変わった事の部類に入るのだろう。振られたショックかな? 涙も流していたし……
けれどラビちゃんがいちいち言ったと言う事はこんな事では無いと思う。
ガラッと音がし、扉を見ると池田先生が入ってきた。
清々しい顔してるなぁ。
「おーい席につけぇ。今日はみんな待望の道徳だ。内容はザックリいうと異性とのやり取り、相手を傷つけないコミュニケーションだ。p67を開い―」
「センセー!それって体の関係の事ですかー?」
 クラスが一体となって笑う。
途端に内蔵が持ち上がる感覚を覚える。その感覚に驚き胸に手を当てるいつもより早い心拍が不快感を増していく。
「高崎~。お前はそういうことしか言えねぇのか?」
 またクラスは測ったかの様に笑う。けれどその声が遠い。
 まるで海中にいるかのよう笑いが泡となり消える。周りを見回すが誰もかもみんな笑ってる。なんでそんなに笑ってるの? 何がそんなに面白いの?何かが変……でも何だっけ。 
 唾液が増え、汗が頬をつたる。頭はガンガンなり、息が…しづらくなる。
考えるのは…辞めよう。そうだそれより変わった事ってなんだろう。
有名人が来るとかかな、エキストラ募集してたらやりたいな、なんてね……良かった。少し落ち着いた。
 ラビちゃんは、ラビちゃんは何してるんだろう。彼女も笑っているのだろうか。
斜め前にいるラビちゃんは何かを考えている様にシャープペンを机に当てコツコツ音をたてている。
その音と共にクラスが静かになっていく。
コツコツン、コツンコツコツ、コツンコツコツンコツン、コツコツコツンコツンコツコツ…
止んだ。静かになったクラスに余韻だけが残る。
先生はポケットに手を入れヘラヘラとラビちゃんに近づく。
「ラビッド~何か思いついた事でもあるのか?」
「ふふっ池田先生もそう呼ぶんですね。まぁ、私というよりはギーズの意見がまとまったみたいですけど」
「ほう」
  クラスはギーズくんを見る。
 ギーズくんはラビちゃんと違い癖のある茶髪で背が高い。みんなが理想とするものを大体持っている彼を、みんなはイケメン宝庫と呼ぶ。
そんなギーズくんは意見を述べる。
「一般的に、女性と男性の体が違うように
思考、行動などのパターンが違います」
 「おー」とクラスが反応する。
「女性は感情で、男性は理性で動くことが多いですよね。こうすると決めた事は曲げない男性に比べ相手を思い決めた事を簡単に曲げれるのは女性です」
 「おー」高崎や翼が盛り上げていく。
「どちらも素敵な性質だと思いますがどちらも極端で、女性が感情九理性一で動くならば男性は感情一理性九で動いてると俺は思います。」
「確かにそうかもな。流石だな」
「なんか腑に落ちない」
「それなー」
「さすがイケメン」
「ふぅーカッコウィー」
 ガヤガヤとし始めるクラスを先生が納めようとする。
「しかし―」
 と、今度はラビちゃんが話し始める。
まるで何かを訴えるように先生だけを見ながら。
「九匹の野犬を一つの縄で抑えてる女性と一匹の野犬を九つの縄で抑えられないのもまた男性ですけどね。だから「理性が飛ぶ」なんて言葉がありますもんね。記憶にありますか、先生?」
 急な質問に先生は顔を歪める。
「なんの事だ」
「先週の金曜九時頃、先生はある行為を二丁目七番の通りの裏で及んだはずです」
「確かにそこを通ったが…何でそんなことを知っている?」
「以前、橘さんに貸してもらった本を返しに少しばかし遅れて届けに行ったんです。その道中2人がいるのを見たのですが、よく見えなくて……その時、橘さんのうめき声が聞こえてきました。何かあったんですか?」
 見覚えがあるような感覚に冷や汗が流れ息がまた荒れ始める。
「あ、あぁ進路について相談したいと言われてな。話してるうちに泣いてしまって」
「進路なんか……琴音は進路なんかで悩んでないよ」
