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酒は飲んでも呑まれるな

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「ねえツェーン。」

「…はい。」

美しい大輪の薔薇が咲き誇るガーデンテラス。パパラチアとツェーンは二人して紅茶を飲みながら頭を抱えていた。

「私達、もうお酒を飲むのはやめない?少なくともどちらか一人は正気を保たなきゃ。そうしないと十八と二十一という若さで隠居生活を送ることになるから。」

「そう、ですね…今回のことで身に沁みました。次飲んでしまったら無人島で暮らすなんてことになりそうっすね…」

そう。テーラー夫妻の葬式の時、二人は祝杯を挙げて見事に酔っぱらい…無事伯爵領での生活が始まったのである。

この二人、普段は何でも完璧に物事を進めるのだが…一度酔いが回ると数日は使い物にならない。そして頭のネジが二、三十本ほど吹っ飛んで爆発してしまうのだ。
そしてネジが全て元通りになるのは大体三日後あたり。それが今日である。

パパラチアに家族はいない。親族もいない。それに加えて彼女は社交界デビューも成人も済ましている。それも相まって彼女を止める者は誰もいなかったのだ。

いつもならばパパラチアの暴走は長年の付き合いであり、彼女に対して唯一抑制することができるツェーンが同じく暴走していたのだ。こうなったら気の済むまで暴走させようという使用人たちの気遣いである。決して、決して面倒とかではない。ええ。決して。

「で、これからどうします?使用人は最低限の人数しかいませんし、王都の邸宅は売り払ってしまいましたよね?」

「ええ…本当に三日前の私をポコパンにしたいわ。」

「反省はしないんですね。」

「反省も後悔もしてないわ!」

「はい、いつも通りで何よりでっす。」

見ての通り、パパラチアは花も摘めないような可憐な外見に反して適応能力が高いのだ。恐らくツェーンが言ったような無人島に身一つで投げ込まれても生き抜くことだろう。

「いや、今回ばかりはさすがのラチア様も落ち込むかな~って思ったんですけど、杞憂でしたね。」

「まあ?少し早い隠居生活だと思えば問題ないわ?ね?」

「ラチア様にとって約六十年は少しなんですね。わかりました。」

「…とにかくいいの!ほら、こんなにもいい香りの薔薇に囲まれているんだもの。楽しまなきゃ損でしょ?」

そう言って彼女の髪色と同じ深紅に花弁を染め上げた一輪の薔薇を手に取り鼻に近づけ香りを楽しむ少女の姿は一枚の絵画のように美しかった。常にパパラチアの傍に居たツェーンでさえも見惚れるほどに。

「…いつもこれくらいしおらしくしていれば可愛いんですけどねぇ。」

「なによ?何もしなくても私は可愛いでしょ?」

「はいはい。ラチア様は可愛くて綺麗で可憐ですよ~。」

紅茶のお代わりを持ってきます。と言って屋敷へと足をを向けたツェーンには分からなかった。パパラチアの頬が瞳と同じくらい真っ赤に染まっていたことなんて。
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