 弱々しく吐くその声は谷口さんだった。 
「琴音は先生のこと好きで、先週の金曜思いを伝えるって意気込んでた……のに電話しても出ないしラビッドに聞けばわかるってメールで……」
「ラビッドは知らないみたいだが」
 喜びの籠もった言い方とは裏腹にラビちゃんは不思議そうに話す。
「知らないとは言ってませんよ。私は見てないだけで、だから先生が「理性が飛ぶ」や「俺が好きならこれは許せ」などという言葉は聞こえてきましたが?」
 クラスが騒ぎ始める。小さな悲鳴を上げるもの、クラスを出ていくもの、携帯を構えるもの……
 私はただこめかみから聞こえる脈をボヤッと耳に入れながらラビちゃんの口元を読み取ろうとする。
「「私は見てない」というと……?」
「2人が見えたのにやってる事が見えないと思いますか? 見るに耐えなかったのでギーズに録画は任せました」
「録、画……」 
 目を見開き息を飲む先生にギーズは近づき画面を見せつけながら笑顔で発する。
「レイプ」
 その言葉はどんな刃よりも鋭くどんな言葉よりもハッキリと私を貫いた。止まっていた時間が巻き返し、何もかも思い出す。体は冷や汗と震えでどうにかなっている。私は……私は――
「あ゛ぁ、あ゛あああ゛イャややぁああああぁイヤあ゛あッあぁて…てめぇらがぁッ…身勝手なぁああ゛」
 頭を抑え机や椅子を倒していく私に誰かが来る。
「大丈夫、大丈夫だから。梓、顔を上げて。私を見て」
 半分強引に顔を捕まれ「離しやがれ」と叫び藻掻く。
充血した目を前にいる奴に向けるとそこにいるのはラビちゃんだった。涙を流してる。
ラビちゃんは私を引っ張り抱き締めてくれた。目元から熱いものが流れる。膝から崩れる私をラビちゃんはそっと支えおろしてくれた。しばらくそうして落ち着くとギーズくんが喋りだす。
「レイプは人の純粋な心を蝕んでこびりついたシミのように剥がれない。池田――先生とはもう言えないな。池田は罪を犯した。その代償、知ってますか?」 
 息を整え池田に近づき肩をポンポンと叩く。
「股間から頭が生え、上の頭は切断されます。痛みはあるので大丈夫ですよ。ちなみにこの代償は地獄に行くまでです。地獄に行ったときの代償は後で知らせます。テメェの罪の代償とっとと払いやがれ」
 言い終わるが早いか先生の頭はバキッと骨の折れる音と共に粗末に落ちる。落ちた頭は目が見開き髪も急激に白くなる。脚の間からはブチッと肉が裂ける小さな音がし、顔が出て来る。間抜けな悲鳴を上げながら。
 クラス中が悲鳴を上げる中一番悲惨な悲鳴を上げるのもまた、池田だった。
「ぐぶふっうぐあ゛ぁああ゛あ゛!!クッギィっかぁッぁっぁあああ゛っくガガああ!」
 少し大きめの悲鳴が後ろから聞こえる。振り向くと高崎にも同じ事が起こっていた。人間の叫び声には似つかない、しゃがれた声。変な生物を眺めている感覚。
池田と高崎はどこに向かっているのかもわからず手を伸ばし走りまわる。
「ゆる、ゆるぅ゛しでぇぐれぇ゛えええ!」
「キャぁああ来ないでぇくるなァァァ!」
 床は嘔吐や涙、唾液などで汚れ池田や高崎の血涙で濡れた。
まるで隔離されたかのように誰も来ない。
この光景にざまぁねぇと思う気持ちと終わってほしいと思う気持ちが混沌する。気づけば頭が普通にまわってる。不思議に思っているとバタンと鈍く倒れる音がする。床には倒れた池田と高崎がいた。
が、その様子は普段と変わりない二人だった。
床の血涙は消え、恐怖し怯えた生徒の嘔吐などが残っていた。
「悪夢だ! こんなの現実じゃない!」
 翼が叫び散らし、ギーズくんの胸ぐらを掴み吠える。
「お前ら何したんだ! 何か仕掛けたんだろ」
 唾を飛ばされギーズくんは翼のネクタイで顔を拭く。
「嫌だな、俺らはそんな小細工しないよ。ただ、代償を知らせただけじゃないか」
「代償?」
 学級委員のモッカが聞く。
私はラビちゃんに礼を言い支えてもらいながら立ち上がる。
「人間、法に逆らえば法に裁かれるように定めているが、定めてるのは所詮人間だ」
「何が言いたいの?」
「もっと身近で例えよう。俺達が水道を使えば請求書が来るよな? じゃあ俺達が使ってる目は、鼻は、口は、耳は、脚は、腕は、使って使って使いまくってるのに請求書はなぜ来ない?」
「動くことが当たり前だからじゃないの?」
 モッカが苛ついている。この現状を理解しようとしている中、訳のわからない質問攻めにあっているからだろうか。
「当たり前、か。じゃあ今死んだらどうする。当たり前なんてすぐに消えてくもんだ。心臓発作で死ぬ、ショック死、過労死、事故死、震死様々だ。動かなくなったらどうする。それで終わるとでも?」
「私達は私達自身のものだから!」
「じゃあ死んだら「起きようまだ生きたいし」なんて言えるのか、そんな――」
「もういい。知らないよそんな事……わかんないんだよ何もかもぉ……学級委員だから場を納めようとしたのになんで、私がっ」
 モッカは憔悴しなだれ込む様に椅子に座った。
「俺だって知らないよ。知ってるのはこれが絶対に起きるという事。その前に知らせただけ」
 ボソッと呟くギーズくんは叱られて落ち込んでいる子供の様な顔をしていた。
 キーンコーンカーンコーン
タイミングよくチャイムが鳴り教室を出た生徒が校長と戻ってきた。
「警察に通報しました。が、なぜ先生は倒れてるんです? 高橋くんも」
「これが証拠です。よかったら持っていってください。高崎は貧血です」
 携帯を校長に渡し首をポキッと鳴らす。
「あぁ、ありがとうギーズくん」
 気味が悪いとでも言うように周りを見渡し言葉を選ぶ。
「えー、なんだかわかりませんが他の生徒に危害が及んでなくて良かったです。担任の処分は後々親御さんに伝えられるので、今日は解散してください。さようなら」
「さようなら」
 鞄を持って帰るクラスからは気力が抜けて見えた。一部を除いて。
「モッカ―、つぅばきぃ、来週の水曜学校サボっていつもんとこ行こうよ」
ジャンプしながら結菜が椿とモッカのとこに走る。
「いいよぉ」
「ごめん。私は休みたくないかな。テストも近いし。気持ち整理したい」
「お願い」
 手を合わせ頭を下げる結菜は笑っていた。断れないのをわかっているんだろう。
「そうだよ。どうせ休校になるって」
椿も携帯を見ながらお願いする。
「じゃあ休校になったら十二時半にいつもんとこ集合。ついでにカラオケも行くこと」
「何ちゃっかり決めてんの。まぁいいや、じゃぁいつもんとこでダベってカラオケゴーってことでオケ?」
「オッケー」
「じゃあそんときねぇ。よるとこあるから。バイ」
携帯をしまって走っていく椿に結菜は嫉妬をしながらも手を降っている。
「彼氏かぁー。いいなぁー。いつか拝んでやるぅ」
「じゃあうちらは帰るか」
「ちぇー」
しょげてる結菜の頭をモッカが撫でながら二人で教室をあとにした。
「よく今の出来事の後で言えるね。」
 ぼそっと独り言を言うとラビちゃんが近づいてきた。
「気分はどう、落ち着いた」
 顔から心配しているのが伝わる。
「うん。さっきはありがとう。でも、あれは何。どうやってやったの」
「気持ちの整理がついたら話すよ」
「私のならもう大丈夫だよ」
「お互いの」
 少し無理してもこの二人には見透かされるのだろうか。
「じゃあ休みに会おう」
「うんそうしよう」
「俺は遠慮しておくよ」
「わかった」
「もしかして男一人は嫌だから」
 少し鼻で笑って聞いてみる。
「うん、そう」
「素直でよろしい」
 そう言うと三人で笑う。良かったこの二人が友達で。この友情だっていつ壊れるか……何をしてもこの関係は守るから。絶対に。誰にも壊させない。
「二人とも本当にありがとう」
ニカッと笑うギーズくんと微笑むラビちゃんはやっぱり双子なんだなと思わせる。
「つーか呼び捨てでいいよ」
「ギーズとラビッド」
二人はオッケーポーズを同時に出すとバシッと蹴りあった。
訳のわからない行動に笑いがこみ上げる。「本、当に中いいね」
「梓も加わって。トリオでやってるから」
 そう言うとラビッドは蹴ってくる。ギーズは軽めにパンチしてくるので手を捻ってやった。ラビッドにも蹴り返す。その様子に驚いた二人はお互いを見合った。
「何か習ってたの?」
「護身用に自分でちょっと……どうせ話すよこれも」
「わかったそれじゃ後で」
「またね」
 一人になると、もやっとしてくる。空間が一人用に圧縮してくる感覚。それをかき消すためしりとりをしながら歩いていく。
「さっきみんなでしりとりすれば良かったのに」
くだらなくなり呆れるも、トリオという言葉に舞い上がる。本当にありがたいな。中学の時もそうだ。すんなりと受け入れてくれたのは二人だった。考えると心が浮つく。話題を変えよう。
 そうだ、夜ご飯どうしよう。魚にしようかな。
 スーパーに行き、魚を眺める。魚の中にほしいものを見つけガバッと手に取る。カジキマグロォ、アイシテルヨ。キスしたいのを抑え豆腐を取りに行く。これなら明日の朝も食べれるだろう。大食いでも無い限り。
 家に帰り、なんちゃって魚入り麻婆を作る。麻婆と言っても似てるところは豆腐が入ってるぐらいだが……
牛肉が苦手な私からしたら最高の一品。カジキマグロを買えたことに感謝。
静かな部屋にいい匂いと音が響く。急いでテレビをつけ、賑やかにする。今回はアクションとギャグを交えた作品。
へっへっへっと笑っていたもののアクションには必ず悪役を倒すシーンがある。
そのシーンを見てふと思った。
「そっか悪い奴って遠慮なく潰していいんだっけ。なーんだいいんじゃん。って言うか私が直接暴行しなくてもラビッドとギーズから教わればいいわけだ、あれを」
 ふっはははははぁ無気力に笑うつもりが笑いがこみ上げお腹から出る声に身を委ねる。ははははははあはははははぁ。
「くっだらな」
 残った魚を頬張りながらたまに出るギャグに鼻で笑う。赤味が抜けた血を垂らしながら。
 自殺しなかった事に感謝。

 二日後、ラビッドから連絡があり明日の十二時にデパート内にあるワンダフルワールドと言う店で合うことにした。ラビッドは体調や気分を聞いてきたけど本来泣きまくるのが正常なのだろうか。
「わからないけど空気って見えないし重さって感じないでしょ」
「うん」
 反応してくれる友達に温もりを感じる。
「でもね、重みがあるの。真空ってこんな感じなのかなって感じ取ったり、音は耳に届くのにそれが波紋のようにでももう少し凝縮したような不思議な感じ」
「波動……かな?」
「そう、多分そう。その波が見える感じ、なんだと思う?」
 少し間を開け彼女は口をゆっくり開ける。表情は悔しそうにも見える。何故だろう彼女が開ける間と呼吸で彼女が目の前に座っているように見える。ギーズもソファー越しに突っ立って悩んでくれてる。自分が見てる光景に少し驚きながらも彼女の言葉を慎重に聴いた。
「申し訳ないけど今は、なんとも言えない。月曜日、話を聞いてから感じ取ったことを伝えるよ」
「月曜日って明日だけど……」
「あっ、もうそんなに時間過ぎてたの。そう、だったらまた明日と言うことになるのかな」
「うんそれじゃあまた」
 電話を切ると目の前の光景もフッと消えた。携帯を見つめる。ラビッドがボケるなんて珍しい。彼女も人間、ボケることもあると言うことかな。逆にボケるほど疲労をしたり睡眠を取らなかったか。さっきの出来事も気になるけど……
あまり考えないようにしよう。聞けばわかる話。まぁ、ラビッドの違う一面が見れた事に感謝。
 日課の読書に目もくれず、ベッドに入り眠りについた。
 月曜、午前十一時三十分。少し早めに来てデパート内を周る。来るのは一年ぶりだろうか。この時もラビッド達と一緒に来た。
 見て回るのは一緒に出来るが今日は目的がそれじゃない分、少し観察する。
 気になるのは私達の待ち合わせ場所の名前が話す内容とかけ離れていてラビッドらしくないという事。
「ワンダフルワールド……ワー、ワ」探していると視界に指が入って来た。ビックリして固まる。
「その店、素敵よ。三ヶ月で一回コンセプトが変わって、行くときにワクワクしちゃうの」
 知らない声。でも馴染みがある。そっと振り向くと美人な女性がワンダフルワールドの場所を指しながら私を覗いていた。距離が近い。
「あの、知り合ってましたっけ?」
 少し明るめに困った感じで聞く。初対面で暗めに出るのはあまり印象よくない。
「あぁ、ごめんなさい。最近戻ってきたばかりで距離感つかめなくて。私そこの店長と知り合いなの。アイラがワンダーラビッツにいるって言うといいわ。割引してくれる。それじゃまた」
 話している時の素振りの大きさが外国に長くいる事を主張している。軽くお辞儀すると去って行った。去る姿はモデルをイメージさせる。きっとその業界にいるのだろう。
 海外活躍中かな、実力はある。じゃなきゃあんなに胸張れない。ただの性格かもしれないけど。声、誰かに似てる。でも誰?
 まぁいいや。変わった風景を見れた事に感謝。
 やっぱり待っていよう。一緒に見た方が会話も弾む。腕時計を見ると十二時に後、七分ある。来るな、そろそろ。
「待った? いつから居るの?」
 少し息を荒げているのは私を見て小走りにでも来たのだろう。ごめんねを言わないのは私もラビットも集合時間より早く来たから無駄を省いたのかな。理解のいい友達がいる事に感謝。
「行こっか」
「うん」
 ワンダフルワールドに付いて期間限定パフェを食べていると出来事が起こった。起こったというより起こした。それで知る事のできた人脈や自分の今の状況の理由など沢山考え見出した答えは美しく、向かう先々の照明や匂いが私が存在している事を証明してくれた。
 中学について話し、先週の事について話し、これからについて話した。話すと言っても紙を渡された。
「これには多分梓も行った罪が数個あると思うの。だから家で見て。」
「ここで見たら気絶しちゃうからか」
 そう言うとうなずいてくれる。
「それに言うのとは違って、見るから一度に起こる数も違う。気絶しちゃえば見れないからね。明日はそれに使うといいよ」
「わかった。じゃあ水曜日、締めは任せて」
「うん。任せるね」
 約束を交わし、合流したあとで家に帰った。急いでシャワーし、髪を乾かす。
紙を手に持ちベッドに座る。見ようとするものの手は震え、走った後のように心臓は打つ。そりゃ池田と高崎の事を見たら今からやる事は自分を一時的に殺す事。
 池田は……高崎は自分のやった事を理解しただろうか。
ガタガタと風が窓を叩きつける。風の音だけが部屋に響く。
 私も、その様な罪を知らずにやってしまっているのではないか。誰かを傷つけていないだろうか。
 やだやだやだやだやだやだやだやだ怖い。だったら確認するしかない。バッと開いて枕で文字を隠す。最初の文字だけを開き何個あるか確認する。
 二十個か……水曜は一時半に行かなきゃいけない。気絶してる時間も知らない。でも私がやった罪の数も知らない。だったら意外と間に合うかも。
ゴロゴロと曇天は調子を上げ、窓に風を向かわせる。ガタンと音がしたあと異様な静けさが襲う。
 深呼吸し私は紙を開いた――
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